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悪役放棄、更に自由人へ(仮)  作者: 平泉彼方
第一章 逸般人な悪役令嬢、好き勝手過ごす
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28 愉快犯の胸の内。

 読者の皆様どうもこんばんは。そして感想有難うございます!


 さて、今回は王子とヒロイン登場でやさぐれた心を癒すべく、銀狐君の心の内を語ってみました。それでは本編をどぞ!

「今回ここに来た目的は王子の事も有るが、別に有るんだろう?」


「……………ジャンクリにも隠し事は通用しないのかな?」


「別にお前が特別読み易いとか言う訳ではないから安心しろ。恐らく俺かウォルターくらいだろう、お前のポーカーフェイスが通用しないのは。」


「………まあそうかもね。」


「それで?俺には言えない無い様なのか?」


「ちょっと違うかな…………ジャンクリにもウォルターにも言えない事だよ…とても個人的な事だからね。」


「……………そんなに俺は頼りないのか?」


「ううん、それは言わない。十分私はジャンに頼っているよ?ただ、こればかりは自分で解決しないといけない範疇だから……」


「…………………………お前の事だから直ぐ無理するだろうが、その、やばそうになる前に俺に言えよ。大抵の事なら何とかなる。」


「うむ。なら遠慮せずその時はそうさせてもらおう。」


「おう、遠慮するなよ。」


……………………(ジャン)……………………


 俺の横で眠るルーナの頭を撫でながら、彼女の夢を例の如く覗いた。


 すると………何度もルーナが酷い死に方をしている絵柄が見えた。


 有る時は斬殺され、有る時は毒殺………下町で身体を売った相手に暴行されて死んで逝く様子まであった。


 そしてルーナがそんな酷い目に遭う度に、見た目は奇麗だがやっている事が最低な屑女が幸せそうに男を侍らせていた。


 …………………乙女ゲーム『茨ノ城』、か。


 流石にそれは予想外だった……俺の愛しい女を苦しめているのがまさか『世界』そのものだったとは………


 同時に運命を感じざるを得ない……俺もまた、この世界に喧嘩を売った者の一人だからな…


−死にたくない、嫌われたくない。


−生きて大事な人達と冒険がしたい。


 彼女の純粋で優しく儚気な願望や希望が俺に流れ込んで来た。


 ………今はその『大事な人達』の中にお前を斬殺する予定だった王子が入っている事は、何とも複雑な気分にさせられる。


 お前の好みではない見た目な上、変態になったのだから今度こそ見限るのかと思ったが、予想以上に大事に思っている様だな……但し、少し大きな“弟分”として。


 ただ、正直いつそれが異性に向けての感情になるのか俺は怖いよ……まあ、お前に限ってそれは無いと思いたいが。


 俺は彼女を死んでも守る。誰か彼女を陥れて没落させようと、俺は彼女を捨てたり見限ったりしない。


 それは例え、彼女の言う所の『補正』が働いたとしても俺だけは彼女の側に居られる。


 だが………彼女の『地雷原』に成り得る可能性が最近出てしまっている。


 その兆候として、魔力とは違う何かもっと禍々しいものが最近体内で発生している………油断して、その一部をラウツェンスタイン領に撒き散らしてしまった。


 大した量で無かった事が幸いしたが、次はどうなる事やら……


 それにしても今の時期に霊山に来られたのは都合が良い…この“浄化”を司る場所ならば、有る程度放出しても異変には繋がるまい。


 俺は深く眠るルーナの身体をゆっくり離し、この前俺の鱗を加工して作った布が原料の上着をそっと彼女の上に乗せた。


 同時に俺の正常な魔力を周囲に散らしてから、音を立てない様に夜の森に消えた。


 さて、ここからは狩りと発散の時間だ……存分に暴れて邪な魔力は散らしてしまおう。


 全てはルーナとこれからも一緒に居るために。


………………………(ゴン)………………………


−ようやく居なくなってくれたか。


 それにしても相も変わらず禍々しい野郎だ……主が汚されないか毎度心配になる。


 周囲をもう一度探知し、完全に奴の気配が消え事を確認した。


 直後、俺は自分の身体を襟巻き状態から久方ぶりに元の姿に戻った。そして、人肌が無くなって凍え震える我が主の身体を包み込んだ。


 相も変わらず無邪気な娘だ……俺の身体に触れると安心した様にニヘラと笑った。


 そんな彼女の頭を俺は撫でた………今は黒いが、普段は俺とお揃いの銀色の髪……サラサラしているが、細く柔らかいその髪はとても触り心地が良い。


 彼女は俺の毛を気に入っている様だが、俺は彼女の毛の方がよっぽど好きだ。


 そして、俺も他の連中と同様彼女を求めている。


 まだ身体は幼いが、既に心は俺達と同じ位だと知っている………魔物の精神年齢の成長は、人よりも早いのだ。



 普段俺は人前で『道化』を演じているが、基本的に彼女を守るためにしか働いていない。


 正直他はどうでも良い…彼女が笑顔で居れるのならば。


 ……………まあ、彼女と共に他人を弄んで高みの見物をする事は楽しいので止められそうに無いが……彼女曰く、そう言う事が好きなヤツを『愉快犯』と言うらしい。


 ……何とも不思議と苛つく響きだ。


 それにしても今は秋口か……霊山の緑は気候同様年中変わらないが、周囲の山や森は色とりどりの葉になっていた。


 そして、時々ヒュオオオォーと、北風が唸りを上げて木々を駆け抜けていった………その音に、俺は寒くもない身体を温める様に主の身体に寄せた。


“身体は寒くないけど、心が寒い”


