表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役放棄、更に自由人へ(仮)  作者: 平泉彼方
幕間1 それぞれの終幕、又は序幕
118/142

終章、又はそれぞれの前章①

 読者の皆様どうもこんばんは、何とか原稿間に合いました。


 さて、今回は王様視点です。それでは本編をどぞ!



〜〜〜〜〜〜(王宮)〜〜〜〜〜〜



 到頭行ってしまったか…



 公爵領からジルヴァが婚約者の令嬢と共に出奔したと言う一報は早急に王宮へと届けられた……そして邪魔してやるな、とも。


 カタリと私は紅茶を机に置き、ふと中身を見る。



 その水面に顔は、寂しそうに歪んでいた老けた自分の顔があった。



 完全放任主義と言えば聞こえはいいだろうが……その実私は完全な育児放棄と言う虐待をしていた。


 だから、子供が早々に巣立ってしまったとしても寂しがる権利は無い。今まで空へ駆ける立派な両翼を縛って悪辣な環境へ放置していたも同然の事をしてしまった。


 そんな中でも彼奴は逞しく力強く生き抜いた……そして初対面で嫌われた歴代最高と名高い公爵令嬢の心をどうにか射止め、自力で生きる力や知も同時に取得した。


 全て努力によるもの…とは最終的に言い難いが、それでもそれらを得る過程で多くの苦を背負った事は紛れも無い事実だ。



 曰く、世界が寿命を迎えてまた生まれてを幾度も繰り返す程の永き刻を往く間の“記憶”と“感情”を受け止めたそうだ。


 正直な所、途方も無さ過ぎて想像もつかない話だ。


 その永き刻、彼奴は一度も静寂を迎える事が出来ず、自らの半身と巡り会う事も無かったそうだ……生きる事を半ば絶望視していたと言う。


 発狂も死も許されず、彷徨い続け…


 こことは違う場所で一度はようやく逢えた半身。だが、結ばれる直前に死に別れしたそうだ。


 そして再び逢え、今度は“それまで”を背負い受け入れようやく結ばれた。



 どこの物語や言伝えかと勘ぐりたくなるだろう。


 恐らくあの事件を目撃しなれば、私もまた荒唐無稽な話しだと一笑していたに違いない。



 数日前まで彼奴と共に業務をこなして居た机を見る…そこは几帳面に掃除がなされている。彼奴が共に居た形跡は最早どこにもなかった。


 もぬけの殻、という言葉が適切だろうか。


 まるで最初から存在しなかったが如く、そこには何も無かった…あれ程積み重なっていた書類も、ルナライト社ロゴ入りの限定マグカップも、婚約者から貰ったらしい銀色のペンとケースも。


 全て居なくなってしまった…



 だが、どこかでこうなる事は分かっていた筈だ。



 ふと、私は自分の机から立ち上がり彼奴に与えた机へと移動した。


 私自身の気に入っている黒檀製の上品で深い味わいの有る、機能美の際立つ一品…次いでに我が悪友セヴェンも愛用している品だったりする。


 一つ違う箇所は、机に備え付けられたドワーフ族製のミスリルで製造された引き出し部分だろう。そこには王家の紋章と共に王族各自が個人的に持つ紋章が描かれる。



 私はテッセン(クレマチス)……『束縛』『策略』『高潔』



 お似合いの花だと自分の事ながら苦笑したのは苦い記憶だ…私は相手が苦しむと分かっていながら愛した相手を徹底的に自分の周囲へ置いておこうとし、様々な策略をかつて巡らせた。


 結果的に私の本当の妻は苦しみ亡くなった。


 そして妻の遺した子供が苦しむ事を知りながら私は自分の手元へ置くと、彼奴を利用してあの阿婆擦れと糞餓鬼を表舞台から追放した…彼らは恐らく永久に戻って来る事は無い。


 幾ら相手が不誠実な国といえ、国同士の約束を破ったばかりか相手国の王族へ手を下したとなれば国際問題に発展する。その事への誠実な対応を欠けば、当然周囲からの信用を失う。結局自業自得で経済・社会制裁を受ける事となる。


