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21.狭い身幅の刀で斬る

 前回、「反りは同じでも時代で違う刀姿」に関連して、人によって大きく違う「反り」の印象について現代刀と古刀の実測値を織り交ぜながら述べてみた。

確かに、刀には棟側の反り(日本刀の登録証記載の基本的な反りはこちら側の数値)と刃側の反りがあって、刀全体の姿から来る反りの印象は、棟の反りと刃側の反りの平均的な値に感じる初心者の感性も、もっともな気がするが、一応、伝統なので、棟側の反りで、これからも表記して行きたい。


さて、日本刀の優美に反った姿の美しさには、世界的な定評のある所である。ヨーロッパ、アメリカを始めとする諸外国にも多くの熱烈な愛好家が存在する。

しかし、日本刀の驚異的な斬れ味の基礎に「日本刀独特の反り」と「長い柄の利点を最大限に生かす両手使いの技法」が大きく働いている事を知っている外国人は驚くほど少ない。

それは、世界的に見て、「刀は片手使いが基本」だからである。もちろん、ヨーロッパ中世の剣にも両手使いのロングソードはあるし、中国その他の国にも少ないけれど両手使用の剣がないことは無い。けれども、比率から見ると両手使いの刀剣は少数派であることは否めない。海外の両手使用の剣は、日本刀と比較すると信じがたい程、身幅が広く、重量で切断するような印象をその外観から受ける場合が多い。

日本刀で斬る場合、反りも大事だが、刀の身幅、特に先身幅が大事そうだと抜刀道の先達中村師範の記述を元にして述べさせてもらったが、世界的な刀の流れから考えると中東系の湾刀と共に斬る刀としては細くスタイルの良い方である。

確かに、日本刀の中でも南北朝時代の刀、特に延文貞治頃の太刀の多くは、元幅と先幅に大きな差が少なく豪壮である。試斬に用いた場合、身幅の広い刀は、刃筋が通り、比較的柔らかい物を斬る場合は、信じ難いくらいの斬れ味を発揮した記録が多い。

一方、戦国時代の激しい合戦で使用された末古刀の多くは、以前にも述べたように2尺2寸前後と長さは太刀よりも短く、身幅の元先の差も南北朝の大きな身幅の刀に比較して、何処か、スタイルの良い、先身幅7分強(21~24mm位か?)の姿の刀が多い。

特に、戦国期の末備前等の註文打ちの場合、戦場での曲がりを防ぐためか、極端に重ねの厚い刀身を拝見する場合があるが、「重ねと斬れ味」に関しては、別の機会に考えてみたい。


それでは、最初に、この15年間に友人と共に試斬を行った刀で、先幅の細い刀や脇差の中で、記憶を残る斬れ味を思い起こして挙げて見たいと考えている。


(狭い先幅の刀・脇差で斬る)

最初に登場するのは、関系新刀の江戸打ちの刀で在銘、長さは、2尺2寸5分(約68cm)程だったと記憶する。地刃は健全だったが、寛文新刀で、元幅の割に先が細く、反りも3分強(約13mm)位の棒反りだった。

地金は、関を思わせる中板目に流れ柾が混じり、刃紋は直刃調に互の目が混じった匂い出来だった。先幅が細い為、斬れ味に期待しないで、友人と気楽に巻藁を斬ってみたが、驚くほどの斬れ味で、二人で大いに驚いた記憶がある。紙切りもやってみたが、同様に優れた斬れ味で、もう少し身幅があれば、竹か1寸(30mm)弱の木の枝でも試してみたいような斬れ味だった。

慶長前後の新古境前後の関の刀には、時々、驚くような斬れ味の刀や脇差と出会うことがある。そういった刀は、不思議と地金の良く詰んだ刀は無く、どれも、粗っぽい鍛錬を物語るような大板目の肌によろけた流れ柾目が混じっている刀が多く、関でも数打ちの感じがする刀だったと記憶する。

刃紋も下手な直刃に関系の互の目が混じっているケースが多く、互の目の頭が、場所によって、丸くなったり、尖ったり、ばらついて一定していない場合が一般的であった。


それでは、末関から新刀初期の関系の刀や脇差が全部斬れるかというと、残念ながら、そんなことは無い。個人的な経験の範囲内で申し訳無いが、地金が良く詰んで、何度も折り返し鍛錬したような刀身に、素人好みの華やかな刃紋を焼いた刀や短刀で、斬れ味に関して、落第点しか付けようの無い綺麗な刀や身幅の広い豪壮な平造りの小脇差に出会った経験がある。

全く個人的な印象で申し訳無いが、どうも、関系の二流以下の刀工の場合、やや鍛錬不足のような刀や脇差の方が良く斬れる刀身に出会うケースが多い気がしている。それらの刀身は比較的柔らかい地金の刀が多く、寝刃合わせも容易だった。


次は、相当に古い記憶なので、おぼろげだが、備前長船(摺り揚げの為以下の銘は不明)の太刀で、先幅は18mm前後しか無かったと記憶している刀身で、斬ったことがある。

身幅が細いので、一枚巻きの巻藁しか斬らなかったが、水平を斬っても、安心して刀を振れる斬れ味だった。

この太刀では、二枚巻き巻藁や竹は斬らなかったが、寝刃を合わせた折の印象では、柔らかい刀身で、少し力を入れると曲がりそうな印象だったし、名倉砥の段階でも刃のマクレを取るのに若干苦労したと思うので、例えチャレンジしても、竹を斬ると私の腕では刀身を曲げてしまったと推定している。

