76 ま、まあ悩んでも仕方ないからね。
読者の皆様どうもこんばんは。そして毎回更新が遅れていて申し訳ないです。
さて、今回は結構面倒くさい話しです……そして伏せんが色々出てきます。そう言うの好きでない方々、すいません。多分今回終わったらそういう回は暫く出て来ないと思います。それでは本編どぞ!
……さてと。まずは報告だな。
「ごめん、この後少しいいかな?」
「ああ構わんが…どうした?」
気遣う様に私の顔を覗くヴィンセント殿下………この頃身長が伸びて私を見下ろす様な状態となっている。それだけで無く体格も最近男性らしく筋肉が程よく付きつつ有り、顔つきも幼さが抜けて来た。
やはり男の子だけあって成長すると変わるものだ。
……などと彼の成長を近所のおばさんぽく一瞬観察していたが、直ぐに切り替える。
そして株主総会で決定した件を話した。
「それは……だが、嬉しくも有るな…だけど、そうなると……いや…しかし、嬉しいのだが……あ、いや、旅の妨げに…だが……」
案の定少し複雑な顔をしていた…つか、混乱?迷走?し出して何か先程からブツブツ言っている。
……はっきり言ってその様は不気味印である。
まあけど…分からなくはない。
これで次期王と王妃としてお披露目されてしまえばこの国を出るには駆け落ちする以外方法が無くなってしまう。
そうするとまず影響受けるのはラウツェンスタイン領。
王族に連なる者に手を出したとして良くて降格、下手をこけば没落後処刑等、悪い未来しか浮かばない。
けど王子としては、私のエスコートをするという念願が叶うのだ。
以前彼の誕生日の舞踏会に呼ばれた時、私は近寄って来る彼を拒絶して、私自身の従魔達に身を守らせた……特にジャンクリには私のエスコートを頼む事で誰も私達に近寄れない様にした。
あの時はまだ不確定要素が多かった事の他にも色々抵抗があったので仕方が無かっただろう。それに王子自身も今みたいに有る程度良識が遭った訳でもなかった。
あんな場で私にアピールしたら、5つある公爵家の1つでありその筆頭である我が家であっても他の家の連中から何かしらやっかみを買う。
…その事をまず分かっていない時点でお断りだ。
まあそれ以前に王子のスタンスが好きではなかった頃だし、それに乙女ゲームの補正が掛かる事を危惧してなるべく近くに居る攻略対象者を避けていた頃だったからね。それ以外にも第一印象最悪とかキラキラ属性がうざいとか色々要員はあったけど。
勿論今は違うけどね。ちゃんとアレから成長して色々と学習した訳だし今更過去を掘り返すつもりも無い。
それともう1つ……現実的に本当に彼と将来結婚するかどうかって話し。
今回舞踏会で彼にエスコートを頼んで一緒に何度か踊れば、間違いなく結婚する事になるだろう。貴族とは面倒な生物で、婚約は中々な解消出来ない物なのだ。
けど、婚約しているのはあくまで我が領に彼を避難させる意味も有る。
その上………彼と結婚する事となると、それは前世で私が拒否して来た“近親相姦”を書類上する事となる。
まあ此方の世界では地球に居た頃と比べてその制約も薄いので世間体とか気にならない上(普通に兄妹同士の結婚が有ったらしい…)、王子と私の血縁は実を言えばかなり離れているので問題無いと言えば問題無いけど。
私の母親は書類上だと国王の妹となっているのだが、実際は好色な先々代国王の従兄弟が76歳の頃宮仕えの1人に手を出した事で生まれたのだ。
本来なら庶子として扱われるはずだったが、残念ながら母の髪は生まれた頃純粋な銀色……王族の特徴を露骨に持っていたので放置出来なくなってしまったのだ。
その結果、先代国王も色狂いだった事も手伝い母は書類上現国王の兄妹となったのだった。
しかし……古き時代はそうでもなかったらしいのに、現国王になる以前の王族達は2代に渡って目に余る程下半身が随分と緩かったらしい。
そして当然そんな夫に愛想を付かして浮気している側妃も多く、明らかに王族とは違う血を引く子供も見られたそうだ。
