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20.同じ反りでも違う、現代刀と古刀の姿

少し前に、型や試斬で使用し易い刀の「反りは」、5分~6分(約15mm~18mm)前後とお話した所、大半の方々から賛成のご意見を頂く事が出来たし、多くの皆さんが愛刀として用いている現代刀を拝見した結果でも、当にこの範囲の反りの刀が多かった。


ところが、私が現在、試斬で用いている反り6分(約18mm)の古刀を現代刀使用中の数人の方にご覧頂いたところ、以下のような意外な講評を皆さんから頂いた。


「反りが深そうで、斬りにくそうな刀だ!」

「先幅が細く、斬れ味は悪いのでは無いか?」

「手持ちは軽く、振りやすい刀だが、細くて華奢な感じがする!」


普段使用している現代刀と違い余り見ない古刀の反りと姿の相違に、斬れ味と身幅に対する大きな不安を感じたような多数のご意見だった。


刀の長さは2尺3寸(約70cm弱)、反り6分で先身幅も7分3厘(約22mm強)あり、斬れ味も所持刀の内では相当に良い方の刀だったのだが、試斬用の身幅の広い現代刀を愛用する皆さんにとっては、華奢で有り、先幅が細く、反りが深すぎて、ひ弱で斬りにくい刀に見えたようだ。製作年代も戦国時代真っ盛りの天文頃の刀で、元の長さが2尺7寸(約82cm)以上の豪刀であり、現在4寸(約12cm)程摺り揚げられている物の、銘は茎尻ぎりぎりに残っている。


それでも、試斬用に製作した現代の身幅の広い刀と比較すると、同じ5分~6分の反りの古刀では、元身幅と先身幅の相対的な比率の関係で、古刀の場合、反りが深く感じられたようだ。

確かに現代刀と古刀では、見る人によって、反りが深く見えたり、細く華奢に見えたりすることを考えると、以前述べた、「反り5分~6分の刀が試斬に適している」との表現に対しても、若干の補足が必要になりそうな気がしたので、同じ反りの試斬用現代刀と古刀の姿を比較しながら若干考察してみたいと今回は考えている。もちろん、多くの方々には余分な蛇足だと思うので、笑いながらお読み頂きたい。


(抜刀道中村泰三郎師範の所見)

そこで、若干、古い資料ながら、抜刀道の中村泰三郎師範が1982年に刀剣雑誌に寄稿された文章の中の反りと刀の身幅に関する記事に、次のような記述があったので、一部を抜粋する。


 ・元反り、先反りは居合刀には使いにくい、2尺3寸を基準として、5、6分の平均反りは

  適当である。

 ・刀の身幅の斬れ味

   鍔元幅1寸から1寸1分(3cm~3.4cm)物打幅8分から9分(2.5cm~2.7cm)

   が主として良好である。どうしても身幅が無いと斬れ味が思わしくない。


刀の反りに関しては、やはり、抜刀道を主導された中村泰三郎師範も同様に5、6分の反りに賛成のご意見だったことが解る。

この師範のご意見の中で重要視しなければならないのが、「刀の身幅」に関する所見ではないだろうか?

 師範は、試斬用の刀の形状として、『物打幅8分から9分(2.5cm~2.7cm)が主として良好である』と、推奨されている。

そこで今回は、反りと身幅の2つの点に着目して考えてみたいと思っている。


(現代刀の反りと古刀の反り)

美術刀愛好家の中でも、特に、古名刀をこよなく愛する方の多くは、平安、鎌倉期のうぶな腰反りの強い優美な太刀姿を好まれる。

しかし、今日残っている古刀の大半が室町期、それも戦国時代の「末古刀」が多い関係で、刀の反りも先反りあるいは、平均的に反っている刀が多い。

慶長以降の新刀、新々刀では、均等に反った居合向きの反りの刀が多く、たまに古刀写しの腰反りの強い刀を見るが、末古刀のような極端に先反りの強い刀は殆ど見たことが無い。


それに対して、現代作家による居合、あるいは試斬用の現代刀はどのような形状なのか最初に考察しながら、古刀と現代刀の反りに関して比較検討していきたい。

居合での抜き付けと納刀の円滑な動作を考えると多くの居合の先生方のご指摘のように、末古刀の先反りの刀や古い古刀の腰反りの太刀は、使いにくい刀である。

一方、新刀や新々刀に多い、「平均的な反り」の日本刀は、使い易い刀と言える。当然のことながら、現代刀作家の居合刀は、使用、特にスムースな納刀に適した「均一な反り」の新刀、新々刀の系列に属す反りの刀姿が製作の中心になっている。


