5
セレクト・ワールドに来てから5日が経過した。
5日と言っても地球ではまだ1日目の夜6時くらいだろうか。
私たちは、現役セレクト・ファイターに稽古をつけてもらっている毎日を送っている。
とりあえずまずは剣から。あとは魔法とか治癒とか色々あるらしいが、基礎を固めないと上手くいかないそうだ。
朝から晩まで、稽古漬け。
正直、家に帰りたい。
重い足取りで部屋を出る。
すると、丁度となりの部屋から出てきたばかりの優斗が居た。
「お、華音おはよう。」
「おはよ…。」
「っなんだよ、元気なくね?」
「も〜お家に帰りたくて…。」
「ククッ、なるほどね!」
優斗は楽しそうに笑った。
「なんか優斗、イキイキしてるね。」
「俺は楽しいもん稽古。剣とか大好きだから。」
「ああそう…。」
「それに、俺の担当のセレクト・ファイターがめちゃくちゃ美人だし」
「死ね。」
「ごめんなさいww」
これだからコイツはほっとけないのだ。
「そんなこと言ったら、私の担当のセレクト・ファイターだってイケメンだから!」
「ああ、あの人な。ヤバいよなアレ、瞳に吸い込まれる。」
「男でもそう思うんだ。」
「うん。……惚れた?」
「いやいや、ないから。」
「そっか。」
意味深な会話だ。
(私が惚れてるのは優斗だけだから。)
なんて言える訳ない。
「俺もね、あの人に惚れないから。」
「ああ、うん。」
そろそろ行こうかと歩みを進めると、優斗は私の腕をグイッと引っ張った。
そのまま壁に押し付けられて、キスをされる。
「……っ!」
久しぶりの、優斗の唇。温かな体温。匂い。
大きな快感が私を襲う。
「……ハアっ。」
唇が離れ、息をつく。
「俺、めちゃくちゃ我慢してたんだからな……。」
「……知らなかった。」
「バカ野郎。」
「ん……。」
ギュッと抱き締められる。
ヤバい、落ち着く。
幸せ……。
バタン!!
扉が閉まる音がして、私たちは咄嗟に離れた。
吹森くんが部屋から出てきていた。
「お…はよう。」
「「おはよ……。」」
「えっと…邪魔した?ごめんな…。」
「「いやいやいやいや!!///」」
なんとも恥ずかしいところを見られてしまった(?)が、とりあえず今日も稽古に行くとしよう。
優斗とのスキンシップは私にやる気を起こさせるには十分すぎた。
冷めやらぬ興奮を胸に、私は稽古場所へ向かった。
「川越先輩、今日もよろしくお願いします!」
「よろしく、華音。今日はなんだか気合いが入ってるみたいだね。」
川越拓也先輩。水属性で私担当の現役セレクト・ファイターだ。
「そっ、そう見えますか!?」
「うん、なんか目が輝いてるよ。良いことでもあった?」
「えぇ、まぁちょっと…。」
「ちょっと、何?」
「言えないですけど……。」
「まったく優斗くんは、はしたないなぁ。」
「何言ってるんですかぁーっ!!!!」
「図星かwwまったくこれだからリア充は」
「ち、違いますって!」
「はいはい、そろそろ稽古を始めるよ。」
「う〜……。」
心で自分を罵りつつ、今日の稽古が始まった。
「華音、肩に力が入りすぎだ。もっと力を抜いて。」
「はい!」
仮想で造られたアース・イーターめがけて剣を振り翳す。アース・イーターが消滅した。
「OK。じゃ少し休憩しよう。」
「はい。」
スポーツドリンクを手に、私は床に座り込んだ。
ふと、自分の体を見下ろす。
アース・イーターと戦うときは、セレクト・ウォッチを使って戦闘服に一瞬で着替えることができる。
今、その戦闘服を着ている。
まるで裸なんじゃって思うくらい重量感や締め付け感はないのに、かなり可愛らしいというか……。
スカートはフンワリしているし、コルセットの後ろには大きなリボンが付いてるし、ブーツは編み上げのハイヒールだし…。
川越先輩も戦闘服なのだが、それもなかなか粋なデザインをしている。
「川越先輩、どうして戦闘服はこんなどう見ても戦闘不向きなデザインをしているんでしょうか……。」
「え、教本に書いてなかった?」
「いや、まだ全部は読んでないです。」
「戦闘服はまぁ飾りみたいなもんで、ぶっちゃけ俺たちは今何も着てないんだ。外に行くと空に、虹色の膜があったろ?あれをまとって体を保護してるんだ。」
「うえええ!?」
「そんで、セレクト・ファイターの心にある好みのデザインを膜が勝手に形づくって、戦闘服はできてるんだ。」
「マジですか…!?」
「うん。だから華音はずいぶんとファンシーだなぁとか思って」
「うわぁ、恥ずかしい…!」
「いや可愛らしいよ?」
ニヤニヤしながら川越先輩が言った。
ああきっと馬鹿にされてる!
