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6.下げ緒(二)

 さて、実際に下げ緒を鞘に結び付けたままで、練習を開始してみると予想以上に、鞘引けが難しく、抜き付けや納刀の時に違和感があった。むしろ、戦前の居合撮影フィルムに多く残る鞘に下げ緒を付けない状態の方が容易であり、身体的諸動作にも問題は無かった。下げ緒無しでは、早納刀も十分出来、片手の抜き打ちでも思っているように抜刀でき仮標も思っている部位を斬ることができた。

 そこで、最初から鞘に下げ緒を結んだままで、練習している友人に再度、聞いてみると初心者の時からその様に練習しているため、難しいとも思わないし、抜き付け、納刀時にも違和感を全く覚えないとのことであった。


 その友人の回答を受けて、鞘に下げ緒を巻付けた状態で、従来通りの抜き付け、納刀が出来る段階に復帰するまでの期間が、一~二ヶ月掛かった訳である。実を言うと、形だけであれば、割合に短時間で習得できたのであるが、巻き藁に向かって古流の形通りの試斬を問題なく行うためには、予想以上の時間を必要としたのであった。


 上記の種々の実験過程で、鞘に対する下げ緒の結び方を自分なりに色々と工夫してみた。第一にやってみたのが、以上述べたように、正式結びの下貝の口であり、第二に挑戦してみたのが、俗にいう、「巻結び」で、武士が刀箪笥や刀箱に保管する折の結び方で、栗型の後ろに簡易的に巻き付ける方法である。

両方やってみると、正式の「下貝の口」よりも、簡易的な「巻結び」の方が、鞘引けがシックリしていて、中々良かったし、自分には合っているように感じた。

 念の為、古流で、最も長い刀を使用する博多のO先生にお聞きしてみたら、やはり、「巻結び」とのお答えだった。念の為、O先生の練習刀は四尺以上で、海外の演武を含めて、大勢の方の前での演武の折りには、失敗の無いように、三尺五寸(約106cm)の短めの大太刀を使用されている。確かに、演武を拝見しても、大太刀を無理なく操作して、抜き付け、納刀をされていて、全く遅滞が無い。スムースであり、蹲踞からの瞬間的な受け流しの動作にしても、我々が二尺五寸(約76cm)の刀で行う動作と遜色は無い。残念ながら、以前、三尺(約91cm)の刀で居合を練習したことがあったが、O先生の倍のゆっくりしたスピードでも諸作が予想以上に難しく、苦しく、困難を感じた記憶がある。

先生に納刀の際のポイントをお聞きしてみたが、下げ緒や鞘引けよりも、鞘に切っ先が入る瞬間と刀身が中間まで入った状態、そして、鎺が鯉口に収まる直前の微妙な鯉口の角度が大切との教えだった。下げ緒に関しては、初心者の段階で帯と袴との関係を上手に習得されていて、今では、意識してさえされていない感じがした。


 そこで、原点に立ち戻って、一般的に殿中差と呼ばれる黒漆塗りの鞘で黒の柄巻の拵と居合愛好家が好む肥後拵、及び、半太刀拵の三点を用意して、下げ緒無しの状態と「巻結び」の下げ緒での二種類で、自流の古流の形数種で比較して見た。それぞれの拵に入れた刀身も出来るだけ、比較時の差が出るように殿中拵には、二尺五寸(約76cm)、肥後拵には短い二尺1寸(約64cm)、半太刀拵には常寸に近い二尺3寸余(約70cm)の刀身の物を用いてみた。二ヶ月間の練習の結果が多少あったようで、下げ緒無しと「巻結び」双方供に、従来取得した形の諸動作を遅滞なく行うことが出来たのであった。更に、練習を積んだせいか、長さの異なる刀身の納刀時にも下げ緒が邪魔になって苦労することも無くなった。最後に、脇差も共に差した状態の大小差し姿で、抜き付け、納刀を試みたが、この間の諸動作でも「巻結び」で違和感を覚えなかった。

また、「巻結び」で刀掛けに掛かっている大刀を持って、道場に入り、神前の礼、刀礼と行って、形の練習、試斬の練習を終日行い、夕方、刀掛けに戻した刀の下げ緒を見ても、朝、最初に刀掛けに掛かっていた状態と何ら変わった印象は無かった。(思わず微笑)


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