……実際現国王の本当に先代の子供なのか怪しいと言われており、結果的に王族の血を引いている事が見た目と魔力の質で分かるから即位出来たと言う背景が有るくらいだからな…
まあそんな事情から、私とヴィンセント王子を正しい家系図で調べれば互いにかなり遠い親戚関係となるのだ。
そしてそんな経緯から、私としては倫理観と世間体両方の面からも別に悪くないと思っている。
その上で、彼に対して少なからず私は思いを寄せつつ有る事をこの際認めよう……理屈は特にないが確かに彼の事を異性として好いていると言える。
少なくとも同衾出来る程には心を許している。
それに彼も前述通り、私の事が好きだ。これはうぬぼれとかではなく完全に彼が言動両方で示してくれたので分かっている。つか、あれ程露骨ならばどれ程鈍感であろうが多分気付くだろう…と思う。
そして最近ウォルターを除けば1番一緒に居て何故か落ち着く相手となっている。なので、きっと伴侶として並ぶにはふさわしい…いや、理想的な相手なのだろう。
浮気もないだろうし、優しくて案外思慮深い可愛げの有る少年……でも何より生涯互いに大事に出来る関係となるだろう。
……けど、私は彼にプロポーズされたとしても『はい、分かりました』とは答えられない。
何故なら心の中には既にずっと好きで忘れられない相手が“前世”から居るのだから。
私は確かにルーナとして生を受けて此方ではルーナとして生きている。だが、だからと言って『本郷由樹』としての自分を100%捨てられたかと問われれば、それは違うと答えるしか無い。
結局の所、前世好いていた男が忘れられないのだ。
そして彼は転生後も私の事を忘れず、引く手数多だと思うのに何年も待っていてくれた……独身で、誰にも身を任せず。
もし逆の立場だったら、私は耐えられただろうか?
愛しい相手と世界も次元も何もかも別々となり、相手と再び相まみえる事確証が無い中同じ相手をずっと思い続ける事………どう考えても途中で挫折して忘れるか、気が狂ってしまうだろう。
彼はそれを何千何万年単位で耐えたのだろうか?
詳しくは辛そうな顔をするのでいつも聞けずにいる……本人は気丈に笑って今が良ければいいといつも話してくれるのだが。
そんな状態だし以前から執着心も男性に珍しく強かった……だから本当なら私を他の異性から遠ざけた上で今直ぐにでも肌を重ねたいだろう…少なくともそんな事はとっくの昔に察している。
前世を含めれば既に20年近くの付き合いになる訳だし、そもそも彼とはタッグを組んで仕事をした事が多かった関係から阿吽の呼吸が出来る程の仲だ。
きっと今直ぐにでも許可が出れば手を出したいだろう。
けど、今もずっと耐えてくれている……私をおかずとして自身の性欲をコントロールしているのは既に知っているけど、ご愛嬌だ。
それにそれは王子もまた然りな訳だし………男だから仕方が無いのだろう。
まあそんな分けで私を今世でも大事に思ってくれているのだ。そして私も彼の事が好きだ。
しかしこれも何だか違う、これだけでは決定的に決められない……そんな思いがあるのだ。
ああ私の事をビッチだとか卑怯だとか思ってくれても構わないよ…私自身自分がこれ程矛盾しており面倒くさい女だとは思わなかったからね。
私は王子へ報告しながら、ジャンクリに今回の件を報告した時の思い詰めた様な切ない表情を思い出し、胸が締め付けられる思いがした。
……ただ、最終的にどんな選択をしたとしてもきっと2人を傷付ける事になるのだろう。
けどその決断は一刻一刻と迫って来ているのは分かっている。
後悔しない様にしようとは思う。
………………(???)………………
……また胸が苦しい。
何故か分からないが苦しい…真綿で締め付けられる様な、巨大な岩を飲み込んだ様な……
痛い。心が痛い。
そして痛みがする度に何故か身体が寒くなる。
心も寒くなる……まるで大事な者が手から滑り落ちていくみたいに。
嫌だ。
……どす黒い、この世の物とも思えない様な汚れた獣の様な感情が浮かぶ。
同時に浮かぶのは、愛しい女が自分の下に組み敷かれる場面。
“………ああそうした方がいいのかな?”
