43 変わり果てた王子。
読者の皆様どうもこんばんは。
さて、暫く予告通り王子回続きます。容姿や他諸々、大分変貌されたので人に寄っては驚かれるかも知れないです。私自身も書いていて大分変わったと、驚いています……お前、作者だろうという突込みはスルーで。
それでは本編をどぞ。
「王子、失礼致します。」
「駄目だ、入って来るな!!!」
扉が開かない様にバリケード状に椅子や机を扉の前に置いていたので、私は窓から部屋へと侵入した。
流石に彼も予想外だった様で、すんなり入れた。
そして、肝心のヴィンセント王子だが………………どうやらクローゼットの中に隠れた様だ。
私はそこへ近付いた、ゆっくりと、王子を刺激しない様に。
中から獣の様な息遣いが聞こえ、更に、奥の方に明るい火の玉が2つ見えた………いや、アレ火の玉ではない。
目が光っているのか…夜行性の獣の様に。
でも色彩は変わらなかった様だ………よかった。
緑と蒼のオッドアイ。キラキラしている事を無視すれば、本当に奇麗な色彩だと毎度思っていたからな。
これで暗い深緑色と群青色だったならば、間違いなく顔を見合わせる度食い入る様に見ていただろう。
「グッ…来る…な……グルルルル。」
獣の様な鳴き声をしながら彼の出した声は、以前とは比べ物にならない程低い声だった。
……低くしわがれた、それこそ年老いた老人の様な声。
「お話は伺いました………大変でしたね?」
私はクローゼットへと近寄った。
「グルル……駄目だ!!!」
そのまま中へ入り………………被っていた布を引っ剥がした。そこには確かに王子がちゃんと居た。
いつものキラキラエフェクトは無かったが、確かに私の知っている『ヴィンセント』本人だった。
ただ、確かに若干の違いは有る。
腕や足が毛に覆われおり、手足の形が人間のそれでは無くなっていた。そしてその先には、長くて鋼鉄の様な爪が生えていた。
きっとアレで引っ掻かれた一般人はひとたまりも無いだろう。
背が猫背になっており、はだけた夜着から身体に変な筋肉が付き、一部が黒ずんだ上で毛がびっしりと生えていた。
特に右肩から脇腹に掛けて状態が酷い………人の皮膚ではなく、人鬼族等の皮膚…いや、竜鱗の方が近いだろうか?
髪や毛の色は、元々金の混ざった銀髪だったのが黒や茶、そして紫が混じっていた。
端正だった顔は、完全に歪んでいた。
鋭い牙が生えて吸血鬼族の様に飛び出している口元。そして、顔半分は変形した上で毛に覆われていた。
目元も野生動物の様に鋭くなっており、先程暗闇では光る事が判明している。
そんな獣の様な姿になった王子……
覆っていた布を摂った瞬間驚いた様なショックを受けた様な顔をしていた後、気不味そうに顔を背けた上で自分の手で顔を覆った。
「こっち…を……見ないで…くれ………」
そしてそう言いながら、私に背を向けた。
「……私…の………醜い…姿……見ない…で…くれ…」
悲痛な声を出し、その身体はまるで消えたいかの様に小さくなっていた。
「……嫌…わ……ない…で……」
震えており消え入りそうな声で私へそう言うと、グルルと鳴きながら増々身体を抱きかかえる様に縮めた。だけど、此方の事が気になるのか時折私をチラチラと見ようとしていた……顔を見られない様にしながら。
そんな仕草をしている彼に、何だか胸が痛い様な苦しい様な、それでも温かい、そんな不思議な感覚を覚えた……………理由は分からないが、愛おしく思ったのかも知れない。
そして、いつの間にか私は彼を抱き締めていた。
「ヴィンセント王子、只今ルーナは戻りました。」
ああ、体温は同じなのね………相変わらず私より少し高いくらいだ。
そして、心音がドクンドクンと聞こえた。
背中側から抱き締められた彼の身体は、驚いた様に一瞬ピクリと揺れた。少し離れると、此方を向いて不安げに私の顔を見上げた。
キラキラが無くなり、少し厳つい顔つきとなった王子……それなのに迷子になった幼子の様な表情。
—可愛い………
思わずクスリと笑っていた。
そして今度は正面から安心させる様に抱き締めた…
とは言っても現段階の私の身体では、年上で成長期に入って来ている上で今回薬の作用なのか身体が前より大きくなっている王子を腕だけで抱ききれないが。
だから、全身を密着させる様に抱き締めた……
今はこうしておかないと何処かに言ってしまいそうで怖い………それこそ、今直ぐ死んでしまいそうで。
そんな雰囲気を放っているのだ。
長くそうやって抱き締めていたら、王子が抱き返してくれた。
「グル…………ルーナ殿、お帰りなさい。」
