今日の夜のこと
どうも、作者です。七話です。
「あの、ただの薬草採取、だったんですよね?」
「うむ、この通りしっかり必要数集めてきたぞ!」
ハイカさんが、何があったんだ? という顔でこっちを見ている。それはそうだ。ただの薬草採取でこんなにも土だらけで、そこそこボロボロになっていればこんな顔にもなるだろう。
その上、クランの方はかなり自慢げな顔をしているが、ただの薬草採取でここまで自慢げな顔になるのか?
「まぁ、薬草採取しようとしたら魔獣に襲われました。 何とかこうして逃げ切れましたが」
「魔獣に……? いえ、そうでしたか。 それはお疲れさまでした。 それと…クランさん、そんな髪色でしたっけ?」
「ん? あいや、元からこんな髪色じゃったぞ!」
「そうでしたか?」
ハイカさんは少し怪訝な顔をしているが、一旦は納得したらしい。確かに、少しだけ、茶髪が暗めになっただろうか。
一度幼女形態に戻ってしまったから、再度変身魔法を使ったとき、前の髪色を忘れて、違う茶髪にしたなこいつ。疲れて気づかなかった俺も悪いが。
「とにかく、魔獣も倒せたようですし、少し報酬は上乗せしておきますね」
「お、ラッキーじゃ!」
どうやら襲われた甲斐はあったらしい。俺たちは、ハイカさんから今回のクエストの報酬をもらう。
「今日のところはお疲れでしょうし、一旦休んでください」
「そうじゃな、そうするか」
さて、だったら宿と飯屋を見つけないといけないな。
「明日もここに来ればいいですか?」
「別にここである必要はありませんが……そうですね。 どうせこの受付は空いていますから、ここに来てください。 その方が互いに都合がいいでしょう」
「それなら、言葉に甘えさせてもらおう!」
クランの言う通り、言葉に甘えさせてもらおう。ハイカさんの説明は分かりやすいし、せっかく顔見知りになれたのだ。これからも頼りにさせてもらおう。
「それじゃ、これからもお世話になります。 アイカにもよろしく言っといてください」
アイカさんは、その言葉に優しい笑顔と小さなお辞儀で対応してくれる。
「妹の件、本当にありがとうございました。 これからも、誠心誠意対応させていただきます。 よければ、妹に定期的に構ってあげてください。 お疲れさまでした」
「うむ、お疲れ様なのじゃ!」
「――うむ、たまには人間の飯も悪くないのう!」
クランは、元の幼女姿に戻って、二つあるベッドの一つに腕を広げて横になっていた。
「ああ、この世界の唐揚げも中々悪くない。 いや、鶏なのかはわからんが」
俺たちは飯を食べたあと、ハイカさんおすすめの宿に泊まることにした。部屋を分けようかと悩んだが、一部屋しか空いてなかったので、今まで通り二人で寝て過ごすことになりそうだ。まぁ別に構わんが。
俺は今日までの出来事を、月を見ながら思い出す。まだ数日だが、中々濃い異世界生活を送っている気がする。新と二人で寝た日も月を見ていた気がする。
「そういえば、この世界の月は青いんだな」
その言葉に、クランは身を起こして月を覗く。
「いや、厳密にはこの世界の月は三つあってな。 緑、青、赤の順で、108日ごとに代わるんじゃ。 それがそのまま、この世界の暦にもなっている」
108日ごと、それが三回ということは、この世界の一年は324日ということか。
「俺の世界は365日だから、一か月分くらい短いな。 ということは、年齢もその分思ってるより取ってないのか」
とはいえ、300歳は圧倒的に上だが。
「そうなのか……まぁ、あの月たちの意味は、それだけじゃないがの」
クランの表情が一瞬神妙なものになる。こんな表情を見たのは、初めて会ったとき以来な気がする。
「それって……」
「そんなことより、人間の飯を食ったら、血も吸いたくなったわ! 吸わせろぉい!」
そんなことよりとは、まぁいい。別にいつでも聞けるしな。血を吸わせるのもなれたし、別にいいのだが、俺はいつもの感じで首筋を噛みやすいようにセットする。
「では早速……」
俺はそこで思い出す。そう言えば…。そう思って、今にも噛みつこうと大きく開けられた口のあほ面を、右手でがっちりつかむ。
「何をするお前!」
「思い出した、ずっとお前に聞きたかったことをな」
「ま、まさか……」
クランも思い出したのか、冷や汗をかき始める。そう、こいつに会った日からずっと、ずっとはぐらされていたとある話を。
「クラン、結局家出ってどういうことだ?」
そう、家出の件を。
「あ、あ~、その件はじゃなぁ……」
――クランの曰く、本当に家出したらしい。何でも、百年以上も計画していた世界を巡る旅の準備ができたので、父親に報告。しかし、
「いや、クランちゃん、万が一身バレしたらどうするんじゃ! それに外の世界は危険一杯だし! 血をほとんど吸わずにとは、どうやって生きていくんじゃあ!」
という言い分に、いくら反論しても聞く耳を持たなかったため、家出した。という訳らしい。言っていることは普通に正論である。あと、こいつの口調は父親譲りか...。
「安心せい!父上以外は全員知っておるからな!」
