表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/52

51.『細身の刀』で斬る

 最近、普段余り使用しない『細身の刀』で斬ってみたので、その印象も含めて述べてみたい。

 この刀は、二十数年前に懇意の美術店から、他の刀と共に買い求めた一口ふりだったが、入手して直ぐに、親しい刀好きの友人が「試漸用」に譲って欲しいといわれて譲渡したものだった。

 その後、何人かの友人の手を経て、旧所有者である小生の元に還っていた経緯のある刀で、軽く振りやすい刀身に惹かれて各人が入手したものの、実際巻藁を斬ってみると、今ひとつ重量と身幅が納得できなかった試斬の結果によって、持ち主が移った経緯を感じている次第である。


 まず、最初に、この刀を理解戴くために刀身各部の寸法の概要を次に示す。


            刃  長    59.1cm(1尺9寸5分)

            反  り     0.4cm

            元  幅    2.65cm 

            先  幅    1.75cm


 この様に、寸法的には「大脇差」なのだが、付いている江戸時代の外装の鞘が、外観だけ長く、2尺2寸程に見えるようにしている関係もあって、前の所有者達も気にせずに斬っていたようだ。柄も当然、鞘の長さに合わせるように8寸弱の大刀の柄が付属している。合わせ鞘かと思って、確かめたが、鞘と刀身にガタが無く、「うぶ」の古い鞘に感じた。

 刀身は大擦り上げ無銘で、形状としては反りが極端に浅い、「寛文新刀姿」であり、深い反りを好む古刀好きの所有者には向かない姿をしている。

 それ以上に、長年の研ぎ減りのためか元先共に身幅が相当狭くなっており、「試斬用」の刀身としては、相当、苦労しそうな現状だったが、その割には江戸時代の所有者にも大事にされていたようで、時代のある「銀着せの鎺」が付属していた。


 地金を観ると寛文新刀姿の棒反りの割には、「古く感じる地金」で、どうやら末古刀位はありそうだった。刃紋もどこか古風で、「小互目に小丁字が混じり」、刃幅も現状、やや狭めで、刃も全体に眠く、試斬用の刀身としては、細身・軽量以外は好ましい印象を受けた。


(『細身の刀身』の「欠点」と「長所」)

 次に、『細身の刀身』の「欠点」と「長所」を思いつくままに挙げてみたい。

 まず、実際に試斬を日常繰り返している人にお聞きしてみると次のようなご指摘を受けるケースが多かった。

・試斬に最適な好ましい「重量」と斬れ味に直結する「広い身幅」は最低限必要

・先幅で、2.5~3.0cm程度が個人的に好ましい身幅とのご意見が多かった

・その一方で、重ねは、標準的な日本刀よりも「若干薄くても」良い人が多かった

・特に、「平肉」に関しては、美術刀愛好家が好む「タップリした平肉」の刀はとても、

使用できないとの意見だった


 刀の作者と時代の好みに関しては、当然ながら「斬れ味で名のある現代刀」作者の刀身が多く、時代が古くなるほど、美術刀保存の観点からも少数意見だった。


 圧倒的に細身の刀身に関しては「弱点」の指摘が多かったが、「長所」も含めて少数意見ながら採り上げてみたい。

・軽量で扱いやすい刀身が多いので「片手斬り」には好ましい

(実際、抜き打ちでの「袈裟」、「逆袈裟」での使用には抵抗無く斬れた)

・細身の刀身での「水平斬り」では、両手での試斬は良いとして、片手抜き打ちの場合苦労させられるケースが多かった

・軽量のため、「連続動作」での試斬向き


(実際に斬って見た結果)

 研ぎ減ってはいたが、刀身全体の印象からは、「良く斬れそう」な感触を持ったので、簡単に「寝刃」合わせて斬ることした。

 軽くて短めの刀身の特長を生かして、「小太刀」風の片手斬りで斬り始めることにした。

 刃筋さえ正確に合わせると「袈裟」、「逆袈裟」共に良く斬れたし、連続動作にも軽量の刀身が生きて無理なく両断できた。

 その一方で、狭い身幅と軽量の刀身の影響は大きく、少しでも刃筋を間違えたり、斬り付け時のスピードが遅いと一枚巻きの巻藁でさえ両断できない結果だった。

 その点、尋常な長さと重量がある通常の「日本刀」は使い勝手も良く、洗練された形状と重量を持っていると改めて感じた次第だった。


 それからもう一つ付け加えると、軽量、細身の刀で斬る場合の注意点として、「一般の刀身の物打ち」ではなく、若干、「鍔に近い位置で斬った方が良く斬れる」ケースが個人的には多かった印象があった。

 その位置関係は微妙だが、刀身が細ければ細いほど実際の物打ちの位置は切っ先から遠い位置が好ましいように感じた次第です。


(まとめ)

 2尺前後の短い刀身の刀は、江戸時代、元服前後の若年の武士の差し料や女子の非常時の帯刀として用いられたケースが多かった。

 膂力に関して成人の男子に比較して若干劣る人達の常用刀としての機能性を考慮すると「形状的」にも好ましい刀身だと思われる。

 その一方で、「果たし合い」等の非常時には、「短く軽量の刀身」では若干の不利を考慮する必要があり、当時の女性が、そのような場合、「薙刀」を主武器として戦いに臨んだ逸話も多い。

 逆に、男子が果たし合いに臨むケースでは、手慣れた長さの大刀に添えて、日頃指している「中脇差」ではなく、2尺前後の刀や大脇差を差し添えとする場合も多かった。「鍵屋の辻」の荒木又右衛門にしても、大刀が折れた後半戦では、大脇差(2尺1寸1分の大刀との説がある)で戦闘を継続して、無事、生き残っている。

 それに、太平の江戸時代には、そうそうないことながら、万が一、戦闘中に片手を負傷しても、小太刀の軽い刀の場合、「片手使い」で、戦闘を継続できる利点もあった。


 余談になりますが、江戸時代の武士の中には、就寝時に枕元に置く「枕刀」に常用よりも短い、2尺前後の刀を置く侍も多かったと聞く。寝入りばなや熟睡時に起こされた際、通常の差し料の2尺3寸5分の長く重い刀では、瞬間的に十分な対応が難しいことを配慮した心得ある対応だったのだろう!

手元の蔵刀の中に、今回使用した刀身と良く似た長さの在銘の末古刀を所持していますが、こちらの方は、刀身が短めな点を除くと身幅尋常で重量もそれなりにあり、戦場での使用にも「長さ」以外は問題がなかったと思われる刀身である。これなども、枕刀として、適当な小太刀ではあるまいかと勝手に想っている次第です。

 本稿では、『細身の刀身』の刀で斬った経過について若干、触れてみた。上記した以上に多くの経験を積まれた方も多いと推察しますので、是非、ご教示とご叱正を頂ければ幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