中には、古名刀を狙った腰反りの強い太刀姿の作刀もあるが、それは、どちらかというと、ターゲットが、鑑賞に重点を置いた無鑑査クラスか古名刀の再現を希求している作家の刀に多いような印象が個人的にはある。

ここ数十年、毎年の新作名刀展を拝見しても以前よりは、作刀の目標を古名刀や大坂新刀等に明確に絞った出品作が増えている感じが強い。昭和40年頃の新作刀の中には、作刀の目標が古刀なのか新刀なのか、はたまた軍刀の再現なのか苦しむような刀が混じっていた記憶があったし、出品作の研磨も当時はレベルがバラバラだった気がしている。

その点、姿も研磨状態も昨今は大いに進歩しているように思えて、大変喜ばしい。


(刀の先身幅と斬れ味)

刀の身幅と斬れ味に関して、先に挙げたように中村師範は、

『鍔元幅1寸から1寸1分(3cm~3.4cm)物打幅8分から9分(2.5cm~2.7cm)が主として良好である。どうしても身幅が無いと斬れ味が思わしくない』。

と指摘されている。(物打幅と先身幅は殆ど近似しているが、以下、先身幅に統一して表現する。また、幅の単位を以下mmに統一して記述する)


確かに、試斬用に鍛錬された現代刀の場合、ご指摘の範囲の先身幅の広い刀が多いように感じられる。古流居合を修練されている方の刀はそうでも無いが、斬る専門の方々の差料は身幅の広い豪壮な刀を拝見する折が多い。

新刀や健全な末古刀の場合、元幅と先幅の比率が、10:7位が比較的多い感じがするが、少し、研ぎ減った末古刀では、その比率が10:6.5に近いケースもあるし、応永以前のもっと古い太刀になると10:6以下の比率の刀も少なく無い。

その点、現代刀の場合、10:8~8.5位の低減率が少なく、先身幅が広い健全な姿の現代刀も往々にして見かける。


手元の末古刀で比較的健全な数口の刀で、元幅と先幅を実測して見た平均が、元幅:先幅=約30mm:約21mmだった。もちろん、この数値が古刀の身幅の平均値では無いが、おおよその古刀の寸法をご理解頂けると思う。

中村師範の希望される『8分から9分(25mm~27mm)』の先身幅よりも実際の古刀では3mm~5mm細い身幅である事は確認出来た気がした。

当然ながら、これだけ試斬用の現代刀よりも古刀が細いと同じ反りでも「反りが深く」感じ入られるのは当然の結果の気がする。刀を鑑賞する熟達者ならば、棟の反りで刀の反りを見るが、鑑刀の経験の少ない居合愛好者の場合、刀全体の姿で反りを感じるので、先に挙げたように『古刀の場合、反りが深そうで、斬りにくそうな刀だ!』との印象を持たれることも無理の無い感じがした。


確かに健全な打ち下ろしの現代刀で、先身幅26mmの刀と戦前の正式鍛錬した軍刀の先身幅19mmの刀で、相当以前、斬り比べをしたことがあったが、全く斬れ味は違っていた。巻藁だけを斬るなら身幅が刀の素材の鉄の優劣と刀鍛冶の力量に継いで三番目に重要な印象を初心者の頃に感じた記憶がある。

但し、当時、その道の先輩より、古刀や新刀の姿よりも極端に異なる形状の刀は、極力使用しないようにと教えを受けた事もあって、それ以来、昔からの日本刀本来の形状の刀を大切にして、使うように心掛けて今日に至っている。


(現代刀の実測)

今日、日本刀で試し斬りをしている方々の殆どが使用されている刀は、現代刀だと思う。古刀や新刀の健全な美術品である刀を試斬で損傷させては伝統ある文化財に申し訳無いし、第一古名刀の場合、非常に高価で一般の居合愛好家が容易に入手できる価格範囲にない場合が多い。

