42 クエスト終了。そして2ヶ月…
読者の皆様どうもこんばんは。後、感想有難うございます。
さて今回はメインクエスト終了=一旦帰宅します。そこでルーナを待っている事態とは………
それでは本編をどぞ!
人工血液の供給を“特定の貴族”の相手限定で停止する許可証を書いて貰い、更にメインクエスト修了証を貰った。同時にそれに伴う治安悪化対策の為(その件の貴族が民衆のモノを強奪しようとする等の)、店に奥私兵…と言うか警備の数を増やす許可を貰った。
本来なら国の転覆を狙っているのでは無いかと家臣団から反対を受けそうな話しだが、そんな事をしなくても一瞬で国を落とせる様な力を個人で有している私に何かを言う奴は居ない。
言う奴に関しては放置しておいてもヴラド君が何とかするしね。
さて、それよりも此方の方が今は重要だ。
貰う新たなクエスト………『街の復興』の手伝い。
此方は傭兵ギルドではなく、ルナライト社建設部門、つまり、“ルナライト建設”へ発注された。
私も当然関わるが、同時進行で行わなければならない事が多い。その為、今回の仕事は私が拾ったり、育てたりした部下達に任せてみる事にした。
一応簡単な街予定地の面積や防衛面の強化、他諸々設計図は作っており、既に転送積みだ………精霊経由で分身から皆伝えておいてもらった。
後は、ルナライト社から建設作業員を派遣するのと、民間警備会社の警備員を護衛として配置するだけだ。
………彼らが自らやりたいと言ったので、私は何処まで出来るか見守るつもりだ。
それに……………王子の件で恐らく近々帰宅しないとならなくなりそうだからな………
………………………………………………
家出してから丁度2ヶ月。
最初の1ヶ月で大体設計と見積もりを出して、資材の調達等を行った。
そして、城の一室を借りて素材と一緒に“縮小”を掛けた大工達に家を建ててもらっていた。後はこれを現地に持って行き、私以外に固有属性“拡大”を掛けられる人達が拡大すれば街の復興は粗方終了。
今はまだ確認しに行った所、物体Xは降っていなかったが魔物がウジャウジャいる状態なので無理だろう。
そうだな………大体3ヶ月待てば行けるのではなかろうか?
復興した時の完成予定映像を慰安の意味も込めて避難している住民の皆さんに見せると、とても嬉しそうに歓声を上げていた。
フフフ………ヴェネチアのイメージにちょいと京都を加えてみたのだが、どうだろうか?
勿論和風ではないが、昔から水害に悩まされた日本の技術を組み込んでみたのだが……………説明したら中々評判が良かったので此方としても嬉しい限りだ。
後は設置するだけだが、絶対に手を抜かない様に皆には言い含めているから大丈夫だろう。
私は今直ぐにでも自宅に帰らなければならなくなったから、残念だが工事には携われないのだ。
分身の寄せる情報から、王子が今危うい状態だと分かったので仕方が無い………………恐らく今助けられるのは私だけだろうから。
奴は死なせたくはないのだ………………変態だけど。
「ヴラド君、私は一度戻るつもりだが、他に伝えておきたい事等は有るか?」
「いや、今は……ああ、そう言えばドラキュリウス嬢に絡んで来た奴らに関しては、焼くなり煮るなり好きにして良いと『百鬼会』に伝えてくれるか?」
「了解。国外へ私が連れて行った方が良いか?」
「いや、これから追放するから大丈夫だ。」
まあ確かに危うく『霊山』の鬼を全員敵に回す所だったからな……そうなったら幾ら“一国”相手だろうと、特に臆する事無く彼らは戦争起こしていただろう……………
最悪国が地図から消えていただろう…そう言う血の気の多い連中だからな。
「じゃあな。」
「おう、今度は茶でもゆっくり飲みにこいよ。」
「…考えておく。」
そう言って、私は“移転”を行った。
………………………………………………………
ジャンクリとお土産を大量に回収した後、慌てて『霊山』を後にした。
ジャンクリと一緒なので移転は使わない…いや、使え無い。だから彼には無理を言って相当な速度で飛んでもらっている。
多分飛行機の速度を軽くオーバーしているだろう……っと、やっと領が見えて来た。
………………………どうか間に合ってくれ。
……………………………………………
「只今戻りました、お父様。それで、王子の容態は?」
「……………今は大分安定して眠っている。」
疲弊した様子で今世に置ける父が溜め息まじりに返事をした。そして、それが何だか前世の忙殺されていた頃の父親の姿と重なって見えた……
私は王子の眠る寝室へと急いだ………
私の失態だ…………………………………まさか私の居ない間に暗殺未遂に遭うなんて……
幸い私の訓練で身体が変態仕様に頑丈になったため、酷い外傷は見当たらなかった。
だけど、酷い魔力の澱み…………………部屋の外からでもそれは分かった。
そして部屋の扉を開こうとした瞬間……部屋の中から誰かのわめき声が聞こえた…それも随分と苦しそうな……
同時に聞いた事の無い低音の怒鳴り声と、物を激しく破壊する様な音……
つっ……………!!
