44 王子視点からの、今回の顛末。
読者の皆様どうもこんばんは。
さて、王子は性格だけ変態ではなくなりました。今回はその証明です。ただ、相変わらず肉体スペックが(暗器で傷が付かない等)、変態ですけどw
それでは本編をどぞ。
「スピー………ムフフ…モフモフ。」
………………これはきっと夢だ。そうに、違い無い。
ルーナ殿が私へこんな優しく笑いかける事はあり得ない……私は彼女が嫌う様な事ばかりして来たのだから。
当然私と添い寝する事等論外だ。
そして此度の事で…………………恐ろしく悍ましい容姿をしている事は知っている。
鏡で確認したが、私は『魔獣』の様な姿をしている。
顔が歪み、目と犬歯が鋭くなり………全身が毛か鱗に覆われている。その上で腕の形状と爪の硬度が上がった。
そして時折起こる、“ナニカ”への渇望………それが何なのか知らないが、碌でもない事である事だけは確かだと本能で分かる。
事の始まりは1ヶ月半前。
王宮に帰ると洗礼の様に暗器が降って来たり飛びやが飛んで来たり、兎に角私を殺そうとする動きが活発化していた。
ルーナ殿の過激な訓練のお陰で身体が頑丈になったためか、生半可な攻撃は通らなくなっていた事には驚いた。同時に彼女が私の生存を思ってあれほど過酷な訓練をしたのだろうと気付いた。
何だか嬉しくて、胸の奥が熱くなった。
そして運命の会食………そこで私は多量に『毒薬』を盛られ、倒れた。
高熱にうなされて3日、起きると手の形が変わっていた。そこでどの様な毒が盛られたのか分かった。
盛られた毒は、恐ろしく凶悪なものだった……………………『新月』と呼ばれる魂自体を壊す薬。そして……周囲を巻き込みながら最終的に激しい苦しみの中この世界から文字通り『消滅』する。
解毒不可能……一度盛られれば、二度と再び元に戻る事は無い。そんな恐ろしい毒薬………………それを用いて来たのだ。
どれ程私の存在を疎んでいると言うのだ!
怒りと同時に悲しみを感じた………母親は既に他界しており、その家族も既に居なかった。
故に国王様しか血縁者は居ない状態だと言える。
その国王も、恐らく分かっていたのにも関わらず傍観していたのだ………私が気付けなかった事がまるで悪いとでも言いたげに。
既にもう、この地には未練は無い。人の醜さも十分見た。
何より………………私には既に『居場所』等無い。
普段は私の為と言いながら異様な目つきで執拗に此方を見ていた宮廷の侍女達。彼女達は真っ先にこぞって私から目を逸らしていた。
だけど、そんな事はどうでもいい………
陛下までもが私を遠ざけ、幽閉しようとした。
そしてそんな中、唯一私を庇ってくれたのは…………………ラウツェンスタイン公爵とルーナの2人の兄……ルーナの事で私が散々迷惑をかけたはずの人達だった。
幽閉される一歩手前で自分達の領へ明らかに将来“厄災”にしかならない私を“療養”と言う名目で連れ出してくれた。
そして………実際に“病院”なる場所へ連れて行って貰い、診断を受けさせてもらった。
その結果ルーナ殿なら私の毒を打ち消す治療が出来るだろうと診断された。
だが、今回の事で決心が着いた。
私はいい加減彼女を解放しようと思った………治療行為には相当なリスクと負担がかかる。現時点で私にそれ程の事を掛ける価値が有るとは思えないのだ。
何より『新月』の解毒をした事が知れ渡れば、彼女自身も相当な危険に晒される事は確実だ。
それだけではない……
彼女の築いて来た事の価値を正しく理解し、それらを狙う人々が増えるだろう。
そして彼女は身を削って自分の将来の為に今まで散々努力して来た。私も身近で見た訳ではないが、知っている。
それをふいにする様な事は絶対に駄目だ。
今までも彼女は私を一度も好いた事等無かった………だから、男としても彼女の幸せを願って身を引くべきなのだろう。
そう思い……………………………………公爵へ婚約破棄の話しを持ち掛けた。
彼は、渋々と言った様子で一応納得はしてくれた。ただ………
「……本当に宜しいのですか?」
私を気遣ってあれ程嫌がっていたのにそう言って下さったのがとても嬉しかった。
“ルーナが不幸になる事だけは絶対に嫌だ”
“ルーナが幸せになれるのなら、別に私はいいのだ”
辛いが、狂い死に逝く私はもう彼女の隣に立つ資格が無い。だから責めて彼女の幸せを願おう。
そう思ってルーナが戻って来るまでは過ごしていた。
そして、日々変わって行く私の姿形・色合いを見て、皮肉なものだと思った。
“今の、変化した後の状態の方が多分彼女の受けはいいのだろう”
自分で言うのは変だが、私の容姿は煌びやかであると周囲が評価していた。そして彼女は渋く多少の粗の有る容姿の方が好きだと知っている。
今の歪んだ姿ならその条件を少しは満たしているだろう………何とも皮肉なものだ。
それでも歪な姿である事には変わらない。それに、”粗”と言っても限度と言うものが有る……今の私の姿では、嫌悪されてとことん避けられる事が目に見えている。
私の身体は大柄で猫背となり、顔は獣の様な鋭さとい歪みが生じていた。当然皆の言っていた“煌びやか”な部分は無くなった。
だけど、この様な汚らわしい姿を見て多くの者が顔を歪めていた事を知っている。
“御免なさい…”
手の形が変わり、その次に足……そうして身体のあちこちが異形な形となった頃、皆腫れ物を触る様な表情でそう言いながら去って行った。
その時の目を私は忘れる事が出来ない………まるで気持ちの悪い“バケモノ”を見た様な、恐れている様な顔をしていた。
でも、特に彼女達に関しては思う所が無かったため、多少不快である事を除けばどうでも良かった。
ただ、私はそれをルーナにされる事に恐怖したのだ。
ルーナにされたら………………………完全に自分が壊れる所しか思いつかない。
だから彼女を含め、人と完全に“目会謝絶”する様にしていた。責めて最期は愛しい人からあんな風に完全に嫌われたくない、そんな思いからそうしていた。
だから、彼女が起き抜けの私を幸せそうな顔で抱き締めているのは只の夢だ。
私の望んだ事を都合良く見せている幻想に過ぎない。
もう、彼女の温もりや笑顔を望んではいけない……
“いい加減目を覚ませ!”