その結果、現在、居合、抜刀を愛好されている方々の多くは、昨今、居合用に製作された現代刀を主に使用されていると考えられる。

また、居合練達者の方にはご贔屓の現代刀作家をお持ちの方々も非常に多い。会合では良く、「誰それの刀は良く斬れる」とか、「手持ちのバランスが凄く良い」とか、笑顔で話される先生方に接する機会も多い。


しかし、全般的に、刀姿と反りに関しては、最大公約数的に見ると、良く似た姿と反りを持った現代刀が多い印象がある。

以前、ある会で練習の終了後、高段者の先生方の所持刀を抜き身にして10口程、並べてみる機会に恵まれたことがあった。刀の作者は、九州から東北まで広範囲の現代作者だったが、びっくりするほど姿と反りが似ているのに驚いた記憶がある。長さは2尺3寸から2尺5寸と所持者の身長の関係でバラツキが有った物の、反りと身幅は驚くほど近似していた。

現代刀に、「居合刀向け刀仕様」があるとは聞いたことが無かったが、帽子以外は、極めて良く似ていた。最も異なった形状だった帽子は、中切っ先が最も多く、それに大切っ先が若干混じった感じだった。中切っ先の刀の所有者は、居合の型と試斬の双方を修練している先生方であり、大切っ先の刀をお持ちの剣士は、抜刀を重視して修行されている方だった。


さて、現代作家の居合刀に話を戻して、反りは、5分~6分が中心のような気がするが、念のため友人の現代刀の法量を計測させて貰った結果と過去に計らせて頂いた十数口の居合用現代刀の双方の反りの中心は5分台であった。

正確にいうと4分台後半から6分までの間に反りは分散し、中心は5分台と見ることが出来る結果だった。全部で二十数口の計測結果では、これが平均とはもちろん言えないが、各種の試合等の多くの機会に拝見した相当数の現代刀の反りの印象もこの結果と大きく乖離していなかったので、ここら辺が居合用現代刀の平均的な姿と独断で考えて、先に話を進めたい。


(刀の先身幅と反りの関係)

そこで、法量を計らせて貰った現代刀全部ではないが、良く斬れると所有者がおっしゃる刀の先身幅(横手下の辺りの幅)を刀身が傷つかないように注意しながらプラスチックノギスで計測させて頂いた。

その結果は、幅24mm~29mmだった。もちろん、試料数が少ないので、平均値とは考えられないが、中村師範の『8分から9分(25mm~27mm)』もこの範囲に含まれている。

中村師範の時代とは時間も経っているので正確な比較対象には成らないだろうが、今日の試斬を好む剣士の愛好する現代刀は近年、予想以上に幅広に成って来ている印象だった。

因みに、今回、測定した刀の元幅は、33mm~35mmで、日本刀の平均的な元幅よりも相当広く、どの刀も豪壮な感じを受けたし、柄金具を見ると江戸時代の縁頭では無く、新作の大きな金具を皆さん使用されていた。


通常経眼する日本刀の場合、新刀で元幅、約30mm~32mm、古刀の場合では、元幅、約27mm~30mm位が多い印象を個人的には持っている。

しかしながら、現存する多数の日本刀において、製作時の健全な状態で残っている物と保存状態の悪い物によっては、この数値は大きく変動することはもちろんであり、大雑把な目安として笑いながらお聞き頂きたい。



(ま と め)

そんな訳で、試斬を大事にされる方のケースでは、身幅の広い刀を重視される傾向があり、反りも「5分(約15mm)」前後の刀を好まれるように感じた。

また、古流の型と試し斬りの双方を錬磨されている方々の場合、やはり、「5分~6分(約15mm~18mm)」の反りで、身幅も尋常な愛刀をお持ちの方が多い印象だった。


 同じ材料の鉄で造った刀でも巻藁等の柔らかい物を多く斬る場合、重ねを薄くして身幅を広くすると、確かに好ましい斬れ味になる事は、周知の通りだと考えられる。

 増して、優れた刀工が優秀な素材を用いて鍛錬した刀では、南北朝期や初期新刀のような先身幅の広い豪刀の斬れ味は、もの凄い物があった。今に伝えられる「へしきり長谷部」や「ニッカリ青江」の現物をガラス戸越しに拝見しても、元幅と先幅に殆ど差が無いようにさえ感じられる。

これらの南北朝期の大太刀の摺り揚げ姿や慶長新刀姿の豪刀に憧れる方々のお気持ちも何処か微笑ましく感じながらこの項を終りたい。


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