 話しを戻すが、私は決して高潔は当てはまらないが殆どの部分がこの花の花言葉と合致する…それも恐ろしい程。


 王族個人の紋様は代々成人時の夢で発現するもの。


 原理は分かっていないが、一説に寄れば深層心理や隠された個人の資質が成人の儀の後何らかの理由で表へ出るのでは無いかと言われている。



 ジルヴァ個人の紋章はアイビー……『死んでも離れない』



 ある意味では彼奴らしい紋様だと思った…本人は呪われていると苦笑していたが。


 また、何故か黒百合と時鳥草らしき花の影も薄らと見たらしい。前例も無く、異例ではあった。だが全て彼の紋様として見なし、机の引き出しにきっちり描かれている。


 3つの性質と3つの草花。


 そして意味合いを3つ併せて考えれば『死んでも離れない、呪い・愛、永遠に貴方のもの』……まあつまり、終始1人を死ぬ事が出来ない呪に囚われる程愛すと言う事。



 何と言うか………相手が心配になった。



 だが、2人の様子を見ている限りは結ばれるのが正解だったと言うのが何となく分かる気がした。現に2人は共に飛び立った。



 そっとその机を撫でると、魔術式が発動した。



 私は慌てて机から離れ、自分の机へと戻ろうとした……だが、何故か私の身体がそこから動かなくなっていた。


 思い当たる節は幾つもある…恨まれる様な人生を送っている事に自覚はある。特に親族関係で私は深い恨みを持たれている筈だ。


 結局は簒奪王と呼ばれて相違無い事をしているのだから。


 そうして覚悟を決めて身構えていた…のだが、その決意は無駄となる。魔術式の発動が終わると突然机の上に封筒が3通出現したのだ。


 2つ小さめ、1つ大きめか……恐らく私宛にあの2人か。


 こうしたギミックを好むのは多分あの令嬢だろう…セヴェンの血を間違いなく継いだあの真面目なのにえげつない悪戯が好きなあの令嬢のドヤ顔を一瞬思い出す。


 …何故か王宮の結界をスルーしてこの執務室に出現していたっけ……その度に驚かされた気がする。


 大体分身体が来るのだが、同時に多くの土産をされたものだ。


 主に問題ある貴族の証拠書類とか、役人の不正や裏取引に関する書類だとか…本当にセヴェンの娘だと思った。毎回登場で驚かせた後土産で驚かせる。


 確かに助かる事は助かるが……毎回何故、正規或いは正規でなくとも裏門から普通に来ない?!



 衛兵が侵入者が来たと1時間後位に来る事へゲンナリするべきか、叱るべきか……毎度、毎度頭が痛くなったものだ。



 そんな、今では既に懐かしい気分にさせられる記憶を思い出しながら、封筒の封を切った。




 そして、1通目の手紙を見て私は涙を流した。




 息子からの手紙であり、自分はこの国をどう言う理由で去るのか懇切丁寧に説明されていた……彼奴らしく、相も変わらず几帳面な文体だ。これでは手紙ではなく報告書であろうが。


 今後の計画については書かれていなかったが、一応目標は書かれていた……是非頑張ってもらいたいものだ。



 そして2通目の封を切る……同時に出て来た手紙へゲンナリした。



 そこに書かれていたのはラウツェンスタイン公爵領にある学校の詳細とこれからの領内における方策と方針について……そしてこの国の方向性についても。


 此方も報告書の様な印象を受ける内容であった。


 頭や耳の痛い事が山ほど書かれており、この後の仕事の量を考えて私はガックリと項垂れた…確かに助かるのだが、もう少し分けて伝えて欲しいものだ。


 ま、そんなことを言おうものなら『優先順位は自分で考えろ』『国王陛下、甘えないで下さい』『馬車馬の如く働いて下さい』と叱咤されるのだろうが。


 ………今更だが、セヴェン同様あの親子は鬼だ。



 そして、更に続きを読んで……もう吹っ切れた!!