「グルルルル………」
鋭い爪で自分を刺す………痛みと流れ出る鮮血に顔が歪むのが分かる。
「……ムムッ…フワァ〜………って、え?!ちょっ!!…自分を傷付けたら駄目ですよ!!?!」
私の腕を止め、慌てた様に複雑な魔術式を組み合わせて傷を直す私の幻想の中のルーナ。
2ヶ月前まで黒かった髪は儚気な銀髪に戻っており、理知的な紫水晶の目は私を心配した表情で見詰めていた。
「お〜い……王子、起きて下さい。」
「……まだ寝かせてくれ。」
前言撤回………もう少しだけ、この幻想を見ていたい……………
気付いたら彼女の華奢な身体を片腕で抱き寄せていた。
「あ、ちょ、ちょっと?!」
「………今は共に眠ろう。」
筋力だけなら彼女の方が私よりも劣る………年齢的、性別的な理由で。だから、こうして押さえておけば私から逃れられまい。
夢の中だけでも側に居て欲しいのだ…現実では望めないのだから。
温かで柔らかい女性らしい体つきへと変わって来ている彼女の身体をゆっくり抱き締めた。同時に髪からは薄荷と樹木の爽やかな香りがした。
……………ああいっそのこと、ずっとこうしていたい。
彼女が愛しい。だから、手放せない………手放したくない。
「好きだ、ルーナ。愛しているよ。私はもう暫くしたら死ぬが、それまでこうしていていいだろうか?…せめて、夢の中だけでも許しては貰えないだろうか……我が愛しの人よ」
彼女の耳元で、低音でしわがれている声で私は話す。すると彼女の身体がピクリと反応した。
顔を見ると、頬を紅色に上気させ、さらに潤んだ目が若干上目遣いとなっていた……………ああ、何て表情をするのだ!!
再び発作の様に襲って来る『欲望』に身を任せ、彼女に接吻していた。
「?!!」
彼女は必死に抵抗しようとしていたが、私は無視してそのまま舌を捻じ込んだ。そして彼女の口腔を舐め回した。
すると、彼女の舌も私に応える様に私の中を舐め回す。
グチュグチュと、いやらしい濡れた音が暫く響いた。
そして解放した彼女は………息も絶え絶えに私の胸に寄りかかっていた。そのまま見上げると、頬に1発ビンタをお見舞いされた。
痛い………………………ん?!
なん…だと………………痛いと言う事はだ………………
「まさか………………現実なのか?」
「そうですよ、ヴィンセント王子……私を誰と勘違いしていたのですか一体。」
呆れた様な、怒った様な声でルーナが言った。
……………………つまり今の接吻は………………本物?!
自分の顔が猛烈に真っ赤に染まっているのが分かる……同時に幸福感と罪悪感で胸の中がぐちゃぐちゃに掻き回された。
「す、済まない、その……」
「良いですよ、事故だって分かっていますから………半分は私が悪いですし。」
そして寝台から降りて、彼女が夜着では無い事に気付いた……なら何故私の横に?
その疑問は、彼女の言葉で直ぐに解消された。
「王子が気持ち良さげに眠っていたので、つい覗いていたら眠ってしまいました…その辺は申し訳ないです。まあでも、今はそれより朝食御持ちしたので一緒に食べませんか?」
王子………良かったね。ルーナちゃんへ”まとも”な形でやっと自分の気持ちを明確に伝えれた様子です。ただルーナちゃんがそれに応えれくれるかどうかは分かりませんが………
次回は王子の状態報告会です。そこで分かる新事実……それは一体?どうぞ宜しく御願い致します。




