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悪役放棄、更に自由人へ(仮)  作者: 平泉彼方
第二章 自由気ままな冒険譚⑴
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1 まさかの迷子スタート

 読者の皆様、何とか投稿間に合いました。


 さて、今回から新章です。それでは本編をどぞ!


 はっと目を覚ますと、私は深い森の中だった。



 周囲は背の高い落葉樹と思しき木々が生えている。私の身体の下は、コケやシダがびっしりと地面を覆っている。そして見上げればそこには所狭しと葉を付けた枝が重なり合っていた…空どころか太陽光自体がここに届いているかどうか疑問だ。


 故に、森全体は極相まで至って居るのか真っ暗闇であった。



「え、ここ何処?」



 暫し呆然としていたが、そうしていても仕方が無いので移動する事にした。




 それにしても何て冒険の始まりだ、全く……ま、こういうハプニングにはとっくに馴れたけどさ。




◇・◆・◇・◆・◇・◆・◇・◆




 これは先程から数時間前と思しき出来事…



 船に乗って快適な旅をしていたフォーレンタール王国からの脱走者達、つまり我々は、ついに目的地へと到達した。予めフォーレンタールからの追手を振り切るためにも船での移動はそこまでだと決めていたのだった。


 そして到着したのは『ドライビル商業国群』の一部、ダイスウォールズ港。巨大な港を持ち、ドライビルで最も他国との貿易が栄えている地域である。



 当然現在ルナライト社によって各国に進出しているフォーレンタール王国からも貿易船は来る。確か大口の契約を現在交わしており、我が社の大きな収入源となっていたはず。


 そんな船の群達の一つに紛れて、我々は見事港入りを果たしたのだった…普通の商業船として偽装した上で。その辺は抜かり無いです、ウォルターが。



 ここまでは何一つ問題なかった…そう、順調そのものだった。



 予めこの港街に滞在するのは遅くとも3日と決めていた。追手は手前で撒いたとしても来ている事は事実なので、さっさとルナライト社ラウツェンスタイン本店から派遣された社員として偽名を登録し、トンズラする予定だった…


 なのに、好奇心に負けた結果余計な事をしてしまった。



 切掛けは疑いようが無い…冒険者ギルド。



 ルナライト社での登録作業を終え、業務も軽くこなしてから私は『イルマ』としてこの街のギルドへと向かった。簡単な依頼をこなして軽く暇つぶしする予定だった。


 戦闘の勘がどうにも鈍った感じがしていたので。


 出来ればA級討伐系で軽いウォーミングアップしようと思っていた…ここ数日ずっと安全な船の上で気を抜き過ぎたのでウォルターに尻を叩かれたとも言う。



 そして、目に入ってしまった……『迷宮』と言う言葉。



 何て魅力的な言葉…何て魅惑的な誘い文句……“探索者への果たし状”何て書かれていたらこりゃ受けるしか無いでしょ!


 しかも一攫千金も夢ではなく、何より迷宮をクリア出来た者へは賞金を出すと言われている…更に迷宮のレベルはSランク。現段階の私のレベル的には丁度良さそう。


 という訳で勝手に行きました1人で。



 うん、実は冒険者ギルドへも1人で来ています。


 ……他の連中はどうしたかって?


 ウォルターとジルヴァ(=シャドウ)は闇ギルドへ挨拶に行ったし、ウォーゼとナハトはウォルターの出した課題をしていた…あの2人は一体何処を目指しているのか未だに分からない。


 リヒター、ウィル、クロードの3人は図書館で地下に禁書庫を見付けた様なので漁りに行った。3人のいい笑顔を見て何となく脳内で警鈴が鳴った気がしたので、どさくさに紛れて逃げた。


 丹波には大食い大会のチラシに誘われてふらっと行ってしまったポワンセの面倒を頼んである…安定のフリーダムさを発揮したポワンセを抑えるのは事実上不可能だからきっと2人とも今ごとは苦労しているのだろう(合掌)。



