俺の幼なじみについて
お久しぶりです。
執筆中小説を整理していたら続編らしきものを発掘したのであげます。
あいかわらず、練らずに考えたものなので期待しないで読んでくださいね。
俺には幼なじみがいる。
あいつは飄々としていて、何を考えているかわからなくて、癖のあるやつに好かれる。俺もそうだし、あいつの親友もそうだ。あと、舎弟やら先輩やらも。ほんと忌々しい。
出会いは母親同士を介してだった。当時は体が弱かった俺の相手を嫌がらずに、ずっと遊んでくれていた。何度かあいつの友達が誘いに来ていたけれど、それにのって行くことはほとんどなかったと記憶している。
体も成長してきて、行動範囲が広がると、今まで俺に見向きもしていなかったやつらが寄ってきた。正直、今までの態度を見ていると信用なんかできなくて、相変わらず幼なじみとべったりだった。
その関係に変化が訪れたのは、中学に進学してしばらく。それより以前から、あいつの話す言葉一つ一つに一喜一憂させられたり、一緒にいるとしんどいけど、離れているとつらいとかいろいろあった。それにどう対応していいのかわからず、あと自分の感情をセーブできなくてわけもなく幼なじみにあたってしまいそうで、今思うと馬鹿だったと思うが、その時は最良だと思って、幼なじみを避けた。
家を訪ねればすぐに用事があると出て行き、学校帰りにこっちと目が合うと会釈だけして足早に去っていく。遊びに行こうと誘えば、いつも予定でいっぱい。うちの家族と幼なじみの家族の合同で行っていた家族旅行は来たけれども、一言も交わさなかった。こういうことを続けるうちに、幼なじみは俺に話しかけなくなった。でも、幼なじみも俺を避けるころになってようやく、俺は自分が幼なじみに恋をしていることを自覚した。
そのあとは大変だった。話かけようとしても、今更何しにきたんだと聞かれるのを恐れて話しかけれない日々。いや、それくらいならまだいい。ある日突然避けてきた俺を嫌っていないだろうか。あいつに嫌われたくない。それだけは、だめだ。あいつは興味をなくすと、それが存在しないかのようにふるまう。見えているはずなのに、まったく無視する。あれは、精神的にくる。俺がもし、そんな反応をあいつにされたら、どうなるか自分でもわからない。
そんな風に悶々と過ごしていたある日、俺は見てしまったのだ。幼なじみが、俺の知らない男と楽しそうに笑いながら歩いているのを。
その時思った。このままじゃ、だめだ。いつになってもいい案が浮かばず、日々を無為に過ごしている場合じゃない。幼なじみの周りには俺以外にもいるのだ。あいつの隣に戻らなければ。
今まで悩んでいたのが嘘のように、自然と幼なじみの家に向かう足。久しぶりに訪ねた家は記憶のものよりは少し小さく感じた。久々に顔を出した俺にまったく変わらない笑顔を見せて出迎えてくれるおばさん。家であいつになんて言おうとずっと考えていたけれど、あいつの顔を見て出てきたのは、自分でももっと他にあるだろうと思えるものだった。そして、目の前にはあいつの手から投げられたカバンがあった。その後、二時間ぶっ続けで説教をされた。あいつは知らないだろう。俺がおとなしく説教されて、なおかつ謝るのなんて自分だけだということを。結局、俺はあいつには勝てないのだ。
ブランクはあったものの、それ以前にずっと隣にいただけあって、少しの違和感を乗り越えればほとんど元通りとなった。俺はそれで満足するつもりはないが。できることなら四六時中そばにいたいし、そばにいてほしい。しかし、学校が違うのでそこまで一緒にはいられない。だから高校は一緒のところに行きたかった。理由はそれだけじゃない。どうにかしてあの先輩とは離しておきたい。あのとき見かけた男は先輩だったそうだが、あれは厄介だ。隣に戻ってみると、知らないうちに面倒なものに囲まれていた幼なじみではあるが、一番俺が危険視しているのはあの先輩だ。
最初は渋っていたあいつだが、なんだかんだで俺に甘いあいつは最終的には了承してくれた。俺だってあいつだけには甘いのだからお互い様だと思って欲しい。
念願かなって、いっしょの高校に通えることとなった。信じてはいたが、特待枠を取れなかったらどうしようかと本人よりも俺の方が気をもんでいた。うちの母親がお金くらい出してあげるのにと言っていたが、そんな義理はないのでというようなことをオブラートに包んで伝えていた。だから特待で入れなかったら諦めてと言われ、結局それを飲まざるをえなかった。本当になんで俺は自分の思い通りに動いてくれないあいつが好きなんだろう。なんであいつじゃないとだめなんだろう。
世の中と言わず、学校にでさえ、あいつよりも可愛い子はたくさんいるし、頭のいい子だって、それほど多くはいないだろうけど、いるだろう。けど、俺はあいつじゃなきゃだめなんだ。あいつ以外のために何かをしてやろうなんて思わないし、嫌われるのが怖いと恐れるのもあいつに対してだけだ。俺の世界はいつまでも、小さいころのままあいつと俺しかいないんだということを痛感する。
そして、時はやっと今に戻る。
入学式も終わり後は帰るだけとなった時に中学の時に世話になった先輩方に呼ばれて、嫌だけど幼なじみだけを教室に残して行った。先輩方を敵に回すのは賢くないし、何かあってもあいつのことだから上手いこと自分で処理するだろう。
