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第2話 それでも、腹は減る


「……で、どうすんだよ」


ぼそりと、誰かが言った。


薄暗い廃屋の中。

集まった子どもたちは、一定の距離を保ったままこちらを見ている。


警戒と、不信と――ほんの少しの期待。


「どうするって?」


「飯だよ」


短く返される。


その言葉に、苦笑が漏れた。


「そりゃあ、なんとかするって言ったしな」


軽く言うと、子どもたちの視線が一瞬だけ揺れた。


信じていいのか、試しているような目。


――まあ、そうなるよな。


「ちょっと外行ってくる」


立ち上がる。


すると、すぐに声が飛んできた。


「逃げるのか?」


振り返る。


言ったのは、少し年上に見える少年だった。

睨むような目。


「逃げねえよ」


「大人はみんなそう言う」


即答だった。


その言葉に、一瞬だけ詰まる。


けど。


「じゃあ、戻ってきたら信じてくれ」


そう言って、外に出た。



外の空気は、思ったよりも普通だった。


崩れた建物の隙間から見える空。

遠くに見える街並み。


まるで、どこにでもある地方都市みたいな景色。


「……ほんとに異世界かよ」


思わず呟く。


けど、視線を落とせば現実はすぐそこにある。


ゴミの山。

腐った臭い。

そして、そこに群がる人影。


子どもも、大人も関係ない。


「……」


ポケットに手を入れる。


――硬い感触。


「……あれ?」


取り出す。


紙幣と、小銭。


「なんで金あるんだよ……」


記憶にはない。


持っていた覚えもない。


けど、ある。


「……まあいいか」


今は考えてる場合じゃない。


腹を空かせた子どもたちが待っている。


足を動かす。


スラムを抜けると、景色が一変した。


舗装された道路。

整った建物。

看板や店。


完全に“普通の街”だった。


「なんだよこれ……」


さっきまでの場所と、同じ世界とは思えない。


店の前を通る。


食材が並んでいる。


パン、野菜、肉。


「……普通に売ってるのか」


けれど、店主の視線は冷たい。


「……買うのか?」


値踏みするような目。


「ああ、ちょっとな」


短く返す。


余計なことは言わない方がいい。


適当に食材を選ぶ。


安いパン。

野菜。

少しだけの肉。


金を払うと、店主は何も言わずに袋を渡してきた。



戻る途中、何度か視線を感じた。


奪うか、奪われるか。


そんな空気。


無意識に足が速くなる。


「……めんどくせえ世界だな」


小さく呟いた。



廃屋に戻る。


子どもたちは、まだそこにいた。


「……ほんとに戻ってきた」


誰かが呟く。


「言っただろ」


袋を持ち上げる。


「飯、持ってきたぞ」


ざわ、と空気が変わる。


「ちょっと待ってろ。今作る」


奥にあった、かろうじて使えそうな台を見つける。


くたびれた食堂みたいな場所。


「……ここ使うか」


火を起こす。

簡単な調理器具は残っていた。


野菜を切る。

肉を焼く。

スープを作る。


手は、自然に動いた。


「……いい匂い」


ぽつりと声が漏れる。


気づけば、子どもたちが近くまで来ていた。


距離はまだある。


でも、さっきより近い。


「ほら、できたぞ」


皿に盛る。


見た目は大したことない。

それでも――


「……食っていいのか?」


「ああ」


その一言で、堰が切れた。


一斉に手が伸びる。


がっつく。

飲み込む。

噛むことも忘れているみたいに。


「おい、ゆっくり食え」


言っても、止まらない。


「……うまい」


誰かが言う。


別の子は、泣きながら食べていた。


「……」


胸の奥が、少しだけ痛む。


――これが、こいつらの日常か。


その時だった。


「おい」


低い声。


入口に、大人が立っていた。


数人。


鋭い目。


「……なんの真似だ?」


空気が、一気に変わる。


子どもたちが、びくりと固まる。


皿を抱え込むようにして。


「……別に。飯食ってるだけだろ」


そう返すと、男は鼻で笑った。


「ここで勝手なことしていいと思ってんのか?」


一歩、近づいてくる。


「その飯、全部置いてけ」


「……は?」


「聞こえなかったか?」


男の目が細くなる。


「ここはな、“ルール”があるんだよ」


背後で、子どもたちの気配が揺れる。


怯えている。


当たり前だ。


「……」


少しだけ考える。


逃げるか。

渡すか。


それとも――


「……やだね」


口から出たのは、それだった。


「は?」


「これ、こいつらの飯だから」


自分でも、少しだけ驚くくらいあっさりと言えた。


場の空気が凍る。


「……面白いな、お前」


男が笑う。


でも、その目は笑っていない。


「痛い目見ても、同じこと言えんのか?」


――ああ、そういう世界か。


理解する。


「……」


それでも。


一歩も引かない。


背後には、子どもたちがいる。


守るとか、そんな大それたことじゃない。


ただ――


「……飯くらい、ちゃんと食わせろよ」


それだけだ。


静かな空気の中。


男たちが、ゆっくりと動いた。

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