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祭りの前に

作者: 相馬

明日は某大型イベントがある。

お盆の時期にお台場近辺で行われるオタクのお祭りだ。

祭りといっても提灯が出ていたり屋台があったり盆踊りを踊ったりするわけじゃない。

どちらかと言うと、戦場に近いのだ。

私は浮足立っていた。

この年に二回しかない大型イベントに気合十分で挑むつもりだった。


あこがれの作家さんに会えるし、綺麗にしていかないと!

私はいつもより入念に無駄毛の処理をした。

半身浴でむくみは取ったし、化粧水はたっぷりパッティング、美白パックもした。

この日の為に2キロもダイエットした。

美容院は一昨日いって、ふんわり夏色柔らかウェーブ。

大好きな人(作家)に会えると思うとお洒落にも気合が入る。

明日用に買った膝丈のワンピースは薄いブルー。いつも着ている洋服の3倍の値段がした。

裾にかけてふわりと広がるスカート部分には派手すぎないフリルがついている。

胸もとの切り替えで足長と着やせ効果アップだ。

UVカット効果もあるカーディガンは白。紫外線は大敵だもの。

サンダルはウェッジソールでヒールの低いものを選んだ。明日はいっぱい歩くから!

わくわくしながら、明日の行動範囲を頭でシミュレートする。

一番最初はあそこに行って…ここからこう回って…東から西へ移動して…うん、順調にいけるかな!

あとは明日に備えて寝るだけ!明日は戦いだ!睡眠は大事!

興奮してちゃんと寝つけるかな、なんて考えていたところで、部屋のドアが開いた。


「美也、何してんの」


幼馴染の秀一が顔を覗かせる。


「ちょっと!勝手に入らないでっていつも言ってるでしょ!」


しかもノックもしないで。着替えてたらどうするんだ。

私は頬を膨らませて抗議する。


「ごめんごめん」


秀一は悪びれた様子もなく、口だけの謝罪をする。


「悪いけど、今日は帰ってくれない?」


秀一とは2軒隣のご近所さんで、本当に小さいころからの幼馴染だ。

我が家に入り浸るのも当たり前のことで、秀一が勝手に出たり入ったりするのを両親も歓迎している。

だからと言って。

年頃の女の子の部屋に、もうすぐ日付も変わるって時間にほいほい入ってくるな!


「なんでそんなにつれないの」


「明日出かけるからもう寝ないと」


「出かけるの?誰と?」


秀一は意外そうに眉をあげる。

夏は日に焼けるから嫌!とほぼ毎日ひきこもっているから、驚いたんだろう。

秀一から誘いがあっても、プールも海もバーベキューも全部断っていたし。


「ちょっと…お台場に。誰となんて、誰でもいいでしょ。ほら、早く帰って」


オタクの趣味は秀一に隠してあった。

家族にも隠してあるけど、家族はひょっとしたら気付いているかもしれない。

誰かと出掛けるのではなく、戦利品を求めさまよい、憧れの作家さんに差し入れを渡し、きゃっきゃうふふとしに行くのだが、それは秀一には言えない。

それに、明日は化粧やら全身日焼け止めを塗ったりやら、色々準備に時間が掛かる。

電車の時間を考えても早起きしなくてはいけない。

秀一の背中を押して、ドアの外に押し出そうとする。


「わ、…ぷ」


秀一はくるりと体を反転させた。

自然、私は秀一の胸の中にダイブする。

鼻の頭ぶつけたじゃない。痛いっつーの。


「美也」


頭の上から秀一が名前を呼んだ。なんとなく声が険しい…気がする。

昔は私よりチビだったのに、成長期になってあっと言う間に背をぬかされた。

今じゃ、隣に立つと見上げないといけない。まったくもって悔しい。


「何、急にこっち向いて」


見上げると秀一の顔が眼前にあった。

近い、近いってば!


「デート?」


剣呑な声に私は後ずさろうとしたけど、秀一の両手が私の腰の後ろで組まれていて逃げられない。


「違うから!離して!」


両手を突っ張って離れようとするが、力負ける。

何で怒ってんの?寝るの邪魔されて怒りたいのはこっちだよ。


「俺が誘っても全部断ってたのに、他のやつとはうきうき出掛けるわけ?」


させるかよ、と呟きが聞こえて、視界が秀一で埋まった。

唇に生温かい感触。それが秀一のものだと気付く前に、開いた口から舌が侵入してきた。


「んっ!?…むぅ」


何が何だかわからないうちに、口内を蹂躙される。

上顎をなぞられ、舌を軽く吸われ食まれて、頭の芯がぼーっとする。

なに、これ、なにがどうなってるの。

突っ張った両手にもう力はなく、どちらかというと縋るようにして秀一の服を握りしめていた。

舌が絡まるたびにぞくぞくと背中を何かが這い上がっていく。


「はっ…ぁ」


息継ぎで口を開いたら、もっと深く秀一の舌が侵入してきた。

私、キス初めてなのに!ちょっと難易度高すぎない!?