“そうすれば俺以外お前は見えなくなるかな?”
……駄目だ。
そんな事をしたら彼女が悲しむ。何より彼女が彼女のままで居なくなってしまう。
俺が大事で独占したいのは彼女の全てだろう?
ならば、彼女が壊れては意味が無い。彼女が壊れたら全て終わりだ。
それに前科が俺、いや、俺達にはあるんだからそんな事をしたらだめだ……今度はちゃんと一緒に幸せになりたいんだから。
“今度?”
………………俺は一体何をしたんだ?
いや、それよりも………俺は…私は……“誰”?
………………(???)………………
……一瞬“何か”が私から抜け出た感じがした。
…大事な、失っては行けない“何か”が。
そう思った途端、不安や怯え等の負の感情が胸の中を駆け巡った。
そうしてこの負の感情が私に甘言を囁く……
“失うのが怖いなら、束縛して監禁すればいい”
“手元に置いておけばいい”
“奪われるのが怖いなら、奪う相手を破壊すればいい”
“邪魔者は殺してしまえ”
“相手が振り向いてくれないなら壊してしまえばいい”
“君の世界は私だけで十分”
“私達にはもう、後が無いのだから……ザザッ…い、ま……”
呪われた様に紡がれる私自身の欲望を必死に振り払う……同時にこれが私の真の望みだと思うと恐ろしくなる。
“そうだ……愛する彼女から、彼女の最も愛するものを奪う事が私の望み”
知りたくもないそんな私のどす黒い欲望が私の心を一瞬蹂躙する……それはとても甘味で、だが同時に今の明るく色づいた世界を黒と灰色の寒々しい世界へと塗り替える。
その瞬間私の目に映ったのは、大理石の冷たい床の上へ崩れ落ちる愛しい女の姿。
駆け寄るといつか見た夢の様に、短剣が手に握られ大量に血を流していた……どうみても助からない致命的な量の血を。
そして、私が近寄ってももうその瞳には私を写してはくれない……
“嗚呼アアアアアァァァァァァァァァアアアアアアアア!!!!!!!!!!”
闇夜を切り裂く様な悲痛な叫びが頭を駆け巡る…同時に彼女を死に至らしめた“自分”を呪った。
その直後、私は飛び起きた………慌てて天井を見上げ、布団の感触を確かめ、全て夢だった事を悟る。
ただ、次の瞬間どんな夢を見ていたのか思い出せなくなった……まるでその記憶に靄が掛かった様な…
まるで幼少期、孤児院で過ごした時期を詳しく思い出そうとした時と同じ様な吐き気を催す様な頭痛に襲われる。
ああ不安だ………これで何度目だろうか?
私は今とても幸せなはずなのに…この幸せの中にまるで一点だけ呪いが掛かっている様な不吉な感じがする。
いつか、***を壊してしまう様な…そんな予感が……
………………(end)………………
あれから私は着々と王家の開く舞踏会に向けて準備を進めていった………勿論『貴族』、『商人』両方の面で。
残念ながら悩んでいる暇何って無い……やる事が色々有るんでね。
分身も使えるから他の人より多分楽出来ているんだろうけど、それでもその分使えない人達と比べて抱えている仕事量が半端無いので楽じゃないです。
いや、よくそうは見えないって言われちゃうんだけどね……例えば私の分身体の一部は常に訓練している所を見てとか。
けど身体を鍛えるのは冒険者やるなら常識だよね?
