勇者を召喚してRPG世界に放り込むだけの簡単なお仕事2
「勇者を召喚してRPG世界に放り込むだけの簡単なお仕事」http://ncode.syosetu.com/n4163bw/の続編かもしれない、そんな何かです。前とは違う女神様です。
私は女神である。故に名前など必要ない。
愚かなる人間共などは、私をただ「女神様」とでも呼び、媚び諂うくらいが調度良い。
そんな私の仕事は、烏滸がましくもこの私の目の前に現れる人間を、適当な世界に振り分ける事だ。
例え卑しい人間であろうとも、正しく相応しい世界に振り分けるのが、私の仕事だ。
それは私という選ばれた存在にのみ許される、高尚な仕事である。
故に、私は、例え矮小な人間共が相手であろうとも、その者を正しく見定め、適切な分相応な世界へと振り分けるのである。
この役目を軽んじるのは則ち、私という存在そのものを軽んじる事に他ならない。
さて、肝心の人間共であるが、此奴らは得てして下らない存在である。
大体の者が、自らを尊大で選ばれし者だと思い込んでいる。
例えば、先程私の目の前に現れたこの男である。
どうやらこの男は、不慮の交通事故に遭い、此処に送られた様だ。それからずっと
「トラックで異世界トリップキタコレー!!」
だとか、
「チートでオレTueeeee!! ハーレムはよ!!」
だとか、意味の分からない事を喚き散らしている。
此れでは、此奴を撥ねたという、「とらっく」とやらの操縦者が、たまらなく不憫である。まぁそれも私にとっては一興だが。
男の表情は、最初こそ絶望的な色を見せていたものの、今では訳の分からぬ戯言を叫びながら、歓喜の表情に満ちている。
私自身としては、最初の表情が人間という生物として至極魅力的だと感じたのだが、今のこの男は、ただのゴミ屑、いや、それ以下である。
「ソレで!? オレはどんな世界に送ってくれるんだ!? チートはどんな!? ユニークスキルとかあんなら選びたいんだけど!!」
さて、何の事だか。
しかし、仕事は仕事である。故に私は、このゴミ屑と会話をしなければならない。
既に外見からの査定は終了している。
あとは、このゴミ屑が、私との会話でどれだけマイナスポイントを補整できるか……だが、これではそれも難しいかもしれぬ。
《何者にもなれない貴様に敢えて告げよう。貴様には二つだけ選択が許されている》
「えっ? 何言ってんの。オレってば勇者でしょ!? そんで、カワイ子ちゃん引き連れて、魔王とか倒しちゃったりして、れっつ! はー!! れむ!! はー!! れむ!!」
そう言いながら、片腕を斜めに振り下ろす運動をするゴミ屑。
何をどうしたら、そのような都合の良い妄想が叶うなどと信じられるのだろうか。
《何の事だかさっぱり分からんな。先程から言っている『はー、れむ』? やら、『チート』やら、意味の分からぬ戯言を垂れ流すのを辞めろ。
さもなくば、貴様に残された唯一の選択権、此れも取り止めにしてやろうか》
「えっ、分かりました黙りマス」
《よろしい》
ゴミ屑は今度は、飛び上がりそのまま正座の姿勢で着地する。
最初からそうしていれば良い物を、無駄に喚くからこうなるのだ。
《では、貴様に与えられた次なる生は、次の二つだ。
嬉しかろう? 寛大ながらもその中から好きな方を選択させてやろうと言っているのだ。
文句は無かろう》
「二つしか無」
《文 句 は 無 か ろ う ?》
「ありません」
《一つ目は、奴隷として虫けらの様に扱われるものだ。
何、心配せずとも良い。赤子から建設的に始まる生故、分別つく頃合いには其れが当然と理解出来ているだろう。
先までの生の記憶も持たぬ故、却って暮らしやすかろうぞ。
貴様次第では、奴隷身分から脱却出来るかもしれぬ。あくまで可能性だがな》
「ど、奴隷……」
絶句し生唾を呑むその表情。先までの生の罪とも知らず、受け入れがたいとでも言いたそうな目。たまらぬ。実に良い表情だ。
《もう一つは、建設的な生では無いが、先までの生の記憶を持ったまま迎えることになる。
とある世界の下級モンスターと言われる存在の成体として始まる生だ。
実体も持たず、粘体として、力も持たず、言葉も持たず、ただ記憶だけを持つ下級生命体だ》
「つまり……『スライム的な何か』……?」
《知らぬ》
私はゴミ屑に選択権を与え、その選択肢の内容を示した。後はこのゴミ屑が選択した世界に、送ってやるのみでこの仕事は完了する。
しかし、ゴミ屑のくせに何を迷うているのか。さっさと次の生を選ぶが良いものを。
私は何処ぞの怠惰な女神とは違い、既にノルマは達成している。あとは、ただ、送られてくるゴミ屑を分別するだけだ。
「な……なんでよりによってその二つなんだ!? オレが何をしたって言うんだ!?」
ほう、どうやらこのゴミ屑、己の罪の自覚が無いと言う。
ならば特別に、その罪を教えてやろう。
《何をしたか? 違うな。貴様は『何もしなかった』のだ。
例えば、幼き時分、遊び場とやらで仲間外れにされている罪もない友人に、手を差し伸べたか?
