東北ずん子二次創作 東北ずん子 異世界に転移する
既存の作品があると思いますが、キャラクターのイメージだけで再構成しました。
東北ずん子は、異世界にいた。
最初は、異世界だとは思わなかった。
三陸海岸でずんだ餅を食べていたはずなのに、突然知らない街にいたのだ。
木造家屋が立ち並び、大きな屋敷があった。
ずん子が入ると、楽しそうに餅を丸めていた女たちは、着物を襷で縛って、髪を手ぬぐいで覆っていた。
作業しやすそうだ。
親しみやすいおばさんたちが、談笑しながら餅を丸めている。
「ねえ、ずんだ餅はつくらないの?」
近づいて、突き立ての餅の甘い匂いに腹をすかせながら、ずん子は尋ねていた。
理由は単純だ。
東北ずん子は、ずんだ餅が好きだったのだ。
ずん子に気づき、振り向いた女たちが、揃って首を傾けた。
「『ずんだ餅』ってなんだい?」
尋ねられた。
ずん子は確信した。
ここは、異世界だ。
※
縁側に腰掛け、ずん子はずんだ餅を頬張った。
「おいしー!」
口の中が枝豆から作ったずんだ餡でいっぱいになる幸せに、意識せずに足がばたばたと動く。
「へえ……どれどれ」
餅を捏ねていたおばさんたちが、ずん子の周りに並んだずんだ餅に手を伸ばす。
材料の餅を作ったのはおばさんたちだ。
ずんだ餅は沢山ある。
この異世界で、ずん子はある特殊能力を手に入れていた。
どんな餅でも、ずんだアローで射ることにより、ずんだ餅になるのだ。
しかも、つきたてほやほやの、極上のずんだ餅になるのである。
ずんだアローは、気がつくと持っていた。
ずん子が手放した時に、小さな緑色の子供になったが、ずん子は気にしなかった。
ずんだ餅の方が大事だったし、ずんだ餅は何より美味しかったのだ。
結果として、ずんだ餅で足の踏み場もなくなった。
ずん子は、全てを食べ切る自信があった。ずんだ餅は別腹である。
つまり、永久に食べ続けられる。
だが、人に分けられないほどではない。
何より、そもそも餅がなければ、ずんだ餅に変えることもできないのだ。
餅を捏ねていたおばさんたちが、手を休めてずんだ餅を手にした。
一斉に食らいつき、一斉に叫んだ。
「おいしー!」
「んでしょ。んでしょ」
ずん子は満足して頷いた。
「こらっ、お前たち、兵站を作っていたのではないのか!」
木の扉をスライドさせて開け、年老いた男が顔を出した。
「まあまあ、家老様、食べてごらんよ。美味しいから」
おばさんの1人、厨房を取り仕切っていた女が声をかけ、皿に乗ったずんだ餅を渡した。
「な、なんだ? み、緑色の食い物だと? こ、こんな瑞々しいもの、どうやって兵站にするのだ! お前らは一体、何を……」
「そりゃ、この子のおかげさ」
ずん子は背中を押された。
前に出たずん子は、家老様と呼ばれた老人が持つ皿を見た。
乗っていた。
ずんだ餅だ。
「貴様は誰だ? 厨房の者か?」
「いらないなら、もらうね」
家老の言葉をきかず、ずん子はずんだ餅を口に入れた。
「おいしー!」
言いながら、思わず両頬を抑えた。
頬が落ちるのではないかと心配になった。
それほど、美味しかったのだ。
※
ずんだ餅を食べて満足すると、緑色をした小さな子どもがずん子の足をつついた。
ずん子は、厨房の片隅で膨らんだお腹を宥めていた。
「ずん子、いつまでもこんなところにいる場合じゃないんだもん」
「『こんなところ』って? お餅がないと、ずんだ餅が作れないのよ」
「ずん子は、この世界に召喚された勇者なんだもん」
緑色の子供は、ぴょんぴょんと跳ねた。
「ずんだ餅もない世界なのに?」
「さっき、たくさん食べたんだもん」
「それはそうね。勇者って言われても、何をするの? あっ……ずんだアローが無くなっているわ。あれがないと、ずんだ餅が作れないのに」
「あれ、おいらなんだもん。だから、心配いらないんだもん」
「そっ。ならいいわ」
「よくないんだもん。ずん子、この世界には、大都会っていう恐ろしい組織があって、枝豆を全部大豆に育てようとしているんだもん」
枝豆は、完熟すると大豆になる。
大豆になってしまうと、ずんだ餅には適さない。
色も緑から茶色に変わる。
「それは放っておけないわね。でも、誰も動けないわ。しばらく待ってよ」
「誰も動けないって、なんなんだもん」
「だって、見てよ」
ずん子が指差すと、厨房の女たちに加え老人一名が、ずんだ餅の食べ過ぎで転がっていた。
※