 迷宮へ私は大丈夫だろうと高をくくって誰にも言わずに行ってしまいました…ああきっと後でウォルターからチクチク言われるんだろうな、立場を自覚しろとか危険だとか……まあ後悔は無いけど。


 迷宮は初心者から上級者と言われるだけあって最初の方から余裕でした。


 と言うか、これが他国のS級か…と思わず思ってしまった私の基準は間違っているのだろうか?確かに近年ラウツェンスタイン領の冒険者ギルドが色々可笑しいって言う噂を他領で耳にしたけどね。



 閑話休題(それは兎も角)



 雰囲気とか風景とか色々変化があって迷宮は面白い。具体的には、フィールドによっては森とか渓流、酷いので砂漠とかもあった(洞窟、何だよね?)。


 本来ならきっと数日掛けて攻略されるんだろうけど、生憎と私がここに居られるのは2・3日。故に色々端折った…きっと他の冒険者が知ったら血涙流してふざけんなって言うだろうと思いつつも魔力と科学力にもの言わせて『移転』繰り返した。


 後悔はあっても反省は無い(尚更質が悪い模様)


 魔物とかも居るには居たけど雑魚が多かった……弱いのでケイブバットと呼ばれる吸血蝙蝠。強いのでエンシェントワイバーン…正直広くない洞窟であの魔物ってどうなんだろうか?


 この迷宮を作った奴は相当の阿呆だって確信した瞬間だった(断言)。正直飛行する魔物を天井の高くない洞窟で門番(ボス)にするとかギャグとしか思えない件。


 ええ、正直色々なイミで唖然とさせられましたとも。


 そんなこんなで風景を楽しみつつ指先一つで素材集めしながら最下層付近まで行きましたとも。その頃には完全に迷宮を舐め切っていました。



 そして油断した結果罠に掛かってアボン……と思って目覚めた森の中に移転していた件。


 訳分からん。



 え、何で凄腕傭兵が一介の迷宮ごときの罠に掛かったって?


 話しの流れで察しよう……と言うか、ここは敢えてスルーする優しさを発揮しようか。暫く戦闘していなかったんだし弘法も筆の誤りって言うでしょ皆さん(誰に向かって話しているんだか…)



 さて、現実逃避する為過去をざっと振り返りつつも現在戦闘中です。



 周囲はざっと100くらいか……見事囲まれていますね。単独行動がこんな所で響いて来るとは本当に予想外だった…まあこの程度の雑魚相手なら指一本で十分だけどね。


 何てったって、コイツら私との実力差を測り切れていない様子だし。




 そして決着は薙刀を出すまでもなく一瞬だった。




 迷宮の洞窟内で拾った小石を指先で弾いたら次の瞬間爆音と共に周囲が終わっていた……風圧による倒木で二次被害も出ているっぽいし。


 さて、この間にトンズラするか。



 そう思って駆け出そうとした時、首筋がチリってしたので慌てて回避した……次の瞬間私の居た場所に大爆発が起こった。


 そして残るはクレーター。


 もしあの時躱していなかったら…そう思って脂汗がどっと流れる。やはり私は戦闘の勘を取り戻してないか。それとも“あの件”に一旦決着がついて気を抜いていたか。



 『弱肉強食』に変わりはないというのに…



 得物を取り出し私へ攻撃した者の居る方向へ構えた…この間1.5秒。前より遅くなっているな、明らかに。


 …やっぱりまだ気が抜けている。


 だが相手は待ってくれない。突然上を通るのは灰色をした物体…移動が肉眼で追えない程速い……慌てて圧力を利用して空気のレンズを構築した。


 然程大掛かりな魔術式ではないので直ぐに発動し、相手の正体を知った。



 ………何故、ここにアレが居る?



