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悪役放棄、更に自由人へ(仮)  作者: 平泉彼方
第一章 逸般人な悪役令嬢、好き勝手過ごす
73/142

72 そうして彼は彼女を観察する。

 読者の皆様更新が大変遅れました事を御詫び申し上げます。申し訳ないです。これから長期間更新出来ない事が有るかもしれませんが、頑張って何とか第一章は完結させます……後半年は掛かりそうな予感がしますが頑張ります。


 既に第二章の構想が出来つつ有るのでもう少し御待ち頂けたら幸いです。


 さて長々と失礼致しました。それでは本編をどぞ!



 ボロボロで血だらけ、その上ぐったりとした様子の魔獣族が次々と現場へと運ばれて来た。


 ………あの街で生き残った者達だ。


 そして鬼達が色の違う布を掛けていく………トリアージだな。確か重症度に応じて色彩が確か異なるんだった様な気がする……


 中でも酷い者からルーナの元へと運ばれていく。


 彼女の手元へ行くと、バチバチと魔術式が発動したと思った瞬間殆どの怪我が消えている……ほぼ一瞬で腕や足等の欠損も治っていく。


 その様は神話で語られる“神の手”の如く……


 白衣に身を包んだ彼女はマスクやシャワーキャップなるものを付けていようが彼女自身から溢れ出る魅力が留まる事を知らず、その様はまるで『女神』の様だ。


 真剣な顔で一人一人怪我を治して暫く有る程度余裕が出て来ると、待合室に居る意識有る中軽症の怪我人の元へと向かう。


 マスクを外し、不安そうな表情の患者へ安心させる様に向き合い、そして診断していく。


 周囲の鬼達は、そんな彼女に感化されて丁寧かつ早急に治療を施していく。


 王宮に勤めている医師達に是非見習って欲しい光景だ……ま、期待は一切しないけど。



 だがそれにしても………ルーナが元気そうで良かった。



………………………………………



 ルーナが倒れるのはこれが2回目だそうだ。


 ………私の誕生日の時に倒れた事は後に聞かされたので知っているが、それとはまた別の原因でその後倒れたらしい。


 今回はその時と同じ………無理をし過ぎたとか。


 詳しくは私も医術を完全に掌握している訳でもないので分からない。だが、1つだけ言える事がある。


 また、彼女に無理をさせてしまったらしい……


 正直どのタイミングかは分からないが、それでもそれが原因で倒れた事は明白だ……彼女は無理な魔術行使で倒れたのだから。


 本人は自業自得と言っているが、それは違うと思う。


 ちなみにその事にウォルター師匠やジャンクリも同意していた……半分呆れた様子で。


 そして、また今日無理をしようとしていたので、何とか押しとどめた。



「アイツはいつも無理するからな……自分の事は二の次で、他人の為に色々やっているんだよね…それも無意識に。質が悪いよマジで、だって気付いたら俺達のせいで大体具合悪くなるんだから。」


「お嬢様は私共が無理な事致した場合とても御怒りになりますが、何故か自身が無茶をしている事には全く気付かないのですよね……確かに私達では全く頼りにならない事も有ると言う事な重々承知しているのですがね……」



 いつも自身に負担を掛けている状態が続いている事を聞かされて、私は増々不安に思った。


 今、この時点でルーナが居なくなってしまったら……私は何をするか分からない。



 もしかした自害するかも知れない。


 或いはこの世界を破壊しようとするかも知れない。



 正直ルーナを苦しめる“セカイ”は要らない………彼女が居なくなる原因となり得るのならば、存在する価値もない。


 彼女さえ居れば私は別にいいんだ……彼女さえ笑って一緒に居られさえするなら。


 そして、それは私だけではなく、ジャンクリも同意見だった。



………………………………………



「やっと目が覚めたか……全く。」



 昨日戦闘中に気絶して、情けない事に私は救護されてしまった。


 その後、暫く説教が続いた……具体的には2時間位だろうか?ずっと正座させられたので正直足が………


 そしてようやく解放されてジンジンする足を撫でていると、こんな事を言われた。



「お前はルーナに取って“特別”になったんだから、あんましアイツに心配掛けさせる様な事はしないでくれ……」



 そして、ルーナには内緒だぞと言いながら、何処か御伽めいた現実味に掛ける、だがルーナらしい有る女性の話しについて語った。




 それは、魔術や精霊、幻獣種の存在しない遠き異国の出来事。


 それは、私等では想像も付かない厳しく険しい灼熱の大地の話。


 それは、傭兵達が智略と武力で互いを蹂躙する戦場での物語。



 そして………それは、結ばれる事のなかった男女の出会いと別れの実話。




 内容は奇天烈で世界観等特に想像が付かない……一体魔術無しでどの様に生活していたのかが謎だ。


 別の動力源を使っていたそうだが、私では到底理解出来なかった。


 だがそれでも、何処か実話の様に私は感じた………と言うよりも、嘘偽りを話しているとは到底思えないディテールだった。


 もし仮にコレが全部嘘、創作物なら立派な詐欺師か小説家になれると思う。



「………と言う訳で、情けない事に俺はアイツの前で一度死んじまったんだよ…告る前に。で、その結果再会してから観察していたんだが、その、アイツは少しでも好意を持った“特別”に対してかなり過保護になったと思った。


