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1.今、斬っている刀

前回、昭和刀の斬れ味を書かせて頂いたが、思いの外多くの方々から、コメントや問題点のご指摘を頂いて、大変参考になった。

今回は、範囲を日本刀全般に大幅拡大して、私の勉強も兼ねて色々な話題を考えてみたいと思っていますので、どうぞ宜しくお願い致します。

 前回の『昭和刀の斬れ味』では、思っていた以上の広い範囲の方々からコメントやご指摘を多数頂いて、私自身が日本刀全般に渡って再度、勉強させて頂く良い機会になった事を深く感謝申し上げます。

 今回は、テーマの範囲を日本刀に関係する鍔などの外装や逸話、武士の習慣等に広げて、斬れ味を交えながら、お話をしてみたいと思います。但し、昭和刀でも靖国刀や満鉄刀での試斬経験が無い旨のお詫びをしたように、見ている名品の数も少なく、在銘の鎌倉期の刀での試斬例も全く無い、極めて狭い範囲での経験談ですので、大きく割り引いてお読み下さい。(笑い)


 初回ですので、今回は、目の前の刀掛けに掛けてある七振の刀、脇差、短刀の内から、この一年常用している手近な刀の斬れ味から始めたいと思います。

長さ的には丁度中間の長さで、今まで、私がこの刀で斬っているのをご覧になった殆どの方々からは、

「短いね!」とか、「脇差ですか?」

 と声を掛けられています。

 実際の刀身の長さ、その他の概略の寸法は次の通りです。


長 さ : 2尺0寸4分(62cm弱) 、 反 り 4分(1.2cm) 

元 幅 : 1寸弱(2.9cm強) 、 先 幅 7分5厘(2.3cm)

元 重 : 2分3里強(0.7cm)

切 先 : 1寸1分5厘(3.5cm) 、 茎長さ  5寸(15.2cm)


 生茎うぶなかご無銘ですが、茎は3分(0.9cm)区送りをしていますし、切先も少し詰まっていますので、元々の寸法が2尺8分程の末古刀だったと思います。戦国時代も中間頃の北国の刀でしょうか? 地金は黒く、やや柾掛かった肌に眠い中直刃を焼いています。

 不思議と戦国時代も前期から中期に掛けての末古刀は、徒歩戦が盛んだった関係で、日本刀の歴史の中で、最も刀が短かった時代であったのは、皆さんが良くご存知の通りです。

有名な中国地方の当時の大名、赤松政則が信長の曾祖父織田敏定の為に鍛えた重要美術品の刀なども2尺8分(63cm)と短い物でした。


 この刀に付属する柄は江戸時代のままの状態で、長さが8寸(24cm)あり、刀身が短い割には長めの柄が付いていました。鮫と柄糸は流石に相当疲れておりましたので、柄木だけ生かして鮫皮は新規に交換し、柄糸は巻き直して使用しました。

 刀身は全体に研ぎ減っており、平肉も少なく、初見の感じは全体にペタッとした印象の形状でした。重量も研ぎ減りが大きい為か、常寸2尺3寸の新刀に比べて、約七割の重さで、手持ちはそれ以上に古刀のせいか軽く感じられた。

 研ぎは何時の時代か解りませんが、差し込み研ぎに見える古い感じの研ぎで、所々、薄錆も出ていましたが、試斬に関係のある刀身の上半分に大きな錆が見られませんでしたので、そのままの状態で斬ることにしました。


 最初の試斬で注意したのは、仮標との間合いでした。通常、2尺5寸の刀を使用していますので、4寸6分短い刀は実際の寸法以上に近い間合いで開始しないと斬れない物ですので、慎重に第一刀は斬りました。

 畳表1枚巻きの巻藁で、袈裟、逆袈裟、水平と斬ってみましたが、いずれも抜けが良く、以前所持していた古刀の加州清光のような爽快な斬れ味でした。

 一ヶ月後の試斬では、片手抜き打ちで、同じように袈裟、逆袈裟、水平を斬ってみました。斬れ味も抜けの状態も同様に良く、流石に冴えた末古刀の斬れ味の良さを感じた次第です。その後、この一年、真竹、紙、ビールの空き缶等を斬ってみましたが、どれに対しても安定した斬れ味でした。


 今まで、相当数の末古刀で試斬をしてきましたが、全般的に末古刀は良く斬れるものです。しかし、例外もありました。末古刀といっても斬れ無い鈍刀が以外なことに少数ですが確実に存在します。それも、在銘のしっかりと健全な状態で保存されて来た刀の中にも、1枚巻きの巻藁で、袈裟がきれいに落ちない刀があったのには驚いた経験があります。

 そこで、個人的な印象だけでは危険なので、昭和刀との比較も兼ねて、この末古刀とそこそこの斬れ味の昭和刀の二振の刀で、初心者と中級者に斬って貰いました。その時の感想は、


「斬れ味も抜けも良いが、ひ弱い感じで、昭和刀の方が安心できる気がする」

「どうも、軽すぎて、古刀は曲がりそうで心配です」

「短いと、どうやって斬れば良いのか、不安な感じがする」


 等の意見があり、圧倒的に初中級者の人気は昭和刀に集まった次第です。確かに、戦国時代から数百年を経過して研ぎ減った末古刀よりも、出来て七十年少しの若く健全な昭和刀の評価が高いのも解るような気がします。

 しかし、私にとって末古刀の魅力はまた、別格のものがあります。美濃、備前、高田、三原、北国、島田、末相州等々の末古刀の欠点の有る刀は比較的安価に購入でき、容易に試斬出来る嬉しい存在なのです。

 今回の北国物と思われる末古刀の斬れ味をこの一年満喫させて貰いました。丁寧に使っておりますので、多少のヒケは生じておりますが、大きく美術品としての刀を傷つけてはいないつもりです。この戦国期の打刀に感謝したいと思います。

 いつも、練習の為、違う長さの刀を十振前後所持しているのですが、この短い刀によって、もう少し、近い間合いでの古流の小太刀技の勉強が進むことを願って、所持して行きたいと思っています。


 この刀は鍛えた刀工の手を離れて以来、下級武士や足軽クラスの中で、代々伝えられてきたように感じられます。現在の外装も、鍛え割れのある江戸期の刀匠鍔が付いた粗末な実用一点張りの外装だったのをそのまま用いている。

 しかし、何時の日か尾張徳川家の名物南泉一文字(長さ2尺3分)ほどの豪華な拵えは無理としても、実用兼備の中にも、どこか粋な所のある拵えを造ってやりたいと想っている今日この頃です。



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