 温かで穏やかな表情で眠る彼女を抱き締めつつ、彼女に仕える前の『孤独』な刻をゆっくり思い出していた。


……………………………………………


 丁度葉の色が変わり、空気が冷えて来た頃だった……1匹の子狐が母親の巣穴から追い出されたのは。


“お前の纏う色は銀、私達は金。”


 それが理由だった……俺は特別魔力が強く生まれた為に体毛が銀色のなっていたのだ。


 自然界では、魔力の強い者は限り無く白に近い銀色を纏う事が多い。これは黒色を纏う魔力が過剰な者と同様に存在する。


 俺は巣穴から命辛々な状態で追い出されると、暫く魔力の多く籠った根菜類を食べて過ごした。


 その内俺の銀色は薄汚い灰色の様な色になっていった。そしてそれは俺にとってそれは好都合だった………何故なら俺は『銀』が好きではなかったから。


 もしこの色でなかったなら、他の兄弟達の様に親から愛情を受けられただろうか?


 自分を見る度に、いつもその様な疑問に苦しめられたものだ。


 暫く必死に生き……俺は何とか生き延びる事が出来たのだった。生存競争と言うらしいが、俺はその中の”勝者”として森の中で君臨した。


 だが、俺はそれから暫くして森を出て行く事にした。


 俺はあれから自分の生まれた巣穴がどうなったのか気になり、探していたのだが………有る時母親と思しき匂いを放つ骨を見付けた。


 そして、その近くには子狐の毛が落ちていた。


 そこで俺は悟った……………完全に独りになってしまったのだと。


 今までは俺を追い出しても血筋が同じ兄弟が居たが、それが全て全滅した。別に俺は1人でも生きて生けるから群る必要を感じなくなっていたが、期待していた部分も無かった訳でもない。


“俺が強くなれば、俺の事も見てくれるかな?”