「うん。」
「あの後………私は修業をしていた…毎日……」
「知っているよ。」
そう私が返事をすると、抱き締めたまま至近距離で私の顔を覗き込んだ。
見上げた彼の顔は、自嘲している様な笑みを浮かべていた。
「そして、何故あの様にルーナに嫌がられたのか理解した………私に依存されているのが嫌だった?…そうだな?」
「………。」
「私自信も他の女性に対してそう言った感情をかつて持ち、嫌っていた事を完全に忘れていた……………自分の嫌いな事を自分の1番好きな人にしていたとか…本当に馬鹿だった。」
事実だっただけに答えられず、黙っている事しか出来なかった。
「だから、自分のそんな欠点に気をつけながら、貴方を少しずつ口説いて行こうと思っていたのだが……………」
辛そうな顔で、無理矢理笑顔を作るヴィンセント王子。
「無理そうだな。残念だ、今の私では貴方を幸せには出来ないだろう……だから婚約を破棄して自分の幸せを探してくれ。」
…………………………………そんな表情で言われたら、無理だよ。
私は彼の乱れた髪を撫でながらこう言った。
「私がここに戻って来たのは一重に貴方へ言いたい事が有ったからです。
毒の後遺症が消えた後、私と一緒に世界を見て回りませんか?」
驚いた表情をする王子。
彼の耳元へ顔を近づけ、至近距離で静に囁いた。
「まだ私もこの地でやらなければならない事が有って動けませんが、もう少ししたら決着がつく様な気がします。
その後私はここを去って世界を巡る旅をします。
自由気まま、奔放な旅です。危険も伴うし、自分のみを自分で護らなければ簡単に命を落とすでしょう。
権力も金も自然界では何の意味も持ちません。
それでも私は……………この美しく厳しい世界を今世は何の柵も無い状態で見て回りたいのです。
王子も将来世界を見たいと以前言っておられましたね?今もその願いは変わりませんか?
もし変わらないのなら、一緒に行きましょう?」
前回は王子に国民への義務を説いた。そして王子は納得して学び、変態にはなったけど真剣に様々な事を考えていた。
けど、そんな彼を護るはずの人々は彼を『見捨てた』。
暗殺者が紛れ込んでいた事は正直言い訳にはならない。只の職務怠慢だ。そして、料理に毒が仕込まれていたと言っていたが、毒味係と料理を運ぶ使用人、それから毒を仕込まれた事に気付かなかった料理人に責任が有る。
『王家』とは、国の象徴であると同時に『国の代表』と言う名の生贄なのだ。
贅沢で豪勢な暮らしをしていると言う印象が強いかも知れないが、それだって本来は他国に舐められない様に牽制する役目が有ったりする。それから一般の人々と暮らしが違うのは当然だろう。与えられた仕事の責任が重大なのだから。
多くの人々の生活と生命を握り、場合によっては怒りを治める為に自分の人生を全て犠牲にする必要が有る。
自由に死ぬ事すら許されない………それが『王族』なのだ。
そして王族はもう1つ役目が有る。それは……………………………………『狙われる』事だ。
国の象徴となる訳であり、その人物の首1つで国が負ける。王族とは首級で言えば、最高レベルだろう。報奨金は国全体なのだから、別の国の人間なら欲しがるだろう……まあ全員その場合殺す必要が有るが、禍根を残さない為に。
故に、国民が虐殺される事を防ぐための『囮』として役割も有るのだ。
それを護るのが周囲に居る『貴族』。と呼ばれる家臣達。武力で護るのが『軍』の役割であり、法律護るのが『文官』の役割である。そしてその資金を調達しているのが土地を貰い、国民から税金を集められるようにその地を治める『領主』。
我々は、その為毎年報酬をもらっている。
今回私が問題視しているのは……………そんな大変な立場に立っている王を武力で護るはずの機能が働いていない事。
家は『公爵家』なので王家に近い存在であり、影響力と義務もそれなりだ。
私は本来ならば政治の道具として他国か別の有力貴族へ嫁いでいただろう。現に王家と婚約しているからな。
だけど、領の活性化と少し多目の税金の納入、それ以外にも治安の維持等色々な事をして『義務』を果たしている為、将来は好きにして良いと言われている。
王子はまだだったが、彼は私の様な反則レベルの魔力と前世の記憶等と言ったチートが有る訳でも無い。故にまだ11歳の子供に義務を果たせると言った期待は殆どしていないつもりだった。
だが、分身体の噂に寄ると………私の居なかった1ヶ月目に『猿でも分かる経済学〜中級編〜』に出ていたはずの“複式簿記”を王家の財政面へ適応させていた。
