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15 古刀の脇差と新刀の脇差

古刀と新刀の全体的な印象の比較を述べたが、日本刀は刀の他に脇差、短刀があるので、今回は脇差を採り上げてみたい。

鎌倉南北朝期の太刀を大摺り揚げした脇差が無い訳では無いが、一般に通常の形状を持つ脇差の出現は、室町期に入った「応永」時代以降と考えられているので、戦国期を含む室町時代の脇差と江戸時代の脇差の比較を経験の範囲内で行ってみることにした。


脇差は、江戸時代の規定から、1尺(30.3cm)から、1尺8寸(約54.5cm)までとされているのが一般的で有る。

脇差の形状と長さの出発点から考えると脇差の場合、打ち刀を短くしたような鎬造り脇差と平造り短刀の寸を延したような脇差の二種類がある。

短刀から発生した寸延びの平造り脇差の場合、1尺3寸(39.4cm)前後の短い脇差が多いし、刀を短くしたような鎬造り脇差の場合、1尺5寸(45.5cm)位の中脇差から、1尺7寸(51.5cm)ほどの脇差が多く存在して、殆どの現存する脇差の大半を構成している。

また、1尺8寸以上で刀の長さ2尺(60.6cm)以下の長い脇差は「大脇差」と呼ばれていた。(但し、現今の規定では、60cm未満を脇差と規定している)


更に、特異な例だが、現存している長脇差の中には、応仁元年(1467)~享禄四年(1531)頃の戦国時代前期に打ち刀として製作されたものもある。この頃は軽快な打ち刀として利用されたが、現在の規定では、脇差として登録されている。このような打ち刀は、身長の低い侍の大刀や戦場や果たし合いに望む非力な女性や少年の差料として利用されたと聞く。戊辰戦争で活躍した山本千代の当時を回顧して撮った記念写真の差料も、はっきりとは解らないだ、短い打ち刀か大脇差らしい。


さて、脇差の斬れ味であるが、短い方から長い方まで長さの幅が1尺も有る為、斬った時の印象は相当に違いがある。

上記にも述べたように長脇差の場合、一部、刀としての機能を要求される場合があった為、斬りやすさと斬れ味は刀に準ずる機能がある。しかし、実際に使用してみると刀と3寸(約9cm)の違い良いながら間合いや打撃力には相当の違いが存在する気がする。

常用の2尺3寸から2尺5寸の刀で試し斬りを行った後に、1尺9寸の脇差で斬ると自分の技量が大きく低下したような印象を受けるし、逆に大脇差を使用した後に、2尺2寸前後の昭和軍刀で斬ってみると余裕を持って仮標に向かえるから不思議である。


一方、武士が常用した中脇差の場合、小太刀の型による演舞や試斬で用いられるケースが多い。確かに、刀に比べて軽く、短く、片手での操作に不都合の無い使い易い日本刀と呼んで良い。使用経験の長い方の演舞では、抜打ち水平でも巻き藁を易々と両断されているのを拝見する機会も多い。中には、小太刀独特の受け流しから、一瞬で左袈裟試斬に入り、袈裟を切り抜けた瞬間、水平斬りを成功させる猛者の剣士もいらっしゃる。

中脇差は最も使い易い脇差だが、個人的には、1尺4、5寸のものよりも、1尺7寸(51.5cm)前後の長目の方が使い勝手が好ましい気がする。

身幅的には、刀より短い分、尾張新刀の信高等で時々見かけるようなやや身幅の広い脇差が試斬には有利な場合が多い。

特に、抜刀道の方が良く、その様な身幅の広い脇差を使用されているのを拝見する。最も、中には、更に幅広の特注現代刀を使用して、刀と大差ない斬れ味を披露されている猛者もいらっしゃる。


小脇差と呼ばれる約1尺強から1尺3寸位の平造り脇差の場合、9寸前後の短刀で斬った感触と大きな差は無いように感じられる。その理由の一つに、短刀と同様の平造りの造り込みが大きく影響しているようだ。巻き藁や畳表のような比較的柔らかい仮標の場合、平造りの方が鎬造りよりも仮標に対する抜けも良く、斬っていても気持ちが良い。

但し、戦国後期や桃山から江戸時代初期に掛けて多く製作されたと想像される鵜首造りや菖蒲造りで反りの割とある小脇差のケースでは、試し斬りの途中で手の内が緩むと竹などの場合、上手に袈裟で両断出来ないことが往々にしてある。

意外にやっかいなのが、本造りの小脇差での試斬で、相当の熟練者で無いと感心する斬れ味と技を披露できないように感じる。この領域では、末関や越前新刀等が好ましい斬れ味を提供してくれる場合が多い。


さて、古刀期の脇差で第一に挙げなければならないのが、応永備前に続く、戦国期に繁栄した末備前の長船諸工の脇差群であろうか! 

「長船次郎左衛門尉勝光」や「長船与三左衛門尉祐定」、「長船五郎左衛門尉清光」等々の有名な備前刀工の名前をお聞きになった方々も多いと思う。

何と言っても応永備前に続く末備前の脇差は姿も良く、斬れ味も好ましいとおっしゃる諸先輩も多い。これは、全くの私見だが、同じ末備前でも、俗名の入った末備前と数打ちの末備前では、斬れ味ガ相当に違うように感じるし、数打ちの末備前の場合、欠点として帽子の刃が甘い刀を良く見かける。


また、同じ末備前の脇差の場合でも銘によって注文打ちの優品か数打ちの束刀かはっきりしている。良く知られているように、「備前国住長船与三左衛門尉祐定」等の俗名入りの長い銘文の場合、注文打ちと考えられ、それに次ぐ銘が、「備前国住長船祐定」で、数打ちの場合、「備州長船祐定」銘か「祐定」二字銘の簡略化した銘切り師による量産の銘が多い。


一方、西の雄末備前に対する東の量産地関であるが、末関の場合も注文打ちと数打ちの斬れ味は若干差があるように感じられる。しかし、これも個人的な印象ながら、長船の脇差の差よりも両者の差が少ないように感じるが如何であろうか?