なるほど…? それは、家出というか、単なる父親への反抗なような気はするが…。お父さん、かわいそうな気もするな。どんまい親父さん。というか、百年単位の準備って、全然想像できんな。人間ならとっくに死んでる。
「はぁ、それにしても、そこまでして旅に出たかったのか?」
「うむ、この世界をめぐるのは、夢じゃったからな! それに、でないとヒーラーにもなれん」
夢、か。そう言われると、何も言えなくなるな。ヒーラーか、こいつはずっとそうなると言っていたな。
「ヒーラー、そこまでしてなりたかったのか」
「ああ、この世界を旅すること、そして誰かを癒すこと、わしはそのためにここまで来たんじゃ」
その目には、一切の曇りはない。さっきまでのふざけた表情はどこに行ったのだろうか。はぁ、ダメだな。姉弟を思い出して、甘くなってしまう。
「はぁ、事情は分かった。 どうせ、俺にはどうにもならん案件だ。 それに、今はお前がいないと、俺もこの世界のこと、全然わからんからな」
別にこいつでなくても、いいが。乗り掛かった舟だ。お互いの事情を知ってしまった以上、離れるという判断は、取れる気がしなかった。それに、俺はもう、こいつを放っておけない。
「ふっ、そうじゃろうそうじゃろう。 じゃが、わしもお前がおらんと生きられんからのう、これからもわしのことも守ってくれぃ!」
食料として、必要なだけだろうに。だが、
「あぁ、守ってやるよ。 俺も、それがしたい」
「そうか、お互い様じゃな」
なんだか照れくさいな。まぁ、いいか。
「はぁ、明日もクエスト、頑張るか。 というか、お前今日は短時間だったから良かったが、日差しは大丈夫なのか?」
こいつは吸血鬼だ。いくら、多少太陽が平気とはいえ、出会った日なんかは、太陽の下に出られないくらい弱っていた。今後もそうなっては、いつかは危うくなる。
「その件じゃが……できればお主からエナジードレインさせてくれんか?」
「エナジードレイン?」
「まぁ、血じゃなくて、体に触れるだけでも精力を吸える。 それに、おぬしに接続すれば、触れなくても吸えるからのう。 代わりにお主は、常に体力が吸われるが…」
それは再生で回復できる、か。実際どれくらい弊害があるかわからんが、血を吸われても、特に体力に問題ないのを考えると、多少倦怠感がある程度だろう。接続というのはよくわからんが、こいつが死ぬ方がまずい。
「とりあえず、そっちの問題は分かった。 後は、あの魔獣たちだな、今のままだとまたいいようにやられる」
やられることはないが、しかし倒しきれない。普通に面倒な問題だ。
「それに関しても……忘れてたことがあってのう。 恐らくそれでどうにかできる」
「それってなんだ?」
「明日教えよう。 やり方さえわかれば誰でもできるからの。それに、今日はもう疲れたしのう」
確かに、今日はいろんな情報を頭に詰めすぎた。特に家出の件。こいつの言う通り、今日のところは休んだ方がいいだろう。
「それじゃ、明日もやるぞ! 冒険!」
「そうだな」
俺たちはそれぞれベッドに潜って、眠った。だが、俺はふと思う。アイカはどうして、あの七番受付に行くように言ったんだろうか。あそこは、文字が読める人間しか使えない。つまり、俺たちが文字を読めると知っていたことになる。いや、単純に姉を紹介したかっただけかもしれないが。そこで思考は途切れた。
「――それで、例の二人組はどうだった?」
「どちらも真面目でよかったですよ」
目の前の書類を片付けながら、昔なじみの、いや今は上司だが、その雑談に耳を傾ける。
「それにしても、”転移者”と”魔族”か。中々すごい組み合わせだね」
妹から、あの二人のことを聞いたときは、大いに驚いたものだ。妹から聞いた話では転移者がいるという話しか聞かなかったのに、
「まさかもう片方が、吸血鬼とは、流石に驚きましたよ」
「良く気づいたね。 かなりステータスは偽装されていたんだろう?」
確かに、かなりきっちり偽装されていた。しかし、
「二人そろって、『夜行』やら、『翻訳』やらのステータスを隠していないのは流石にわかる人にはわかるというものです」
「それもそうか」
夜行は、吸血鬼か、獣人くらいしか持っていないし。 翻訳スキルも、転移者しか持っていない。しかも、無職で無所属とは、もう役満である。
「それにしても、転移者がこんなさらっと出てくるとは、何があるかわからないねぇ」
通常、転移者はこんな簡単には現れない。人間の国が召喚して、そのまま兵器として管理されることになる。要は今回の件は例外なわけだが。
「私はもう、彼女に会っていますから、もう何があっても驚きませんよ」
「僕、そっちに会ったことないからなぁ。 まぁ、何か起きるのは間違いないか」
「えぇ、一応新たな勇者の件もあるから、備えておいて、ギルドマスター」
「口調崩れてるよ、ハイカ」
どうせ二人しかいないのだ。今更、このやんちゃ坊主に敬語を使うのも疲れるというものだ。さて、明日のためにも、書類仕事を終えなければ。
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