結果:不正が行われていた事が明るみに。
国家予算の一部を個人的に横領していた腐った貴族の一部が御縄になったそうだ。
その中には“王妃”と随分懇意にしていた者も居た……………それこそ、秘密裏にヴィンセント王子の殺害を暗殺者へ頼み込む様な輩も……
その時王子を恨んだ人々が結託し、王妃と組んで王子を苦しめてから殺そうと画策したのが今回の王子の身に起こった事の顛末。
何故知っているのか?商人の情報網は何も“表”だけではない。“裏”の情報を集めてこそやっと半人前になれると言うものだ。
その上で私は傭兵。そう言う情報収集は大事な活動の一貫なのだ。
国王陛下は既にヴィンセント王子を後継者に据えると声高々に以前宣言している………何事も無ければその補佐をするのが私だと言う事も含めて。
だけど、それを今回『首謀者』は無視した事になる。言うなれば国家反逆罪。立派な犯罪者だ。
そしてその中に王妃も入っている。
王は薄々気付いていた。これは確信を持って言える。それなのに今まで止めなかったのだ。
だから今回の件で私は思った………
“これはもう、責任も義務も破棄していいと思う”
誰だって自分の命が大事だ。それを削って国や国民の為に自分の人生を笑って差し出しているのが『名君』と呼ばれる王達の事だ。
そして、そんな彼らには必ず忠義心を持って仕えている家臣が居た。と言うか、その様な“支え”が有って始めて『国王』として成り立っていたと言っても過言ではない。
そして、ヴィンセント王子にはそんな忠義を誓ってくれる様な人は存在しない。
本人にも原因は有ったのだろう………お子様だったのだから。だけど、それを周囲の大人が支えないでどうする?
少なくとも我が父上は支えていた………私と一緒に。
だけど、それ以外は誰も……父親であるはずの国王でさえも、彼の事を『傍観』していた。
そして今回の事が起こった後も、対応は親とは思えない程冷たい物だった事を知っている。
前々から思っていたが、国王陛下は君主としてはそれなりに優秀なのであろうが、親としては本当に駄目な親だと言えるだろう。上2人は甘やかし過ぎた結果愚図になり、ヴィンセント王子は失敗を活かすかの様に冷徹に接した上で傍観した。
本人では無いので愛情が有るかどうかは分からないが、今回の件に対する対応にしてもあんまりにもあんまりだった………
何も悪くないのに、王子を死ぬまで1人幽閉する何て………
だからこれだけは事実としてはっきりと言える。
彼は『捨てられた』のだ。
頑張っていた事を継母に前否定された挙げ句全てを無に返す様な事をされた。そして、その事を肉親である父親は傍観した……彼の苦しむ姿まで。そして、彼を護るはずの者達は仕事を全うしない上、何の責任にも今の所問われいない。
これを『捨てられた』という表現以外に何か有るだろうか?
だから今度は私が『拾う』事にした。このままこれ程までの逸材が消えてなくなってしまうのは惜しい。
それに、何度も言うが王子の事は個人的に嫌いではない。
どんな風に成長するのか今後楽しみでは有るし、仮にも私は彼の『師匠』なのだ。それだけでも助ける義務が生じている。
「貴方はもう十分頑張りましたよ。周囲の逆境もあってとても不利な状況で11歳なのに一人で戦っていましたからね。だからもう別に国を放棄して自分の人生を謳歌しても良いと思います。私もその為に全力でサポートしますから。」
そう言ってから、私は未だ小さなふくらみしか無い胸に彼の顔を埋めた。
「だから、少しだけ休んでいて下さい。」
彼は一瞬体温が上がり、ピクリと動いたが………胸元に仕掛けておいた睡眠香によって眠った。
暫くはうなされていた為、寝付くまで頭や背中を何度も撫で手を取って
「大丈夫。私が護るから。」
と耳元で囁いていた。
そして彼が寝入った事を確認して………私は一旦部屋を退出した。
毒薬の構造は大体分析出来たので、後は解毒するだけか………
だけど、国王はどんな顔をするかな……既に私の意志が伝わり、契約書へサインさせた事は精霊経由で聞いている。
後は…………………王子次第。
今回は微妙にシリアス回でした。つか、王子が真面目に不憫過ぎる……書きながらなんか泣きそうになりました…何処までも報われないなと………
でも、やっと王子に冒険フラグが建てられた事も事実………国外に出るにも”王子”と言う肩書きは邪魔ですからね……………今後彼がどう言った選択肢を選ぶのかは秘密ですが、意外な結末にする事は御約束致します。
それでは次回も頑張って投稿致しますのでどうぞ宜しく御願い致します。