 いや、それだけではないな………アイツは前と比べて随分身内に甘くなった……恐らく今は昔と違って何か有った時非情に切り捨てる事は出来なくなっているだろうな。」



 情け無さそうな苦虫を噛み締めた様な表情で、少し照れた様に頭を掻く。


 そしてそのまま続けた。



「俺は心配なんだよ……その事が原因でアイツが今度は命を落とす事態となったらって考えるとどうしてもな…」



 握りこぶしから血が流れる……強く握り過ぎて手を傷付けたのだろう。


 そこから分かる様に、相当悔しそうな顔をしていた。


 恐らくそれは私も同様………此度の事で、ルーナに要らぬ心労を掛けてしまった様だ。


 彼女の困った様な顔を思い出す………もしあの時背後から襲われていたら。


 ………私を気に掛けて居る間に背後から刺され血柱を上げて倒れ、青白い生気のない顔で動かなくなった彼女の姿を想像する。


 思わずぞっとした……彼女の死を想像するだけで、目の前が真っ暗になりそうだ。


 だが同時に、困った事に私の中に生じた黒い渦の様などろどろとした感情が歓喜する………



 “もっと困らせたい”



 どす黒くねっとりとした、締め付ける様な甘い毒の様な感情がドロドロと駆け巡る。


 心の中の私は三日月の様に口角を上げ、残忍で気色の悪い正気の無い笑顔をしていた。




 ………そして“私”へ語る。



 もっと私の事を見て欲しい。


 彼女の心に私を浸透させたい。


 彼女を心身共に“私の色”で染め上げたい。




 もっと、もっと、もっとだ、もっとだ……
















“カノジョガホシイ、ワタシダケノカノジョガ”



 濁ったどぶ色の、凶悪で醜悪な、“私とは別人”だと思いたくなる様な、汚れた感情が私へと語る……


 いっそこのまま『封印ノ塔』へ監禁して手元にずっと置いてしまいたい。そして、私の事だけを見て私の事だけを考えるようになってしまえばいい。



 それは私自身を蝕む毒の感情……甘く耳元で囁き、彼女を蹂躙する優越感と独占欲を刺激する。


 そして、私を私の定めた“悪の道”へと勧誘する。



 彼女に以前迫った時の怯えた様な表情を思い出す。その表情が余りに甘味で一瞬だけ実行したくなった。


 そう、本当に一瞬だけ。

















“駄目だ、そんなのは駄目だ!”



 私はその邪念を振り払い、心も姿も可憐で凛とした彼女の事を想像する……



 彼女が自然と笑顔になり、何にも捕われず勝手気ままにふらふら街を共に彷徨う時を…


 そしてその時ふと私に向けた柔らかな表情を………



“ヴィンセント、こっちだ!”


“適当に、散歩に行こう!!”



 彼女にはやはり、金色の鳥籠よりも何処までも続く大空が似合う。


 それに“無知”と言う暗がりに幽閉され、愚鈍なまま嬲り殺されるはずだった私を“セカイ”へ連れ出してくれたのは誰でもない、ルーナだった。



 ブラブラ何処にいくでもなく適当に街を往く時が1番楽し気な美しい表情を浮かべるルーナ。


 脳内に保存した彼女の輝かしい笑みを再生する……そして彼女と語り合った言葉を。


 ああ…やはり、彼女が幸せで居る事を優先したい。



「私はもっと強く有りたい、いや、強くなる……そして、彼女の隣に立つ。


 そして、彼女を守れる様になる。」



“彼女の庇護を得ず、逆に彼女の背を守る存在となりたい”



 私はそう一言述べて、目の前に立ちはだかる美丈夫の目を見詰めた………彼女が“夕日みたいだ”と称した腹立たしい程地味で美しいその目は一際鋭くなった。


 ………相変わらず私にとっては強敵。


 立ちはだかる大きな壁であり、追い抜かす対象だ。



「ふん、せいぜい頑張るんだな。」



 そう言い、フンと鼻を鳴らして同様に真っ直ぐ見詰められる。


 ここまでが長かったな……………ようやく奴と同じ舞台へと上がれた。


 やっとその目に写してもらえた………好敵手(ライバル)として。



………………………………………………



 気が付くと周囲の鬼達が騒ぎ出し、バタバタと音がして報告が来た。



「申し上げます!ルーナ様が倒れられ………」



 伝令の鬼がいい終える前に私達は行動していた。


 ………倒れただと!?何故…そんな事に…



 鬼の言葉に一瞬脳裏をよぎったのは、流血し冷たくなった彼女の姿……



 ぷっくりとした小振りな血色の良い唇は色を失い、薄らとしたバラ色だった頬は紙の様な生気の無い白に成り果てた。


 しなやかなで美しい仕草をする彼女の身体はその動源力を失いまるで糸が切れたかの如く床に崩れ落ち、血溜まりから動かなかった。


 そして……


 あの知性的な紫水晶の瞳は私の姿を二度と写さず、その凛とした声で私の名を二度と告げず無い。


 そうして私は彼女を永遠に失う。



 何故かその様がまるで直に“見て来た”かの如く生々しく恐ろしい映像として記憶を再生する様に私の脳裏を駆け巡った。



 “…………ルーナ………行かないで……”



