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面倒臭い人

作者: ナルハシ

 俺には酔っ払うと深夜でも構わず電話やメールを寄越してくる困った友人がいる。


 本当はロックが好きで着信メロディもロックに設定したいくらいなのだが、深夜に飛び起きることになるのも嫌なのでスマホの着信音は耳に優しいオルゴール調のものに設定してある。


 その日も、寝ている俺などお構いなしに着信音が鳴った。着信の短さからして、今回は電話ではなくメールのようだ。

 無視してしまいたいところだが、返事を返さないと不機嫌になって応答があるまで延々と着信音が鳴り続けることになるので面倒だが返信しなければならない。


 真っ暗な部屋の中、布団に潜り込んだまま光るディスプレイを手探りで引き寄せる。

 スマホを顔の前に翳すと、画面の明るさに目が眩んだ。目を細めながらメールの画面を開こうと操作する。


「……?」


 眩しかった画面が突然暗転した。


 一瞬何事かと考えたが、すぐに間違えてカメラを作動させてしまったのだということに気が付いた。作動したカメラは真っ暗な闇を映し出していたのだ。完全なブラックアウトではなく、カーテン越しのわずかな月明かりを拾ってか画面にはちらちらと光の粒のようなものが映りこんでいる。

 タッチパネル式のスマホは、ボタン操作の所謂ガラケーと比べて誤操作をしやすい。これだからスマホは、と内心でぼやきながらカメラ機能を終了し、今度こそメール画面を開く。


 送られてきたメールをざっと読み、適当な、それでいてこれ以上やり取りが続かないような返事を送る。

 寝惚けた頭ではあるが、毎度のことなのでその辺りの対応は慣れたものである。

 返信を終え、スマホを枕元に置くと再び眠りに付いた。




 そう、その時の俺は完全に寝惚けていて、とにかく眠たくて仕方がなかったのだ。


 どのくらい寝惚けていたかと言うと、友人からのメールの内容と、それに対してどんな返信をしたのか翌朝まったく覚えていなかったくらいだ。

 その後朝まで着信が鳴ることはなかったし、どうせくだらない内容なのでそれはまぁ、別にどうでもいい。


 しかし気になったのは、もう一人の方のことだ。



 カメラをオフにするその一瞬。

 暗い画面に映りこんだ、見知らぬ白い顔の女。



 メールの内容はまったく覚えていなかったが、その顔ははっきりと頭に残っていた。

 窪んだ眼を見開き、血色の悪い唇は何かを訴えるように薄く開いていた。

 すごく恨めしそうな、この世のものをすべて呪ってやると言わんばかりの表情だった。





 だが、しつこいようだが俺はその時ものすごく眠たかったのだ。


 画面の中の女には一切の反応を示さずに朝を迎えてしまった。

 もしかしたら、不機嫌にさせてしまったかもしれない。

 フォローをしようにも、明るくなってから起動させたカメラの画面に彼女は映らなかったので、俺にはこれ以上どうしようもない。



 夜中に間違えてカメラを作動させることは今後そうそうあることではないと思うが、彼女はまだここにいるつもりなのだろうか。

 彼女が俺の友人のように面倒臭い人でないことを祈るばかりである。

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