 それは、『千羽兎』と呼ばれる種族の亜種『ペネトラビ』の群だった……


 彼らは名前の通りあらゆるものを“貫く”兎……だが彼らの恐ろしい所はその貫通力ではなく、死をも怖れぬ突撃。


 相手が誰であろうと…それこそ天敵種のベア類であろうが地面だろうが、無関係に突進する。その結果何羽死のうと彼らは突撃を止める事はない。


 鋭利に先の尖った耳を前へ突き出し、彼らは進む。


 身体は鋼鉄の如き固い皮膚に覆われており、見た目もあの可愛らしい兎とは程遠い姿……アレは兎等ではない、厳密にはきっと爬虫類だ。少なくとも私はそう思っている。


 目はギョロッと飛び出しており、魔力を消費する度に紅く光る。


 手足は8本あるが、全てが動いている訳ではない……初めて知った時はちなみにスレイプニルと呼ばれる魔物を思い出した。



 全体像はオークションで剥製を見た事が有る程度だが、奇妙かつ嫌悪感しか齎さない様な姿だった……何度も言うが、アレは兎ではない。私は絶対認めない。


 あんな珍妙な害悪生物があのモフモフでフワフワなリヒターと一緒の種族だと誰が認めるか!!


 その剥製はちなみに違法オークションだったし回収した後しっかり粉々に砕きましたとも、ええ…あれは存在しては鳴らない者ですからね、絶対。


 きっと世のモフラーなら分かってくれるかと…兎はモフモフ、異論は認めないのです!!



 故に、さっさとこの耳だけは兎な物体は処理しないと駄目ですね……汚物は消毒です。



 早速魔術式で私は移転の応用をした……自分の肉体が耐えられる程度に時間を“移転”させる術式を掛けて加速しました。少し筋肉がミシミシ行っていますが後で治療すれば問題無い。


 それより目前の物体を消すのが先決。


 ギョロリと飛び出したグロい目をこちらへ向けると連中は私へ迫って来た。当然剣の様な耳な此方へ向いている…奴等の狩りはあの得物で標的を刺し殺してからその肉体を貪る形式だ。


 そう、言い忘れていたが彼らは肉食……それ以前に魔物の大半は肉食であるが。


 ちなみに奴等の食事後に残るのは地面に染み込んだ血のみである…正に骨まで喰い尽すバケモノである。


 更に獲物に有り付けなければ共食いもする、そしてどれ程厳しい環境であっても一羽居れば幾らでも増える害獣認定を受けた魔物である事も有名だ。



 ………理性の無い小鬼(ゴブリン)以上にゴキ●リである。



 私は突っ込んで来た物体を次々真二つに切った…切られた奴等は粉々に砕ける。理由は知らないが、奴等は完全な状態で死亡しなければ身体を遺さない。


 冒険者にとっては危険な割に実入りの少ない害獣として他の殿魔獣よりも嫌われる傾向にあるのは言うまでも無い。見た目も相まって、余程の物好きでなければ皆、奴等は嫌いだ。



 そして、私は…大嫌いだ。



「ああもう……だからイヤなんだよ。」



 刃毀れを起こした薙刀を見て、私は涙した。


 ……コイツらが嫌われる理由は単純にそれだけではなく、奴等を切り裂く度に武器の耐久度が下がるからである。先程使った薙刀は本命の奴ではないが、それでも再起不能にしてしまった事に変わりは無く、辛い。


 それでも刃物でなければ奴等は裂けない。


 厄介な事に奴等の皮膚は電気で言う所の絶縁体の様な役割をしている…魔力を一切通さない=他所の魔力によって発生した現象から影響を受けないのだ。



 ああもう……泣きっ面に蜂だ。



 亜空間へ私は薙刀をそっとしまうと、サブウェポンである鉄扇を取り出した…此方も念のため本命は使わない。


 どうもこの森、おかしな事になっている様だな。



 さて、少し調べてみますかね……『門』の魔術式が何故使えないかも含めて。



 そんな分けで、暫くルーナちゃんの一人旅が始まります……恐らく沢山の疑問を抱かれるかと思われます、例えば彼女の従魔達とかが心配しないか等。


 ですが、ちゃんとオチがあるので大丈夫です。


 早速初っ端から戦闘シーン入りましたが、これからも多分続きます……さて、ルーナちゃんは果たして皆の元へ無事帰還出来るのか。


 それでは次回も宜しく御願い致します。

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