室町中期以前の長船は良く斬れる刀が多いが、どうも、相州伝ほどでは無いが曲がり易い印象がある刀が多いように個人的には感じている。


三番目にご紹介するのは、愛刀家が敬遠する新刀期の無銘の脇差で、地金も薄暗く冴えず、刃紋は何の芸も無い中直刃で相当何度も研磨されたらしく、研ぎ減って疲れが刀身全体に出た1尺7寸強(約52cm)の脇差だったが、斬れ味は、ことのほか優れていた。

先幅も細く、20mm以下だったと記憶する。流石にこのような脇差を購入する気は全く無かったが、懇意の美術店で常寸の新刀2口を購入した際に、店主の懇請に負けて3口まとめて、お付き合いで購った品であった。そのまま、2年程、放置していたが、柄も無い身鞘の状態だったので可愛そうになり、鍔を探し、柄も新調した結果、傷身でもあったので気楽に斬ってみることにした次第だった。

所が、斬ってみると信じ難いくらいの斬れ味で、末古刀の良く斬れる平高田の脇差と比較しても遜色の無い斬れ味だった。

全般に、新刀、新々刀の無銘の量産品の脇差、短刀は斬れ無い刀身が多く、基本的に購入しない方針ながら、この数打ちの無銘だけは、例外的に優秀な斬れ味を示した。現在でも、この脇差が、何で良く斬れたか理解していない現状である。若しかしたら、古刀の大擦り上げか新刀の名のある刀鍛冶の脇差の研ぎ減った刀身かと疑って、何度も良く見たが、どんよりした地金、冴えない直刃と全く見所の無い脇差であり、斬れ味の良い原因が最後まで解らなかった。

強いて言えば、寝刃を合わせる際の刃の柔らかさと寝刃の合わせ易さが、記憶として残っている位だろうか?


ここで、久し振りに昭和刀に登場して貰おう。姿形は、何処から見ても昭和軍刀で、何人かの友人に見て貰っても異存が無かった。唯、銘がどの銘鑑にも記載が無く、作者と製作年代が解らない軍刀だった。長さは、2尺2寸4分弱(67.8cm)、反り4分弱(1.1cm)の棒反りの寛文新刀姿の刀で、茎の鑢は鷹羽だったし、沸出来の三本杉の刃紋を焼いていたので、多分、関系の軍刀鍛冶の一人の作刀だと思う。先幅の正確な記憶は無い軍刀の割に細かったと思う。

初め、昭和軍刀なので、何の期待もせずに友人と斬り始めたが、意外や意外、新刀並みの優れた斬れ味に驚いた記憶がある。但し、斬った時の柄を握った手に伝わる反動がやや強く、刀身の硬さと反りの少なさのせいかと思ったが、後日、再度寝刃を合わせた折の感触から言うと、やはり、昭和刀らしく硬かった。

結論としては、地金、刃共に新刀に比較して硬く、実際にやってみてはいないが、竹や堅木を試したら小さな刃毀れを起こしそうな印象だった。


(身幅の広い抜刀用現代刀との比較)

以上、記憶に残っている斬れ味の優れた幾口を挙げてみたが、身幅の広い抜刀用現代刀との切味との比較をお話ししないと片手落ちになるだろうから、狭い範囲ではあるが、私見を述べさせて頂く。

結論を先に言うと試斬専用に造った身幅の広い現代刀の斬れ味と比較すると巻き藁に関しては、明確に現代刀の方が、身幅の狭い、古刀、新刀、昭和刀よりも優れていた。

今日、技斬りを競う剣士の皆さんが、斬れ味で定評のある現代刀工の門を叩いて、自分の好みに合った形状の斬れる刀を注文されるお気持ちは、良く理解できる。

但し、宮本武蔵の言うように、幅広の現代刀が戦場で長時間振り回せるかどうかの点に関しては、個人差もあることからはっきりとは断定できない。

以前、拝見したことのある試斬専用の元幅1寸2分(36mm)以上、先幅9分(27mm)強の日本刀の歴史から見て異常に幅広な長寸の刀を長時間振り廻し続ける自信は私には無い。


高段者の居合の先生方の中には、新刀や新々刀に勝るような姿の良い現代刀を差料として用いている先生方もいらっしゃる。先日も、無地風の良く詰んだ地金に綺麗な中直刃を焼いた姿の良い現代刀を所持されている先生とその刀を拝見しながらお話しする機会があった。その先生は、

「皆さんに、この刀を見せると肥前忠吉ですか?」

と、聞くんですよと喜んで居られた。最近の居合用現代刀は、姿の良い刀や斬れる刀が増えてきている感じがする。


反面、先身幅は狭くとも新刀や末古刀は、バランスが抜群でありながら重ねも尋常で、通常の使用状態で、曲がることも無い。更に、外装に肥後拵や天正拵を模した軽快な打刀拵を付けると使い勝手も良く、長時間の型稽古や試し斬りでも疲れは少ない。

そんな訳で、個人的には、居合の型用と試斬兼用で現代刀をメインに所持しているが、居合用全体では十数口の刀、脇差を用意して楽しんでいる。十数口の中の構成比は古刀から始まって新刀、新々刀と昭和刀を含む現代刀であり、内容も時代もバラバラのまとまりの無い状態である。

時代的には、室町初期の応永年間の脇差から平成初年製作の現代刀まで約600年の時間差の刀姿や不謹慎かも知れないが斬れ味を楽しんでいる。(笑い)

また、所持している刀、脇差全体の刀姿も日本刀古来の形状の範囲内であり、極端な姿の物は一つもないと思っている。


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