でも正直、こういうデザイン嫌いじゃない。むしろ大好き。
「よし、そろそろ休憩終わりにしようか。」
「はーい。」
「これから教えるのは…まぁアース・イーターとは宇宙で戦うからね、無重力だから感覚をつかまないといけないんだ。ちょっとびっくりするかもしれないけど、とりあえず今日は他のセレクト・ファイターも皆で一緒に宇宙に行って実践を見てもらおうと思うんだ。」
「えっ宇宙に!?」
「うん。とにかく危険だからここでしっかり学んでおこう。」
川越先輩は何かリモコンを操作した。その瞬間、辺りが真っ暗になる。
「!?」
浮遊感が体中を襲う。
……え?う、浮いてる?
「ぬぉ!?え!?何これ!?」
「今、宇宙と同じ環境の状態でこの部屋は保たれてるんだ。」
「え、なにそれすごっ……て、わわわっ!」
無重力のせいで、体がゆっくり右に傾き始めた。ひえぇ〜!
「華音、体の左側、脇の下あたりに力を加えて体勢を立て直すんだ。」
「え、あ、えいっ!」
勢いよく力を入れて…うおおっ!
ぐいんっ!
よし、体勢は整ったな。
「……華音、ドヤ顔してるけどさ、お前今一回転したぞ。」
「えっ……!?」
「目つぶってたから気づかなかったんだろw力入れすぎw」
「うそぉ……」
それから一時間ほど、宇宙空間を上手に移動するために練習をした。
人間の対応力というのは優れているもので、一時間も経つとかなりうまく移動できるようになった。
素早く走るように移動したり、ゆっくりと移動したり。アース・イーターと戦うためにはスピードだったり静かに移動したりそういうスキルが大事になるらしい。
「よーし、そろそろ宇宙に行くか!」
川越先輩はセレクト・ウォッチを操作し、通話を始める。
「みんな、そろそろ始めたいんだけどパートナーの調子は大丈夫?」
「誠一はもう完璧だぜ!飛躍までバッチリ!」
「うちの真波もいけますよ!」
「優斗も大丈夫!いつでも行ける♪」
「よし、じゃあ行くか!セレクト・ウォッチで瞬間移動しよう!安全性の低いエリアがいいな…」
川越先輩はセレクト・ウォッチを操作し、目の前に画面を映し出した。
赤や黄色や緑に光っている。
「今なら北海道札幌辺りが安全性が高いな…今からデータを送るから来てくれ!」
「「「了解!」」」
通話を切り、川越先輩はデータを三人に送っているようだ。
本当に宇宙に行くのか…実感が湧かない。
それにしても自分の戦闘服を皆に見せるの嫌だなぁ。
優斗になんて言われるんだろ…
「華音、行くよ。」
「あ、はい!」
そして私たちは宇宙に繰り出した。
……これから起きる事態を知らずに、安易な考えをしていた自分は本当に愚かだ。
現役セレクト・ファイターは明るく振る舞っているが、現実はそう甘くなかったようだ。
そもそもこれが現実なのか、非現実なのか、私にはもう分からない。
ただ思うことは、この世界からは絶対に
「逃げられない」
そういうことだ。