ずん子は大都会に向かった。
大都会には魔王がいるという。
ずん子は勇者なのだ。
ずんだアローを手にした時、ずん子はずんだ餅の使者となる。
ずん子が転移したのは、おおよそ現在の宮城県にあたる場所のようだ。
だが、ずん子の知る日本とは違った。
見渡す限りの餅米の水田と、同じぐらい広い枝豆畑があった。
ずん子は、右手に餅米の稲穂、左手に枝豆の畑に挟まれ、上機嫌で歩いていた。
餅米と枝豆に挟まれると、どうして上機嫌なのか。
自分がずんだ餅になったような気分になれるからである。
『ずん子、聞こえるか? ずん子!』
どこからか、ずん子を呼ぶ声が聞こえた。
ずん子は隣を見た。
全体的に緑色の子どもが、ふうわりふうわりと歩いていた。
「うん? どうしたんだもん?」
緑色のずんだもんが、首をかしげて上目遣いにずん子を見上げた。
「ううん。なんでもない。空耳みたい」
『こらっ! ずん子、何が空耳だ! 聴こえているんだろう!』
「えっ? お姉ちゃん?」
「誰のことだもん?」
ずんだもんが首をかしげる。
だが、ずん子はそれどころではなかった。
「お姉ちゃんも、こっちに来たの?」
『こっちとはどこだ? ずん子、どこにいる?』
「異世界だよ。私、勇者なの」
『い、異世界? ちょっと待て。ずん子、雷に打たれたんだろう?』
「なんのこと? 私は元気だよ」
『ほ、本当なんだな? 生きているんだな?』
「うん。お姉ちゃんも、こっちに来てよ。一緒に魔王を倒そう」
ずん子の姉は、東北イタコという。
霊力が強く、実在しない人物の魂と会話できる。
その優れた能力が、ずん子と世界を超えて話をすることを可能としたのだと、ずん子は納得した。
『ちょっと待て。異世界って、そんなに簡単に行けるはずがないだろう』
『お姉ちゃん、誰と話しているの? まさか、ずん子お姉ちゃん? ずん子お姉ちゃん、死んだの?』
突然、イタコとは別の声が飛び込んできた。
また幼い口調に、ずん子は妹の東北きりたんぽだと確信する。
「こらぁ! きりたんぽ、私は死んでないよ! ちょっと異世界にいるの。魔王をぶっ飛ばしてくるから、待っていなさいよ」
『えっ? ずん子お姉ちゃんなの? 本当に異世界にいるの? 元気なの? お腹減ってない?』
ずん子には、2人の姿は見えていない。
イタコときりたんぽがどういう状況で話しているのかはわからない。
ただ、ずん子は気にしなかった。
「こっちにくれば、お餅さえあればずんだ餅が食べ放題だよ」
『なに?』
『ウソ!』
2人が驚愕するのが伝わった。
ずん子は気分を良くした。
「本当だよ。『ずんだもん』っていうずんだ餅の精がいて、私にずんだ餅をご馳走してくれるんだ。もう、お腹いっぱい」
『嘘だ。ずん子が、ずんだ餅でお腹がいっぱいになるものか』
『そうだよ。ずんだ餅なら、無限に食べられるんじゃなかったの?』
「食べれるよ。でも、お腹いっぱい」
ずん子が笑いながら言うと、妹のきりたんぽが地団駄を踏むのがわかった。
『イタコお姉ちゃん、行こう。ずん子お姉ちゃんばっかり、ずるいよ』
『そうだな。ずん子、待っていろ』
「……本当にくる気かな?」
「おいら、知らないんだもん」
ずんだもんがそっぽを向いた。
その時、何もなかったただの空間に、破れるように黒いしみが広がり、見知った顔が現れた。
「イタコお姉ちゃん、きりたんぽ」
ずん子が異世界に来てから、一日とは経過していない。
それでも、ずん子は懐かしく感じた。
両腕を広げて、もつれあって地面に転がっている2人を抱きしめる。
「ずん子、ずんだ餅はどこだ?」
「うん。まずは一つ食べさせて」
「仕方ないなあ、2人とも」
ずん子は言うと、携帯食として持たされた乾飯を2人に渡す。
きょとんとした姉と妹の手の中に、ずんだもんが変化したずんだアローを打ち込んだ。
途端に、2人が持つ乾いた米が、ずんだ餅に変わる。
「うわっ、凄い。この世界、最高だ」
「うん。もう帰らなくていいかも」
「駄目だよ。魔王を倒して、この子を連れて帰るんだ」
目を輝かせた姉と妹に、ずん子は元の姿に戻ったずんだもんを紹介した。
※
心強い味方を得たずん子は、大都会という組織の本拠地、魔王城に向かう。
ずん子の武器は、ずんだもんの変形したずんだアローだけである。
ずんだ餅の魅力は魔王すら屈服させると、ずん子は信じて疑わなかった。
東北ずん子の旅は、続くのでしょうか。