 仕事の増量?もういいはそんなもの、とうに諦めている!!国王になってから休んだ試しは無いのだからな!!!


 ああ〜…たまにはのんびりしたい……


 けど当分は無理そうか…うん、改めて目を通して無理だと言う事がよく分かった。



 まあでもあれだ……道連れが出来る分マシか。



 手紙には今後国を発展させるべく科学力を着ける事を推進しする内容となっていた。魔導の発達の結果、彼女の前世と比べて科学の発展が相当遅れているそうだ。


 そしてこの国は立地が良くも悪くもある。


 ある程度の猶予はあるが、四方八方様々な国に囲まれ未だ冷戦が続いている状況である事には代わりが無い。そして戦争がいつ再会しても可笑しくはない。


 この国は豊かな土地も海も有り、そして国民の総人数も多い。


 その分他国の持たない多くのものを持っている。何時周囲に手を組まれてやりだまに挙がるか分かったものではない現状だ。


 なるべく早い段階で他国と国力に差をつけなければ常に危ういのだった。


 そしてその対策として『科学』で差をつける。


 その為に、この国に存在する前世の記憶を持って転生した人々とその人達の知識を有効利用する計画が彼女の手紙へ大雑把に描かれていた。


 何となく想像は付く……これを放出した理由と今まで何故出さなかったのか。



 恐らく『裏切った』者達なのだろう。



 そのネタを使ってある程度脅す事も出来るようになのか、それらを仄めかすネタも書かれていた。同時にいやらしい事にその人物の大事にしているものや人の事、その人物の性格や性癖等。


 何故こんなものまで知っているのだろうかと背筋が冷たくなる様な事が多く書かれていた。



 この手紙はきっと餞別だな。



 きっと今、とてもとても黒い笑みを私は浮かべているのだろう……自分の口角が三日月の如く歪んでいる事は容易に分かる。


 何せ、今この段階で既にどの様にここに記載された人物達を利用するか考えが浮かんでいるのだから…どうこの国を発展させて行くかも含めて、だ。



「ク、クククククク……フフフフフフ、アハハハハハハハハハ!!!」



 思わずこれらの置き手紙に私は抑えきれず、遂に大声を出して笑っていた……ああ、それはもう、感情任せに。


 これ程笑ったのは何年振りだろうか?



 ああ、実に愉快、快楽な気分である。



「あの……」



 ふと、一瞬で現実に戻す様な声が聞こえた…慌てて振り返って見た。


 そこには最近よく見かける顔があった。



 セヴェン…と言うより我が妹に似た顔つきの痩身気味な少年。


 そして、特徴と言うべきは若いのに苦労しているのか髪の毛が少々薄く寂しい印象がある所か…但し、最近になってマシになって来た気がするが。


 そんな少年…アランは、引き攣った笑みを浮かべていた。



「あの、お取り込み中でしたら…「いや、今済んだ所だ!!」あ、そ、そうですか……」



 さ〜て、仕事を少しでも減らす為にも此奴に手伝わせるか……どうせ息子が戻って来なければ私の跡継ぎは此奴になる訳だから、今の内に揉まれるがいい!!


 そして私の目線を受けて、慌てて逃げようとしたので捕まえた。


 奴にとっての妹の手紙に書かれた人物について再度調査をする事と情報整理を先ずはさせてみるか……指示を出すと、ハラハラと髪の落ちる幻想が見えた。


 慌てて私の行った言葉をメモに書くと、部屋を出て行った。



 また私1人になった部屋で、最後の封筒を開く。



 そこには………




 そんな分けで『置き土産〜其の壱〜』と『アラン君の災難』でした。


 申し訳ないです、終章はもう少し続きます……作者としても、114話だけで第一章終わりだったら不満が残るのでもう少しだけ別視点を描こうと思っております。


 それに、この王国も今後関わって来ると思うので……多分。


 それでは次回もどうぞ宜しく御願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