回らない頭で抗議するも声にはならない。

くらくらするのは酸素が足りないせい?それとも、初心者でもわかるくらいキスが上手いこいつのせい?

悔しいから、酸素のせいにしておこう。

最後にちゅぱっと音を立てて下唇を吸われて、秀一の唇が離れていった。

ぜえぜえと息をする私に秀一はにやりと笑う。


「もっと?」


「もっとなわけあるかー!ファーストキス返してよー!!」


足がふらふらしているから、抱きしめられても離れることができない。


「ばか!何でこんなことするの!」


ふざけんなー!

胸元をぽかぽか殴るが、力の入らない状態では大して痛くもなさそうで、それがまたむかつく。


「なんでって、好きだから」


「はい?」


ほわっと?ぱーどぅん?

今、なんて言った?


「美也のことが、好きだから。ずっと我慢してたけど、他のやつにどうこうされるくらいなら、俺がする」


ん?んん?

これは属にいう告白ってやつ?

の割には、こう、はじらいとかないんですか。

普通告白って夕陽の照らす教室の中で、頬を染めてするようなものなんじゃないの。

体育館裏でもありだけど。


現実逃避で頭はどうでもいいことを考え出す。


いやいや、そもそも秀一は幼馴染でね。

小さい頃は私の背中の後ろに隠れてるような子だったしね。

女の子と間違われるくらい可愛くてね。

それがいまや、にょきにょきと背が伸びて肩幅が広くなって。

顔だって、美少女(もとい美少年)から男っぽくなっちゃって。

くっきり幅広の二重に私の倍くらいありそうな長いまつ毛と通った鼻立ちが、濃過ぎず男臭すぎず、学校じゃ陰で王子様とか言われてんだよ。

それに、随分モテるのだって知ってるんだよ。秀一は私に隠してるけど。

家が近いってだけで、隣を歩いてたら女の子の視線が痛いんだ。

私はたいして可愛くないし、だから不似合いで不釣り合いで。

ね?だからね?


「なんでこんなことになってるの!」


「初めては床よりベッドのがいいと思って」


「そうじゃなくて!」


現実に戻ったら、いつの間にかベッドの上に運ばれて押し倒されてた。


「美也、俺のことそんな風に思ってたの?」


全部口に出てたらしい。


「不釣り合い?そんなことないよ」


耳元で囁かれると、また背筋がぞくぞくする。


「美也、俺のこと好き?」


好きって言って、って目が懇願するように訴えかけてくる。


「き、嫌いじゃない…けど…」


好きなんて悔しいから言ってやるもんか。


「俺は美也のことが好きだよ」


だから、いいでしょ?

にっこりと笑った秀一の顔はむかつくくらい綺麗だった。

服の上からつーっと肩から胸まで指でなぞられる。

もう寝るからって薄いルームワンピしか着てなくて、だから服越しで伝わる温度に体が跳ねる。


「いい、わけ、あるかっ!」


そもそも、告白して、初々しいデートとかしちゃったりして、手とか繋いじゃったりして。

そういうのがあってからキスとかなんじゃないですか!

全部すっとばすなー!

いや、そもそも付き合うって言ってないし!

好きとか言ってないし!


「告白はさっきしたけど。手を繋ぐのもデートもとっくの昔にしてあるし。そもそも、昔は一緒にお風呂入ってたし」


さっきのなあなあな告白は、あれってありですか?

手…は物心つくまえから繋いでたのはともかく、一緒にふらふら出掛けるのはデートなの?

お風呂に至っては、幼稚園のときの話じゃない!


「私の、気持は?無視?」


「そりゃ、美也は俺のこと好きって言ってくれないけど」


ずっと昔から、好きだったでしょ?って自信たっぷりに笑う秀一にやっぱりむかついた。

某イベントに参加してたのは随分昔なので、思い出しながら書きました。今と違ってたらごめんなさい。


今書いてる別の作品が重すぎるので息抜きに…

ちなみに続編(四ヶ月後の話)はお月様にあります。

年齢おっけーな方はよろしかったらそちらもどうぞ。

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