森田先生の大発明
森田博士の大発明
-ニューヨークの国連ビルで会議の10分前-
ここは国連ビル。10分後の臨時特別会議の開始を待つ常任理事国・非常任理事国、今回から世界会議に出席する新興国を含む世界各国の代表が、議題について、「今後の世界情勢に関わる重要なこと」としか知らされていないのは極めて稀なことであった。それだけではなく、全会議出席者の椅子には小型スピーカーが取り付けられているにも関わらず会場内へのオーディオ・ヴィジュアル機器の持込が今回の会議の開催国日本によって全面的に禁じられていることも異例であった。
森田博士の発明
-発表の2ヶ月前-
森田博士の二つの素晴らしい発明そのものよりも、世界各国の指導者が、自国の経済力や、軍事システム等の重要な情報の詳細を誤って他国に知られてしまった結果、世界に引き起こす問題の可能性をなくすことを目的とした日本政府との話し合いで今回発表に踏み切った、情報の曲会を避けるために、英語を 母国語としない各国の代表にも会議通訳を介さずに理解できる程度の英語でやはり英語にはあまり自信のない森田博士自身が準備した話や質疑応答で行われることに決定しました。
-会議-テレビ中継も森田博士の関係者以外の一般の人々の見学も全てシャッアウトされています。
いよいよ会議が始まります。「えへん!」と咳払いをして森田博士は始めます。
「There are 2 great inventions I made, if I may say so myself. (自分で言うのもなんですが、私は素晴らしい二つの発明をいたしました。)The only problem, which came with them, is that the inventions are too large to handle with my own capacity and knowledge or Japanese government. (唯一の問題は、私もしくは日本の政府にとっては私の発明のサイズは手に余ることです。)This is the reason why, I brought them right here, in order to ask for your opinions.(そのために、皆さんのご意見を伺うために今日の会議をオーガナイズしました。)」
森田博士は会場の人々の反応を伺いながら続けます(この後も全て英語で)。これをご覧ください。」森田博士は右手に持った少し大き目の携帯電話らしきディヴァイスを会場の人々に見えるように持ち上げました。
「これはただの携帯電話ではありません。この『正直電話 Honest Phone』を通しての質問には真実だけしか答えることができません。うそをつくことも黙っていることもできなくなります。
ざわめく会場の中で、会場のやや後方の、ニュージーランド代表の横のオーストラリア代表が手を上げました。森田博士はオーストラリア代表を指しながら「はい、どうぞ」、オーストラリア代表はちょっとニュージーランド代表の顔を見てから森田博士に質問しました。
「『正直電話』を通す質問は英語だけですか、それとも何語でもOKですか?」
森田博士は一回にっこりして答えました。
「『正直電話』は答える人の考えに反応します。返答者の考えがポジィティブであればポジティブな答えをします。つまり、質問に対して本当のことを答えることになります。警察の取り調べの際に、容疑者が白か黒か時間をかけて調査をする必要もなくなり、子供のしつけも楽になるでしょう、どうですか?素晴らしいでしょ?」
オーストラリア代表はうなずきました。今度は、ニュージーランド代表の横のアメリカ代表が手をあげました。森田博士がアメリカ代表に手で合図するとアメリカ代表は質問しました。
「少し実験させてください。私は今日、あまり人には言いたくないことをしましたが、私に森田博士が『正直電話』を通して質問されたら本当のことを答えるでしょうか?」
森田博士はその質問に答える代わりにアメリカ代表に質問しました。
「あなたは今日人に言えないことをしましたね。説明してください。」
アメリカ代表は躊躇わずに答えました。
「ええ、さっきトイレに行った時に終了後に手を洗いませんでした。それからトイレットペーパーに国連のシンボルがプリントされていたので、記念に1ロールだけカバンに入れて持ってきてしまいました。確かトイレの壁には『トイレットペーパーを持って行かないでください』というサインが貼ってあったと思います。あれっ?!私はどうしてこんなこと言ってしまったのだろう!」
イギリス代表が横から割ってはいりました。
「そんなことになったら取引の場で本当のことしか言えなくなってしまいます。貿易などでの駆け引きもできなくなってしまう。」
「そうだ!「そうだ!そんなことが分かったらすぐに戦争になってしまいます。」
フランスが続けます。
「『正直電話』の使用、『絶対に反対』」ロシア代表も叫びます。
南韓国代表が両手を上から下に振って奮奮している人たちをなだめながら話します。
「皆さん少し冷静になってください。おそらく今回の『緊急国連会議』の発案が『正直電話』を発明した国から出ているので充分にテストを繰り返した後の結論でしょうから、大丈夫だとは思いますが、ディヴァイスの機能を確認するためには第三者がテストしてみる必要があると思いませんか?話題の信憑性に関わることですからこの点は慎重にしなければならないと思いますが、テストするためには『正直電話』を使用する権利が必要ですよね。この権利を誰かが所有するというのは許されることでしょうか?それとも『銃器所持』のように免許制にするべきでしょうか。まずは『正直電話所有権』について決めませんか?」
カナダ代表が手を上げて大声で叫びました。
「多数決にしよう!」
という事で今後、『正直電話』を使用するかどうは各国代表の多数決で決めることになりました。
『多数決の決定』はどうなったと思いますか?
ヨーロッパ諸国代表、アメリカ代表。インド代表等が興奮して多数決の決定方法を話し合っている間に会場全体を見渡すことのできるオブザベーション・ブースから会場を始めから観察していた岡村浩英日本国連大使は、1階の会場を離れ2階のオブザベーション・ブースに入ってきた森田博士に話しかけました。
「森田博士。どうしましょうか」森田博士の岡村国連大使への返事は
「やっぱりこうなりましたね。もしかしたら、全世界が『正直電話』の使用に同意をして、単純でピュアーな世界政治ができるようになるかもしれないと思ったのですが、仕方がないのでスイッチをオンにしてください。」
テーブルの上の少し大きめのラジオのような機械『記憶喪失マシーン』の電源にスイッチを入れながら、岡村国連大使が森田博士に聞きました。
「時間はどのぐらいにセットしましょうか?」
森田博士は答えました。
「これぐらい会議室の場合は1時間が限度です。1時間にセットしてください。」
岡村国連大使は『記憶喪失マシーン』を1時間にセットしてスイッチ入れました。低周波の音が会場いっぱいに響きわたります。これで1時間前から始まった会議の内容は全て忘れられてしまうでしょう。
「森田先生、お疲れ様です。10分くらいで迎えの車がきますから、帰りましょう。」
迎えのリムジーンが二人を迎えに来る場所に向かって歩きながら森田博士は岡村国連大使に聞きました。
「世界平和の達成は政治家が正直になるだけでは難しいのでしょうか?」二人が迎えのリムジーンに着くころには二人もいま終了しようとしている会議のことはすっかり忘れてしまっていたので森田博士は岡村国連大使に言いました。「会議がどのように進んで、どのように終了したかはっきりとは分かりませんが私たちが二人とも覚えていないことから察するとあまり良い終わり方ではなかったのでしょうね。ホテル帰ってからビデオを見れば分かるでしょう。」これからのことを話し会う森田博士と岡村国連大使を乗せたリムジンは国連ビルを後に走り去りました。