世界一幸せな女の子
「君が今、幸せでいられるのは、君を含めてあらゆる人の不幸をある一人の女の子が背負っているからなんだよ。」
公園で遊んでいた僕に一人の老人が近づいて来てそう言った。
「長くなるけど、ちょっと昔の話をしてもいいかな。」
老人は近くにあるベンチに腰をかけた。
−−−昔、ある一人の女の子がこの世に生を受けた。彼女は周りからなっちゃんと呼ばれた。でも、なっちゃんは他の人とは生まれ方が違った。彼女は大人の都合で生み出された、人工生命体だった。
「世界一幸せな人間を作る」それが彼女を生み出した目的だった。なっちゃんは生まれながらにしてこの世の不幸から最も離れた存在だった。
なっちゃんは多くの人から好かれ、たくさんの愛情を受け、欲しいものは全て手に入れ、すくすくと育っていった。
それでいて彼女は常に控え目で、周りを気遣い、明るい笑顔で振る舞った。
みんななっちゃんを幸せ者だと思ったし、彼女自身も自分は幸せだと思っていた。
小学校にあがったなっちゃんはクラスの人気者になり、すぐにクラスの中心的存在になった。勉強は常に一番だったし、どんなスポーツも上手にこなした。
なっちゃんは世界一の幸せ者だったからそうなるのは当然だったし、彼女を作った大人達も大満足だった。
ところがそれを快く思わない人も現れ始めました。なっちゃんは、周りの子供達が欲しいと思ったものは全て持っていたし、したいと思ったことはなんでも自由に出来ました。
そのうえ、なっちゃんはとてもいい子だったのでたくさん褒められることはあっても、怒られることは全くなかったのです。
学年が上がるとその雰囲気はもっと悪化していきました。
テストで一番だった子はなっちゃんのせいで一番を取れなくなり、足が速い子はなっちゃんのせいで注目の座を奪われ、今まで褒められてた子は、先生がなっちゃんばかり褒めるので、あまり褒められなくなりました。
しかし、なっちゃんだけは幸せでした。みんなはなっちゃんをずるいと思いました。そう思う人が増えると、なっちゃんも薄々気付き始めました。
そしてある日なっちゃんはわかったのです。自分の幸せは周りの犠牲の上に成り立っているのだと。本来自分が受けるべき不幸を周りに押し付けているだけだと。
それはなっちゃんが望んだ結果ではありませんでした。だから彼女は神様にお願いしました。
神様お願いします。周りの人達を幸せにして下さい。自分だけの幸せなんて欲しくありません。みんなが幸せになれるならこの世界の不幸を全て私が背負っても構いません。
そしてその日を境になっちゃんはいなくなってしまいました。代わりに周りの人達が今まで以上に幸せになりました。しかし誰もなっちゃんのことを覚えていませんでした。−−−
そこまで話すと老人は空を見上げました。
「この世の全ての不幸を背負って世界一不幸になった女の子は今どこにいると思う?」
僕はわからないと答えた。
「それでは世界一の不幸とは何かを考えてみるといい。」
そう言うと老人は去っていった。気がつくと公園に残っていたのは僕一人だった。