 俺も親父の事は詳しく知らないが、1つ分かっているのは恐らくヤツも俺同様に薄い色をしていた事だ。


 銀を纏った生き物を観察した結果分かった事の1つに、親が薄い場合は銀を纏う可能性が高い事が分かったのだ。


 後はそこから導き出した答え………強ければ受け入れられるのでは、と言う事だ。


 俺が観察していた銀色の連中だが、皆どちらかの道しか歩まなかった………“被食者”か“捕食者”。


 幼い状態の銀色は魔力量が多い為、他の生物に総じて狙われ易かった………“銀”の居る群は、大体壊滅していたのだった。


 そして独立して強くなった“銀”は、群の長をしていた者が多かった。強く、他の敵等を蹴散らして捕食する側に君臨する……そんな“銀”が多かったのだった。


 だから俺も強くなり、群に戻りたかった……


 幾ら俺を捨てたとしても、それはある意味仕方が無かった…俺が弱く狙われ易い存在だったので、あのまま居れば群全体が壊滅に追い込まれていただろう。


 そして俺は力を手にした。


 その頃には群が無くなっているとか……本当に運が悪いと言うべきか、そもそも縁がなかったと言うべきか………


 俺は絶望し、肌寒い秋口の北風を避ける様に『霊山』へ向かった。


 次いでに群の敵も道々取った………俺同様はぐれの“銀”ビッグボアだった。肉厚で得物の中でも極上の部類だ。だが……


 慣れたはずの独りの食事に俺は寂しさを感じた。


−俺は秋が嫌いだ………俺が孤独になった季節だから。


………………………………………………


 彼女と出会ったのは、多分偶然ではないと思う。


 秋口、寒い色をした夕方の空を見上げて今日はどうやって孤独を紛らわせるか考えていたときだった。


 何やら強者の匂いがしたので、その気配を追ってみた……すると、そこには黒い獣と銀色の獣が居た。


 2匹は唸りを上げると同時に目の前から消えた。そして次に現れた時は、空中で互いに噛み付かんばかりな獰猛な雰囲気を纏いながら牙を向き合っていた。


 いや、良く見ると片側は銀色をした細い線を束ねたものを使い、もう一方は長い棒の先に三日月よりやや真っ直ぐな刃物を付けた様な形の物を使っていた。


 そして、彼らを良く見ると……そもそも動物ではなかった。だけど、この時俺は始めてニンゲンを見たので正直何者か分からなかった。


 只1つ分かっていた事は、この者達の強さに自分が敵うはずが無いと言う事だった。


 そして数日間彼らの壮絶な戦いを見る事と成る訳だが……彼らが戦っている理由がよく分からなかった。


 有る程度戦って決着がつきそうになると互いに止め、小さい方の者が必ず魔の力を使っていた……その度に傷が全て治っていたのだった。


 そして戦い以外では、2人は仲良さげに過ごしていた。


 でもそれだけではなかった………小さい方の者には彼女に連なる者達が大勢居た。


 時々喧嘩もしていたが、俺と比べて皆楽し気だった。


 だが、“銀”だけは時折虚ろな表情で寂し気な雰囲気を漂わせていた………一瞬なので、誰も気付いている様子が無かったが。


 でも、そんな“銀”は儚く美しかった……


 まるで夢を見ている様な気分で俺は夢中になって数日間何飲み食いも忘れて彼らに魅入っていた。


 恐らくその頃の俺は強者だったので油断していたのだろう……


 案の定それから数日後に俺は背後から奇襲を受けた。普段なら避ける攻撃をまともに受け、さらに身体の調子が悪かった為格下相手に引けを取ってしまった。


 そして俺は攻撃を往なす事も出来ず、後一歩で胴と首が永久に別れる所だった………目前に俺より奇麗な“銀”が迫ったのは。


 集団を穏やかに見守りつつ黒っぽい者と一緒に居た小さな“銀”。彼女は圧倒的に強かった。


 俺ならもう少し掛かる様な敵を一瞬で倒し、攻撃は1つも受けなかった。


 そしてそんな鮮やかな戦いが終わると同時に………銀色の長い毛を棚引かせながら、その知的な透明度の有る紫の瞳を俺に向けた。


−ああ、喰われる。


 俺は彼女に敵わない事を直ぐに悟った……そして今度こそ圧倒的な敵によって“被食者”となるのだと本能で理解した。


−まあでも彼女ならいいかな…


 彼女の集団に居ながら時折見せていた俺と似て非なる“孤独”な表情を思い出し、彼女の様な美しい存在の糧となるなら別に良いかと何処か納得した。


 彼女はゆっくりと俺に近付いた……絶対的な強者の如く。


 そして………













「も…」


 も?


「モフモフだ〜♪」


 ……………………………思い切り抱付くと、全身を撫でられたのだった。


 彼女の予想外の行動に一瞬固まったが、彼女の小さな身体に触れて数年振りの温かさを感じた。


 そのまま彼女の“銀”に顔を埋めると……とても良い香りがした。


 温かくていい香りのする強い雌に出会った瞬間だった……当然契約を結んだ。


 ただ、彼女は契約を他の者達とも結んでおり、将来誰を選ぶのかは定かではない。


−俺は彼女の“家族”としてでもいいので一緒に居たい。


 秋口は必ず彼女と四六時中居る様になり、彼女の事が少しづつ分かる様になった。


 彼女は“ニンゲン”と呼ばれる最弱種の生物で有りながら、日々の努力によって俺達よりも圧倒的に強い存在となっていた。


 それも、一撃で弱っていたとは言え成体の“黒”の竜種を倒す程だった。


 彼女の周囲には強者が集まり、切磋琢磨していた。


 俺も彼女の側でずっと訓練した…その結果最近尻尾が9本となった………彼女の教えてくれた“9尾の狐”と呼ばれる強い魔物へと至ったのだった。


 人化している時彼女に普段通り触れると、彼女は頬を染めて可愛らしい声で啼く。


 そして怒った様な表情をしつつ、時折見せる寂しそうな表情をしなくなった。


 だけど俺は知っている。


 1番楽しそうにしているのは『ウォルター』と言う“黒”を除けば『ジャン』と名乗る“黒”の竜と一緒に居る時だと言う事を。


 正直悔しかった……


“彼女がしてくれたみたいに、彼女の孤独は俺が埋める。”


 そういう存在になれると思っていたのに………


 でも、俺は諦めるつもりは無い。時折さっきみたいにジャンは居なくなるから、その間は俺が彼女の側で孤独を埋める存在になれる。


 普段はふざけているけど、彼女が1番大事。


 だから今もこうやって温める。


 彼女にはずっと温かくて生き生きしていてもらいたい。俺の様に寒い所にいる必要は無い。


 彼女の優しい鼓動と寝息に安心しつつ、俺も目を瞑った。


 お休みなさい。良い夢を。


 癒しに成るかどうか分かりませんが、今までの話しの中だと割と穏やかな内容に成ったと思われます。


 ゴン君も普段は他人を振り回す(被害者は主にジャンクリやジャンクリ、時々ギルマスw)愉快犯です。しかし、同時に従魔の中では1番ルーナちゃんの心に寄り添おうとしている魔獣だと思われます…まあ、依存する部分もかなり高いですが。


 次回は読者様から以前頂いた技のネタが出てきます!宜しく御願い致します。

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