 彼女の元へ急いでいくと、彼女はぐったりとしていた……だが、私の見た“映像”の様な血溜まりは無く、更に怪我も無かった。


 ……………良かった……


 やけに生々しかった大理石の床に広がった彼女の鮮血と、彼女に刺さった短剣を思い出し、私は一瞬身震いした。


 もし彼女が永遠に失われたのなら…私は……



 だが今それを考えるよりも、目の前のルーナを……



「…ウォルター良い所に……しばし寝る…後を頼んだ……」


「御任せ下さいお嬢様。」



 横を向くと、同時に来ていたウォルター師匠がルーナの身体を軽々と抱え、私達を一瞥してフッと鼻で笑った後素早くベースキャンプへ走り去っていった。


 それは一瞬の事だった…だったのだが、メッセージは分かった。



“まだまだ手前らみたいな青臭い小僧共に俺の愛しの娘(お嬢様)はやらん!!”


















 北風がぴゅ〜と吹き、その寒さに呆然としていた私ははっとした。


 それはジャンクリも同様だった様で……



「してやられた…つか、まだまだあの腹黒冷酷暗殺執事には勝てねぇ〜………糞、アイツ何で裏切る執事みたいな名前と顔をしている癖に、何故にルーナくせにあれ程信頼を得ているんだよ……」



 ………後半部分の“裏切る”と言う意見はよく分からなかったが、前半に関しては全く同意だ。



「ジャンクリ殿………ここは一旦停戦と致さないか?」



 この竜や彼女の従魔達を越えた強大な敵が予想外な形で出現したのだから、手を組んだ方が我々の“共通”の目的にも近づけるのではなかろうか?


 そう提案してみた所……



「全く同意だよくそったれ……あの執事に俺は何度辛酸を舐めさせられたか………


 一旦“任せましたよ”と言いながら俺がアピールする事を然りげ無く寸手の所でストップさせるんだから質が悪い……


 御陰様で一度も最後まで行かなかった……糞。」



 ………ん?



「………ジャンクリ殿、無理矢理ルーナへ迫った事が有るのか?」


「いや、そこまではやっていない………せいぜい幼少期にアイツの抱き枕要員になっただけだ。」



 ここで一瞬だけ殺意が湧いたが、私は“大人”なので一瞬で押さえる。


 そうだ………大事なのはこれからの事、彼女と歩める未来があるかどうかだ。



「ゴホン………我々が手を組むに当たって幾つか互いにルールを定めようか。共倒れは面白くないのでな。」



 奴の目はきらりと光る。



「名案だな。」



 そうして幾つか取り決めを行った……当然何度か一瞬泥試合になりかけた事は言うまでも無い。



…………………………………………



 私は現在ルーナが無理をしないかどうか監視をしている……ジャンクリ殿と定めたルールに従って。


 彼女が少しでも体調を崩しそうになったらストッパーになる事を互いにまず誓ったので、もしそんな事態となったら早急に動く必要が有るのだ。


 だから、こうしてずっと近くに居る事は致し方ない事だ。


 そうだ、これは仕方の無い事であり、必要な事。



「……………ヴィンセント、どうしたの一体?」


「いや、気にせず治療を続けてくれ。」



 怪訝な表情をするルーナ……嫌われたくはない。


 だが、この行為も彼女の為なのだから致し方が無い。何時何時倒れても私が受け止めよう。


 そして、一晩彼女の側に居る役目は私が行う。



 おっと……見詰め過ぎてまた怪訝な顔をされてしまった…だが、その顔も可憐だ。



 ああ、彼女はやはり………天女だ。





 王子がキモいと思われた方々にまず一言申し上げます………初恋の方や憧れの同性、或いは見目の良い人物や物に対して気付いたら目で追っていると言う経験は御座いませんか?


 特に小学生〜中学生までの方に多いと思われるのですが………大体王子の年齢だとこの辺りです。


 つまり、彼もまだまだ初心だって事です。ちなみに周囲に居る鬼達は彼の事を生暖かい目で見守っております………明らかにルーナちゃん大好きっ子だって事が見え見えですからね。


 ま、そんな分けで一応王子とジャンクリは共同戦線を結びました…主に共通の敵に対して対抗するべく。物凄い強敵ですけどね!ウォルター越えるのとか……ソレなんて無理ゲー状態ですよね?


 頑張れ若者……そして苦しみたまえ


 さて、それでは次回も宜しく御願い致します。

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