学徒だった時分、虐めとやらをしている者の間違いを示したか? 苛まれ苦しむ罪もない友人に、手を差し伸べたか?
学徒としての義務を終える時、職に就かねばならぬというのに、貴様は、その努力をしたか? あまつさえ、親の汗水垂らした金で、遊んでいただけではなかったか?
お前を養う親に、感謝はしていたか? 何の見返りも無くお前を食わせる親を、罵倒したりしたのではなかったか?
匿名だからといって、他人が懸命に考え描き上げた世界に対し、意味も無い中傷はしなかったか? 他の人間がやっているからと、何も考えずにその波に乗ったりはしなかったか?
貴様は『何をしたか』と問うたが、答えはこうだ。
貴様は『己の頭で考えない』をしていたのだ。
そのような者に、考える為の頭脳など不要だろう?
ならば、何も考えずに、他の考える生物の為の駒になる方が、余程合理的であろうよ。
そうは思わぬか? あぁ、貴様は『何も考えない』のだったな。下らぬ問いに時間を取られてしまった》
私が述べたこのゴミ屑の罪は、振り分ける際に使われる、外観を観察するだけでその者の罪状が分かるという能力によって得たものである。
ある程度の「女神」としての実績が伴わなければ、付与すらされないものだ。
故に、私はこの者の言う所の「チート」とやらも使ってはいないし、この地位も能力も、実力で掴み取ったものである。
だからこそ、私は、努力もしないくせに恩恵だけを賜ろうとする人間を、好ましく思わないのである。
中には、鍛錬を積み重ね、己の才を伸ばす人間もいるが、そのような者は「ゴミ屑」としてなど扱わず、その努力を尊び、個としての存在を認めているのである。
つまり、先程述べた通り、その与えられた頭脳を活かしもせず、恩恵だけを受け取ろうとした目の前の「ゴミ屑」は、それ故に先の二つの選択肢が用意されたのである。
さて、そのゴミ屑同然の男であるが、私が出した問いの答えに、自らの行いだというのに打ちひしがれている様子である。全く、最後まで己の脳を使わない男である。
その後、ゴミ屑が選択を拒み続けることに待ちくたびれた私が、奴の次の生を「適当に」選んで放り込んでやったのだが、すぐに次のノルマ期間が始まった為、奴の次の生をどちらにしたのかまでは覚えていないのであった。
稀にだが、よくあるケースなのだ。
こういった輩は、経験の浅い女神ややる気の無い女神では手に負えない為、私に回される比率が割合高くなっている。
其れが私のノルマの早期達成に繋がっているのが皮肉ではあるが、経験の浅い女神はともかく、やる気の無い女神にとっては自業自得だと考えている。
私は女神である。
ゴミ屑の様な人間共にでも、公正に次なる生を導く、高尚な女神なのである。
故に、人間共はせいぜい私のことを「女神様」とでも呼び、媚び諂っているが良い。
其れすらも出来ぬ愚か者の事などは……知らぬ。