第二章:戦乱の地へ
――ラスゲイツ平原東部
そこには既にアゼル帝国の防衛線が敷かれ、ライル帝国の第一陣と激しく交戦していた。
平原の西部、ライル帝国軍の本陣にルザサ、ジン、ミリーの姿があった。
「おい、普通なら一気にアゼルの領地まで進行できるハズだろ?」
軍隊の進行が遅れ、苦戦を強いられていることを本陣の司令官から聞かされ、いかにも不満そうな顔でルザサがミリーに愚痴をこぼしている。
「これだけ陣営が整ってるってことは、私達が“槍”を入手する日がわかってて、計画的やったことのようね」
ミリーは驚いた様子を見せず、冷静に事態を分析する。ミリーの応えに納得がいかない様子のルザサはなおも声を荒らげていた。
「超極秘任務だったのにか?」
「内通者がいる可能性も否定は出来――」
突然の警鐘によって言葉は途切れさせられた。
――敵襲
本来ならば中立国であるはずのミケドニア帝国の軍隊が本陣に奇襲を仕掛けてきたのだ。
「野郎、なんでまた」
ルザサはぼやきながら向かってくる軍隊の真正面から突っ込んで行った。普段からそうなのだか、今回は怒りも手伝っていた。誰よりも速く敵軍へと向う。
単独で突っ込むなど自殺行為なはずなのだが、彼にとってはこっちの方が手っ取り早いのだ。
敵と接触するや否やルザサは背中に背負っていた大剣で一気に五人を薙払い、
瞬間的に大群の中に移動し、刹那にして周囲にいた者達を切り倒していた。
あまりの速さに敵は周りを囲みながらも一人として動けない。それだけではない。ルザサが放つ殺気――これが周りの者の足を止めている。
「おいおい、折角中に入ってきてやったのに、来ねぇのか??じゃあこっちから行くぜ!?」
そう言い終わると同時に姿を消した。
いや、消えたように見えるほどの速さで切りこんだのだ。
まるで練習をしているかの様に易々と薙ぎ倒していった。敵の兵士は何が起こっているかわからないでいる。
ジンは双剣、ミリーは十文字槍を操り狂犬が〈暴走〉している間、本陣を守っていた。いつもなら止めに行くのだが今回は勝手が違うからだ。しかし、二人には、次々と来る敵兵に何の苦も感じる様子はない。本陣にいる兵士達は三人の動きに圧倒されて、戦うのを忘れ呆然と立ち尽くしている。
「いや〜、案外簡単でしたね」
「ま、このぐらい余裕だな」
五百人はいた軍隊が数十分とかからずに壊滅していた。
数分前まで戦場となっていた本陣前には静かに風が吹いている。そこに三人は疲れた様子も無く立っている。
そんな中ルザサだけはどこかふにおちない様子である。
「奇襲の癖に手応え無さすぎじゃねぇか?」
ルザサの〈暴走〉により一人で二百人切りは優に越えているだろう。ルザサの発言にジンは呆れた表情だった。
「ルザサさん相手だとしょうがないでしょう」
「でも、本陣への奇襲にしては数が少なかった様に思いません?」
ミリーがそう思うのも仕方がなかった。
実際に奇襲隊にミケドニア帝国の主力部隊は無く、下級兵士で構成されていた。
「ミリーちゃん、それは考えすぎだぜ」
ミリーの心配をよそにルザサは面倒くさそうに答え、足早に本陣へ戻って行った。二人は顔を見合わせて不満そうにしながら後を追い掛けた。
別動の主力部隊の奇襲により前線の部隊が壊滅状態にあるのを知るのは、それから間もなくのことだった――