まあ、今はあくまで対外的には『趣味=冒険者』と言う事になっているそうだから仕方が無いと言えばそうなるけどさ……いや、良く別の貴族と領内で会うと酔狂だって言われるよ。
……言っている相手がヒョロかったりメタボてったりして不健康だけど何も言い返さないけどね…うん、心の中以外では。
まあその話しは一旦置いておくとして。
そうそう、私が現在忙しい主な理由だけど、別にマナーやダンスのレッスンで苦労している訳ではないんだよね、これが。
私が今取り組んでいる事は、交渉事。
何と今回の舞踏会……王宮が『ルナライト社』へ企画全てを一任したのだった。
王宮の掃除が終わっていないので信頼出来ないと信頼出来る使者(宰相とか言うパシリ)が目の下隈子になりながら言っていた。
はじめ我が家に王宮から使者が来た時は何事かと思った。だけど、この話し聞いて予想の斜め上過ぎる案件に思わず紅茶を吹きかけた。そんな私の驚きように相手も苦笑していたけどね。
けど、任されたからにはしっかり利益を上げた上でちゃんと皆さんがなるべく満足
出来る様なプランを組みますとも。
“そう言うの”に結構前世も憧れていたから実は楽しみだ。
使う料理やその素材、そして食器。それから王宮のダンスホールの清掃やデコレーション。
警備体制も王立騎士が王子の一件以来信用出来ないとの事で任されているので、責任重大だ。まあこの辺は実を言えば心配ないのだけどね。
……今回は少々危険な精霊数名にも手伝ってもらう事にしたので。
寧ろ私が気になるのは別件。
今回招待されている客の中に実は『ピオトレ男爵家』が来る事だ……つまり、監視し続けているヒロイン様が来る訳だ。
そんで、大体同世代なので恐らく接触する機会はあるのだろう……私が仮に避けたとしても。
今回接触するとして、どんな影響がでるのか。彼女の存在によって補正が働く様な出来事が起こるかどうか。
色々と不安は有るが、これは決定事項なので仕様がない…当日になってみなければ分からないが一応万が一の為に国外逃亡√の確保とルナライト社へ私がどろんした場合の指示は既に済ませてある。
……多分大丈夫だろうけど…『分身体』からの報告書を読む限りはね。
そして、それ以外に気になる事と言えば、舞踏会の間のラウツェンスタイン領の防衛。それと、暫く、具体的には1ヶ月程冒険者稼業に勤しめない事。
どちらも私にとっては大事な事だ。
まあ、分身に両方任せる事は可能なのだが……それでも本人がいないと駄目な場合も有るため正直不安だ。
それに、分身体にはあまりハードで責任重大な案件は任せられない。何時消えるか分からないのだし。
それこそふとした瞬間魔術式に使われる魔力が切れて消えるかも知れない。
そうなったら……例えば冒険者として護衛任務をしていた場合どうなるだろうか?護衛対象を、護衛を要する様な場所で放置する事になるわけで、それがどれ程危険な事かは言うまでも無いだろう。
或は領の防衛を任せた分身体が防衛中に消えたらどうなるだろうか?そんな事になったら誰が一体領民を守れるだろうか?
勿論我が領の『家臣団』や『ルナハウンズ』を信じていない訳ではないけど、私個人の有する力と比べたらやっぱり劣るので心配だ。
何より『シャドウ』へ対抗出来るのは私と精霊達のみ。
領民達を含めて強者が幾ら多いと言え、どんなに逆立ちしてもアレに対抗出来る所は想像出来ないのだ。
一応精霊達へ多目に魔力を与えた上で、魔石を電池の様に使って魔力を溜める『魔力池』と名付けた装置を置いていくので私が居なくても何とかなるとは思う…少なくとも私が帰還するまでは持つ。
けど、心配なのには変わらない。
………早めに済ませて帰って来よう。
その為にも万全の準備をしないとね。その上できっちり稼がせてもらいまっせ¥
頑張るぞ〜!!!
ちなみにルーナちゃんは経営者なので実際ウダウダ悩みながらも同時進行で仕事を10はこなしています…分身体込みだとそれ以上ですけど。
いや〜彼女のリアルチートぶりが羨ましスグル……
つか、この話しの中でも彼女と同じ事が出来る人は極々限られています。大体普通の人なら同時進行で何かしようとすれば、大概何処かでミスしますからね…
まあそれやるとアポーンする様な業界で前世暮らしていただけは有るってことです。
さて、次回は到頭ルーナちゃんの舞踏会デビューとなるか。そして接触するピオトレ家……煌びやかに見える貴族達の仮面の下には黒い笑み。仕込まれた罠の数々。迫り来る危機を無事、切り抜けられるか。
次回も宜しく御願い致します。(*予告は茶番に終わる可能性も…)




