表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/52

11.脇差の斬れ味(三)

 前回まで、脇差の長さによる斬れ味の差や製作年代の違いによる相違点について、少ない経験から考察してきた。今回は少し観点を変えて脇差の断面形状と斬れ味について考えてみたい。

 

 従来、大刀による居合の型や試斬を教えてくれる諸流派は多いが、脇差、短刀の型や試斬を教えてくれる流派は少ない。それに、まず、脇差あるいは小太刀の型がしっかり残っている古流自体の数が少ないように感じる。

増して、脇差の古流の型に従った組太刀や試斬を教えてくれる師家の数はもっと少ないように長年の経験から希少に感じられる。更に、短刀の古伝の型が伝わる古流はもっと少ないように感じられるが、如何であろうか?

その中の脇差の型を伝えている幾つかの流派で使用されている脇差の形状を見ると、基本的に本造り(鎬造り)の1尺5~6寸(45.5~48.5cm)の中脇差を使用されている例が多い。脇差に付いている鍔の直径も約7cm前後で、江戸後期の武士社会の常用された大小から考えると穏当な選択であった。


さて、今回の主題の脇差の断面形状であるが、最初に、現存する日本刀の長短における形状の差異に関して始めに考えてみたい。

日本刀の中でも通常目にする大刀は鎬造り、短刀は平造りである。一般的な大刀や短刀の形状の九割がこの造り込みであろう。大刀や短刀でそれ以外の形状としては、大刀の一部に片切り刃造りや平造りが、短刀の一部に菖蒲造りや鵜の首造り、両刃造り、鎬造りがある程度でなかろうか。


それに対して、脇差の場合、もちろん、大刀と同じ鎬造りが主流ながら大刀や短刀よりも形状に関するバリエーションは大きいように感じる。

大刀と同じ片切り刃造りや短刀同様の平造りがあることはもちろんの事、菖蒲造りや鵜の首造り、更に異風のおそらく造りや南北朝の大鋒の太刀の上半分のような脇差まで散見する多彩な形状の脇差が現存している。

これらの多様な形状の脇差を使用して試斬してみると試し斬りの際の脇差の長短から来る間合いの違い以上に、断面形状が大きく試斬に影響する。大刀よりも柄が短い上、片手握りの手の内の為、衝撃の強い仮標のケースでは、反動も強く手の内が試斬の途中で極端に緩む事態に遭遇することも少なく無い。


やはり、斬っていて、最も斬り易い脇差の断面形状は短刀と同じ平造り、それも、若干研ぎ減って痩せた中脇差などである。

平造りに比較して一般的な形状の鎬造りの脇差は、特に水平斬りの場合、初心者にとって心持ち斬った際の手への反動が大きく、抜けが悪い印象があるようだが、慣れてくると大刀と同様、問題なく斬れるようになる。逆に、「上達すればするほど、刃筋の安定と手の内の絞まりによって反動の感じが少なくなり、自分自身の上達の目安になって、励みになっている」との話も後輩から良く聞く。


平造りや本造りの脇差に比べて、修練が必要なのが菖蒲造りや鵜の首造り、異風のおそらく造りや南北朝の大鋒の太刀の上半分のような脇差である。菖蒲造りや鵜の首造りの場合、刀身の断面形状が菱形に近い為、仮標に対する食い込みは極めて良く、斬った際の抜けも好ましい。その反面、菱形形状の為、斬っている途中で手の内が緩むと刃筋が大きく狂ってしまう場合があった。特に、竹などの硬めの試斬の場合、初心者に良く見受けられた現象が次のような経過であった。

上段から袈裟を狙って太目の竹に斬り込んだ場合、竹の真ん中辺りまでは上手に袈裟斬りが成功しているのに、途中から刃先がみょうな方向、多くは、竹の繊維に従って地面に向かって真下方向に流れるケースが多い。それは、硬い竹にあった瞬間、しかり締めたつもりの手の内が緩んでしまい、振り下ろした腕の勢いだけになってしまった結果と思われる。

特に、慶長新刀の先反りの強い1尺3寸(約39cm)前後の菖蒲造りや鵜の首造り脇差では、その様な光景がまま見受けられた。


更に、異風のおそらく造りや南北朝の大鋒の太刀の上半分のような脇差では、普段斬り慣れている物打ちで斬るのでは無く、大切っ先の長さを考慮して、刀身の中央あるいは、短い刀身では鎺元近くで斬る心持ちでの試斬が簡要な印象を持っている。

このように、鎬造りの大刀や平造りの短刀とは異なり、異風な形状の脇差での試斬に臨むケースでは、小生の場合、心構えをしっかり据えてから挑戦する必要があった。(笑い)もちろん、それは修練不足によることは明白である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