「皇帝が笑顔を見せながら親しく話している外部生がいる、ってすごい騒がれてるぞ。明日には高等部だけでなく、学園全体に噂が回ってるだろう。よっ、人気者」
呼ばれた先は生徒会。そこには中等部で生徒会を一緒にしていた会長と副会長がいた。この二人を含め、高等部の生徒会も面子はほとんど変わっていない。座るなり声をかけて来たのは、生徒会長だった。ああ、幼なじみに俺が皇帝と呼ばれていることがばれたらどうしよう。あいつのことだ。しばらくそれをネタにからかって来るだろうことは容易に想像できる。そういえば久しぶりで忘れていたが、俺は会長の相手はあまり得意ではないのだ。なので、早めに卒業していただきたい。飛び級してくれないかな。
「うるさいです。あいつには近づかないで下さいよ」
この生徒会の人間も一癖も二癖もある。あいつに惹かれる可能性はゼロではないだろう。今でさえ他の奴らを持て余しているのに、これ以上増えるのは勘弁してもらいたい。
「しかし、その子は一体きみの何なんだい?」
会長の女房役(実際に彼女でもある)ともいえる副会長が、お茶を出してくれながら聞いて来る。ハチャメチャな会長を冷静沈着な副会長が支える。いいコンビだと思う。
「幼なじみですよ」
「幼なじみねー。まっいいけどよ。それはそうとお前、生徒会入るよな?」
中等部の時と全く同じ質問をされる。あの時も突然呼ばれて、こう聞かれたのだ。それに対して答える言葉もあの時と同じだ。
「当然です」
「なら、前と同じように補佐に任命する。手続きしとくが問題ないな?来年はお前のことだから、会長になってるだろう。引き継ぎもスムーズになるし、やっとけ」
役員は当然生徒が選出するが、その補佐は、会長の承認で決めることができる。だが、実際補佐というのは現生徒会が推す次期の候補のようなもので、補佐をして生徒に顔を売って次代に備える。
生徒会など面倒ではあるが、将来何があるのかわからない。この名門の学園の生徒会という肩書きはは、なかなかに大きな力をもつ。
「幼なじみが大切なら、きちんと親衛隊の舵を取れよ」
唐突に話は戻る。いや、これが本題だったのかもしれない。適当に生きているようで、締めるところはきちんと締める人なのだ。
それにしても、親衛隊か。中学のときはどうでもよかったし、俺の外だけをを見て近づいて来るものをふるいにかけてくれるという点で重宝していたし、むしろこちらから頼んでいたぐらいだ。俺から親しくしている人間まで排除するほど行き過ぎてもないし、会長が何を危惧しているのかが分からない。
「そこまで干渉してきますかね?」
はあーと大きくため息をつかれてしまった。副会長でさえ、こちらを可哀想なものを見る目で見てきている。そんなにおかしなことを言った自覚はないんだが。
「お前はぜんっぜんわかっていない。幼なじみちゃんと話しているときの顔ちょっと鏡で確認してみろよ。いつもより、雰囲気も表情もやわらかで、ああ彼女は特別なんだなってすぐわかるから。お前のとこの親衛隊は、皇帝は孤高で誰のものにもならない、という前提の下で秩序を保っているんだよ。だから、多少誰かが親衛隊の許可なく話しかけたり、話しかけられようとも大目に見る。だって、お前の特別には絶対なれないから。しかし、あの子は違うだろう?だから、その認識じゃまずいぞ」
副会長もうんうんと隣でうなずいている。よくわからない理屈だが、そこまで言われるのならば注意しておこう。それにしても、俺そこまでわかりやすいのかな。
「女の嫉妬は怖いですよ」
会長にいろいろ言われたことよりも副会長のたった一言の方が怖く感じるのはなぜだ。
「じゃあ、もうおいとまします。そんなに言われるのなら、一人で残しているのも心配なので」
脅されたせいで本当に心配になってしまい、先生に怒られない程度の駆け足で教室に向かう。
教室に帰って見つけたのは、心底疲れ切ったように椅子にもたれかかる幼なじみの姿であった。もうすでに親衛隊に接触済みという俺の危惧をよそに、俺にかけた最初の言葉は「皇帝とか呼ばれてんだね」という、からかいを多分に含んだ言葉で、心配した気持ちを返せと言いたくなった。が、それにしては様子がおかしいこともさすがに気づいた。おそらく、会長の言った通りに親衛隊からの何らかの接触があったのだろう。だが、俺に言わないということは、知られたくないことだろうからそっとしといてやろう。そう、幼なじみが言わないならば、俺もこっそりと動くまでだ。
読んで下さりありがとうございました。
こんな感じになりました。
巻き毛も考えているんですよと前作の後書きに書いていますが、何を考えていたか書いていた紙が消えたので、あやふやな記憶を頼りにしての推敲でしたorz
だからおかしくてもあまり突っ込まないでください。
文章能力がないせいで補足を入れますと、巻き毛たちは皇帝に頼まれたといいうことを大義名分に、幼なじみの排除を図っているんですね。普段なら、そこまでのことはしていないんですが、どう見ても、特別に位置する彼女を見て、焦っての行動と思ってください。
もう一つ考えているのが、ちょっと出てきた先輩視点のお話ですね。先輩は学校が違うのでこの親衛隊がらみの話にはならないんですが、どうしよう…。考えているだけで、形にはなってはいませんが。