ガタン!!!バキン!!!!!
誰も入れるなって言っただろう!!!
事情を知っているのか父親は顔色が優れない……そして、顔を俯かせた。
私はそんな父に詰めより……
「……………父上」
「………………………何だ?」
長い沈黙の後、悲痛な声色で答える父。
「何が一体彼の身に起きたのですか?具体的に御教え願います。」
それを無視して私は尋ねた。
「…………………………悩んでいても仕方が無いか。分かった。ならルーナよ、王子の事情を話すが他言は無用だ。」
「心得ております。」
「そうか……」
流石に王子用の寝室の前で話す訳にも行かなかったので、防音効果とセキュリティーの高い父の書斎へ向かった。
椅子に腰掛けると、向いに座る父は渋い表情をした。
中々口を開かず、戸惑う様な何かを迷う様な仕草をしていたが、私と目が合ったと同時に溜め息を1つ吐いた。そして、話し始めた。
「心して聞いてくれ。実は………」
それは、私には全く想像も付かない様な事だった………
どうも、私の居ない間に王子は王宮へ一度返って来る様に指示が有ったそうだ………王妃様直々に。
そして帰宅して早々……………会食中に王子は倒れた。
王が調べさせた所、王子の食事だけ『毒』が盛られていたそうだ。それも只の毒ではない…………
—その毒は決して用いてはならない。
—一度服毒すれば、二度と元には戻らない。
—其れは、存在の『魂』にまで影響を与える。
—其れは、服毒者を異形の者へと変え、周囲の愛する者達を順に傷付けて行く。
そして……………………………その最期は『死』等の生易しいものではなく『崩壊』。
周囲を破壊し、大地を荒らし、人々の心を蝕み、最終的に魂ごと『崩壊』を引き起こす。
そんな悲惨な最期を解毒出来なければ約束させられる薬を王子は摂ってしまった。
毒を飲んだ者達は、皆大体新月から発狂し出して次の新月に『崩壊』すると言われている。
故に……………毒薬の名は『新月』。
「………それで、今の状態はどうなっているのですか?」
「…………………それも、言うべきか…………………………」
王子は毒を盛られて直ぐ症状が出たそうだ。王宮で高熱にうなされて眠っていた時、使用人が気付いて悲鳴を上げたそうだ。
布団から出ていた『手』が、人のそれでは無くなっていたのだった。
王子は自分の状態に気付き、直ぐに閉じ籠ったそうだ。
“何人たりとも近づけるな。『面会謝絶』だ。”
それを我が父が“療養”と言う名目で何とか宥めて家へ連れてきたそうだ………家なら確かに普段から毒や病を研究している施設が有るからな。
そして、王子の具合が悪い事は本体の私へと分身から伝えられていた………だからイッシーの弟子は全員置いて行ったのだ。
だけど、それから間もなくの事だった…………
王子の姿形が『人』とは到底思えない『異形の姿』となったのは。
実際に見ていないので詳しく分からないが、私にだけは見られたくないと彼は泣いたそうだ。
“こんな姿を見たら、嫌われる”
負けず嫌いで滅多に泣かない、どんな厳しい訓練でも私に追い着きたい一心で泣き言も言わずに耐え切った王子が。
“合わせる顔が無い”
そう言って、自嘲していたと父が言っていた。
それは……………………辛いな。
変態であろうと、私は彼の事は少なからず認めていたのだ………王子としてでは無く、1人の人間として。
だから、分身体から家の様子が届いた時は少し嬉しかった。
変態になろうとも本質である真面目で愚直な部分は一切変わる事が無く、私の居ない間も訓練と勉強を頑張っていた。
“何が悪かったのか知りたい、教えて下さい”
王子がウォルターへ、『王子』が『使用人』へ頭を下げて、教えを請うたそうだ。同時に私の兄弟へと土下座したそうだ。
“君達が私を受け入れていない事は知っている。だが、どうか共に訓練する事を認めてもらいたい!”