しかしながら、末関の場合、備前物と異なり、銘による注文打ちと数打ちの差を大きく表示しない場合が多く、二字銘の「兼定」、「兼元」等の「兼某」銘が多い。

刀身自体の製作段階でも生産が容易な「まくり」による作刀が多いせいか、注文か数打ちかの製作上の上下の差をそれ程明確に出来ない場合が多い。

末関の注文打ちの刀をご購入希望の場合、識見のしっかりしている先生のご指導を仰ぐ必要がある。


以前、末関の中でも比較的時代の上がる脇差を数振り所持していて、長く試斬に使用したが、何れも斬れ味は満足の行く物だった。脇差とは関係ないが、末関の短刀の場合、末備前の短刀よりも斬れ味が若干優れている印象を持っている。(笑い)


末古刀の中でも、備前、関を除く諸国の脇差の中に、斬れ味で隠れた名品は多い。村正は試した事が無いので解らないが、島田や末相州物の斬れ味は良かったし、九州の豊後高田物の脇差は重ねが厚かった割に良好な刃味だった。北国物の幾つかの脇差の斬れ味も良かったが、少し、曲がり易い傾向が気になった。

逆に、本国物の山城や大和の時代の下がった脇差は、悪くも無かったが、良くも無かった印象で、逆に、同じ大和系でも応永頃の三原住正家の斬れ味が良った記憶がある。


次に、新刀の脇差の斬れ味に関して、記憶を辿ってみたい。

過去の経験で、最も記憶に残っているのが、古刀と新刀の数打ち脇差の斬れ味の差である。戦国時代の数打ちに関しては、どの国の脇差でも、「そこそこの実用的な斬れ味」維持しているのに対し、新刀の数打ち脇差の場合、格段に古刀の数打ちよりも劣る斬れ味に一驚した記憶がある。

ここ三十年間で、同じような無銘の脇差を三口入手した。長さは何れも1尺7寸8分(約54cm)で、反りは5分(約1.5cm)、刃紋は江戸石堂風の丁字刃で、素人好みの華やかな出来であったが、案に相違して、試斬の結果は、三口共に散々な斬れ味で、水平斬りは疎か袈裟さえも十分に斬れない鈍刀だった。

同じ無銘の新刀脇差でも、江戸や大坂新刀の有名刀工の弟子筋と思われる脇差が、そこそこ斬れたのに対して、本当に無残な結果だった。


姿、地金で高評価の肥前刀の脇差は斬れ味でも優れていると聞くが、近江大掾忠廣以外、有名な肥前刀工の脇差を試したことが無いので、肥前刀全体の印象をお話する力は残念ながら無い。

もちろん、江戸の虎徹興里も大坂の井上真改、越前守助廣も含めて有名刀工の脇差で斬った事が無いので、この方面でも情報を提供できない。しかしながら、桃山期から江戸初期の二流刀工の中脇差では、十口以上斬っているので、この時代の脇差は大半が安心して使用できると考えている。その中でも、越前その他の地方刀工の脇差で名のある作者の刀は信頼性が高い感じがする。


小脇差と呼ばれる約1尺強から1尺3寸位の脇差の場合、9寸前後の短刀で斬った感触と大きな差は無いように感じられる。その理由の一つに、短刀と同様の平造りの造り込みが大きく影響しているようだ。巻き藁や畳表のような比較的柔らかい仮標の場合、平造りの方が鎬造りよりも仮標に対する抜けも良く、斬っていても気持ちが良い。


新刀の脇差の斬れ味で、少し気になったのが、地肌が綺麗で良く詰み、相当鍛錬した脇差と思われる直刃の脇差の斬れ味が今一つだったのに対し、やや鍛えが荒く、鍛錬回数が少ないような脇差で、直刃に小足と小互の目の混じった匂い出来の物の斬れ味が勝っていたのが印象に残っている。

新々刀末期には短刀が流行したせいか、脇差でも短めの1尺3寸程度の脇差を見る機会が個人的には多かった。どうも、この寸法の本造りの小脇差は使い勝手が悪く、特に、新々刀のこの長さの脇差で刃味優秀な作に出会ったことが少なかった。

逆に、柾目の入った新々刀の中脇差で、斬れ味も良く、曲がりにも強い脇差に出会った経験がある。


今回は、過去にお話しした『脇差の斬れ味(一)~(四)』と若干重複する内容だったの事をお詫びして、まとめに入りたい。

過去から現在まで使用した脇差で、友人と好ましい斬れ味の印象が残った数口の脇差をピックアップ、その脇差の製作年代を中心に時代と斬れ味の議論を行ってみた。

二人の結論は、面白いように一致して、その第一が、室町時代前期のやや古い脇差で、末関、末相州等の物だった。次に一致したのが、桃山から江戸初期の脇差で、国、流派は問わず、二流、三流刀工でも、銘があるほどの作者ならば、そこそこの斬れ味が多く、そんな中から自分の好みに合った脇差を選ぶべきとの内容だった。

現在、所持している無銘の直刃で古刀の脇差も在銘の大阪新刀の二流刀工の脇差もこの条件に合致する脇差で、不安無く良く斬れるので、助かっている。


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