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セレクト・ファイター  作者: Aica
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7


私には、誰にも気付かれまいとしながら、ずっと携えている想いがあった。




小学校での生活にも少しずつ慣れてきた、六歳の6月。

それが全ての始まりだった。



-----




「お父さん、ねぇ、お父さんってば!」

「なんだ真波、もうこんな時間だ。早く寝なさい。」

「お母さん、いつになったら帰ってくるの?もう、一週間も帰ってこないよ。捜しに行こうよ!」

「お母さんは出かけた。だから早く寝なさい。」

「出かけたってどこへ?なんで私も連れてってくれないの?私、お母さんに会いたい…」

「いいから、早く寝なさい!!」


お父さんは最近、お母さんの話をすると、すぐこうやって私を怒鳴り付ける。

お父さんはもともと、不機嫌なときが多かった。どうしてあんなに不機嫌なのかとお母さんに聞くと、お父さんはお仕事が大変なのよ、と言って、大きなため息ばかりついていた。

たまに食事中にお母さんがため息をつくと、お父さんはお母さんを睨み、

「こっちは仕事終わりで疲れてるのに、ため息つきたいのは俺の方なんだぞ。お前は何もしてないだろ。」

と、イラつきながら言っていた。

お母さんはずっとうつむいていた。

私には、それが日常で普通だったから、ハヤシライスを夢中で頬張った。


お父さんに言われた通りにベッドに潜り込む。寝ようと目をつむったが、どうにも眠れない。

しばらくして寝ているのが苦痛になり、とりあえずトイレに行こうと立ち上がった。


トイレに行く途中、お父さんの部屋から何か物音がした気がした。

それがどうにも気になってしまって、お父さんの部屋の前に立つ。お父さんの部屋には近付くなとは言われていたけど、なんだか不思議に引き返せなかった。

私は悪い子だなぁ。お父さんの言い付けを破っちゃった。

私は、お父さんの部屋のドアに、耳をぴたっと押し付けてみた。


「……!?」


女の人の声と、ギシギシというベッドの軋む音が聞こえてきた。

女の人の声は、お母さんではない。

お父さん、ごめんなさい。

私は耐えられなくなって、ドアを数センチ開け、中を覗いた。


仄かな明かりの中、裸の知らない女の人と、裸のお父さんが居た。

私には、二人が何をしているか分からなかった。

私は吐き気を催した。ドアを閉めて、トイレに駆け込み、嘔吐する。

頭の中に浮かんでは消える、想い。


気持ち悪い。




私はそれから、お父さんが怖くなった。

私は口をきかなくなった。それでもお父さんは、特に私を気にした様子もなく過ごしていた。私の変化を見ても、何も言ってこないお父さんが、更に怖くなった。


それからというもの、男の人に恐怖を覚えるようになった。

同級生の男子や、男の先生さえも、なるべく交流しないように行動した。

逆に、女の子が好きだった。お父さんとは違くて、みんな優しかったから。

その気持ちは変わることなく、そして、だんだん歪んでいった。


中学生のときに、クラスの男子に言われたのだ。

「お前、男に興味ないとか、レズだろ?」


そう、私はいつしか、女しか愛せなくなっていた。

男は怖い。男を愛すなど、考えられない。


でもこれは普通じゃない。

友達はみんな、好きなアイドルや俳優は男だし、恋バナにでてくる好きな人の名前も、当然男。

自分がおかしいことは分かっていた。でも、考えを変えることはできなかった。




男が怖い。女が大好き。




これが、私のずっと携えている想いだった。







-------







「いらっしゃい。」

「ええ。相変わらずここは、ホコリ臭いわ。ちゃんと掃除してるの?」

「そう貶すわりには、よくここに来るね。」

「あなたを利用しにきてるだけよ。」

「ははっ、分かってるよ。」


「あなたも、でしょう?」


「うん、そうだね……クスッ」

「なぜ笑うの?」

「別に?」

「まったく。本当にそういうところが…」


死んでしまったあの人に似てるのよ。


「何?」

「何でもない。」

「そうだ、君に聞きたいことがあったんだ。」

「何よ?」




「どうして、赤羽凛を殺したんだい?」




「私じゃないわ。アース・イーターに勝手に食われたのよ。」

「でも、君が仕向けたんだろう?」

「……そうね。」

「どうしてだい?」



「冷たい炎のフリッカー。残っていたの。」



「それは危なかったな。想定外?」

「想定内よ。」

「またまた、強がっちゃって。」

「うるさいわね。もう帰るわよ。」

「馬鹿言うなよ。ほら、今日もいつもみたいに…」




愛し合おう。体と体を絡ませて、心ゆくまで。


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