最初の偉そうで何を考えているのか分からないキラキラしているだけの冷徹で胡散臭い王子の印象は、最早微塵も感じられない。
そして、彼は頑張っていた………王宮へ呼ばれる日まで。
本体の代わりに見送りに行っていた分身体の送って来た映像に移る王子はとても良い顔をしていた。
“戻って来たら、今度こそルーナに伝えたい事が有る”
完全にフラグ発言をしていたので心配はしていたが、まさかこんな事になるとは……………
事情を話し終えた後の父上は、疲労困憊した様な顔をしていた。まだ30代半ばなのにも関わらず、40代後半に見えた。
私の居なかった数日間の間に増えたのか、元々暗い茶髪をしていた父の頭の白髪が目立った。そして、眉間には深い皺が寄っていた。
そして最後に、ああやっぱりとは思ったが……私と彼を繋ぐ関係について父上が話し出した。
「ルーナ………王子との婚約の件だが、王子本人が合意の上で破棄にする事になった。」
「そう…ですか。」
今まであれだけ嫌がっていたが、いざそう言い渡されると………何と言うか、ショックだな。
“避けながらも、このままこの関係が続くのかと思っていたのかも知れないな”
“馬鹿だな、私は……”
自分勝手な意見だなと自嘲しながら、私は父親の話しを聞いていた。
このまま毒を消す事が出来なければ………………次の新月前に王子は自害するそうだ。
“自分の意識がまだ狂っていない内に死ぬ。誰も巻き込みとう無い”
今この家に何とか留まっている理由も、唯一我が家に有る医療都市でなら治療が可能かも知れないから……
後、まだ正式に私との婚約破棄が伝えられていないからだ。
「………父上、これから少しだけ王子に会ってきます。」
どんな姿をしていようと、私は気にしない………大事なのは本人の『心の内』だ。
それに、これは前世の話しだが……スラム街の一角に有った孤児院にもそういう人々は居た。
薬物や虐待や火事、またそれ以外の様々な理由から醜く歪んだ姿となり、家族からは“貧乏だから面倒を見切れない”と言う理由で捨てられた子供達。
彼らも互いに助け合いながら逞しく暮らしていた。
健康的な人を基準にすれば確かに“異形”な姿なのだろう。だが、下の子や障害の有る子供の面倒を看ている姿等は確かに美しく、私は心惹かれる部分があった。
勢力争いの果てに炎上するまで、私はよくそこへ通っては子供達と遊んでいた事を良く覚えている。
確かに初対面の人なら醜い姿をしていると言うのなら良い印象を与えないだろう。だけど私達は初対面と言う訳でもなく、何度も顔を見合わせている。
人格的にもそこまで王子は嫌いではない………変態である事を除けば。
だから別に姿形はどうでもいい………今は、それよりも少し話しがしたい。
いや、私が話さないと…………これからの事を。
王子が自殺しようとしても、私が彼をどんな手段を使っても生かす。
そんで、彼に『生きたい』と言わせる。
その上で、今回の件で私の下した『決断』を伝えたい。
「だが………」
「それからもう1つ………王子が生き残った場合、婚約破棄は無かった事にして下さい。」
「!………いいのか?」
父親の驚いた顔に私は思わず苦笑した………まあ今まで散々嫌がっていたのだし、無理も無いか。
「……確かに王子の事を異性として見た事は一度も御座いませんが、それでも彼自身が努力している事は認めています。その上で、もう少しだけ時間を置いて共に考えたいと思います……我々の『最善』の未来を。」
「そうか………」
そして、私はもう1つ大事な事を伝えた。
「それと、成功報酬は『国王陛下が私の願いを1つだけ何でも叶える』事だと国王陛下へ御伝え下さい。」
絶句する父親。だけど、これくらいの報酬は当たり前だと思う。
今まで毒薬を飲まされた人々は、死ぬしか無かった……治療法が確立されておらず、狂って消滅する前に大体皆自害したと聞く。
だけど、私には『現代科学』の知識が有る。
そして、領内で培われた医療技術とそれを存分に振るえる施設が有る。
それらを無償で提供する訳が無い………王族や婚約者が相手だろうと、私は妥協するつもりは一切無いのだ。
大体、本来なら宮廷医師が出来なければならない事を10歳の子供に任せるのだし、最新技術を惜しげも無く使わないと治療出来ないので当然だろう。
寧ろこの位で済んだ事を感謝するべきだ……ここは“中世ヨーロッパ世界”であり、ぼったくりする事も可能だったのだが、それを私はしないのだから。
“お願いを叶える”のは、適正価格だと思ってもらいたいものだ。
まあそれ以外にも、今回の件に関しては私も流石に頭に来ているので嫌がらせも意味も有るけどね。
以前から暗殺未遂は何度も起きている。それこそ王子と私が出会う前から。だからこそ、きっと初めて会った時の彼は何処か冷めた奴だったのだろう。
これから王子をこれ以上危ない目に遭わせない為に、王には『ある事』を受け入れてもらわないといけない。
そしてこれは、王子がこんな目に遭うまで問題を放置した王への当て付けでもある。
さてと。部屋に行くか。
これから王子の話題が多くなります。
王子は自分の態度を反省して爽やか青年へと成長しそうでした。そんな所を王宮に居る糞BBAに横槍を入れられ、大分変貌しています。彼の成長にこれがどんな影響を与えるのか、これからどうぞ見守ってやって下さい。
何度も言いますが、”変態”は只の通過点です。外傷、つまり肢体の切断等のフラグを折る為に付加しておいたものです。実際の勢力争いで火傷で手が開かなくなるとか手足が切断されて生活が不自由になる様な描写がでて来たので、より現実に近い世界観(*魔術とルーナ絡みを除く、”闇”の部分)を想定している本作品で彼がそんな事にならない様にしてみました。
ご不快に思われた方々、本当に申し訳ないです。
それでは次回も宜しく御願い致します。




