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三月羅針譚~盾持ちと吸血鬼~  作者: FOXtale
二章 ■■にあつまれ
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”受け継ぐ者”

どうも、作者です。五十九話です。

クランは、無事にハイカを説得できるのでしょうか?

「――”眷属”の男が動きました。洗脳冒険者が襲ってきた時、随行していた女もおります」


「そのまま、監視を続けさせろ」


忌々しき赤月の出る夜。あの”勇者の娘”をさらって二日目。今のところ不審な行動は見えないが、こんな深夜に唐突に行動し始めるとは、あの女神より何か命を受けたか?


昼も少年と行動していたようだが、結局特に変な動きはしていなかった。


「”眷属”って、泉さんのこと!?」


「うるさいぞ、”勇者の娘”」


俺は、その女を睨みつける。しかし、あの図太い勇者の娘だけはある。この程度ではひるみもしない。その生意気な顔にいらついて、その顔を蹴り飛ばす。


「かはっ!?」


「ちっ! 洗脳すら効かないのは本当に面倒だ」



「――さて、行動ですが、私と泉さんが、囮になります」


「ハイカの説得が終わるまで、だな」


アメイがそう付け足す。


「え、えっとどうしてそうなるんですか?」


「恐らくですが、あの裏道で戦っていた時、私たちのことがバレていると思われます」


曰く、あの時、俺たちを襲っているとき、敵の幹部が監視していた可能性が高いらしい。


「なんでだ? 確かにハイカとは仲いいが、それだけで監視するのは不自然だろ」


「そうです。ですが、恐らく相手はそれとは関係なくイズミさんを知っていたんですよ」


「泉を?」


クランも理由が分かっていない。俺も理由を考える。相手は聖王国の手先の者。そして、青の女神を崇拝する者たち……。


「俺が”眷属”だからか?」


「そういうことです。恐らく相手は、イズミさんが眷属だと青の女神から、もしくは眷属だと先に聞いていたのだと思われます」


なるほど……でも待て?


「なんで相手がそれを知ってると思ったんだ?」


「赤月の女神が、アイカさんの居場所を突き止められなかったことです。これは泉さんが”眷属”だと理解していなければできないやり口ですね」


そうか、そもそも未来さんがみつけられなかったというのが、おかしいのだ。確かに未来さんの目が月が出ている間のみとはいえ、逆を言えばその時間は圧倒的に情報収集能力は高い。何せ女神だからな。


逆を言えば、相手は女神の監視を潜り抜けるように対策してたことになる。そして、その女神が情報を渡せる”眷属”がいるという前提条件の上に成り立っているものだ。


「ですので、相手が警戒しているのはイズミさんでしょう」


そして、あの時一緒にいたクランとヒビキさん、ということか。しかし、クランは変身魔法でごまかせる。だから俺たち二人……か。


「ということで、私たちは、ハイカさんの説得が終わるまで敵の目を引き付けます。丁度いいですし」



「――あっちはうまくやってるか?」


アメイは不安なのかそんなことを聞く。だが、今のところ普通に夜の街を満喫しているだけにしか見えないので大丈夫だろう。


「大丈夫じゃ……お主はこっちに集中せい」


「へいへい……とはいえ、本当に説得できるのか?」


わからない……そう言いかけたが、それでは駄目だろう。


「やる……どのみちそれしかないわい」


わしらが来ていたのは、ギルドだった。ここに、ハイカ殿はいる。アメイがあの後呼び出したのだ。アメイは本来ギルド関係者しか知らない扉を通る。


やはり、こいつ、セントラルフラッグとずぶずぶだ。そんなことをのんきに考える。案外リラックスできているものだなと自分を客観視する。


コツ、コツ、と足音がいつも賑やかなギルドに響き渡る。それほどまでに今は静寂に包まれている。


「……私に用とは何ですか?」


「何……一発殴りに来た!」


ハイカ殿に対してわしは殴り掛かる。だが、それは避けられることはなかった。だから、わしは殴る代わりに胸ぐらをつかむ。


「おい、クラン!」


アメイにはすまないが、こればかりはわしの感情を優先させてもらう。


「自惚れるではないわぁ!!」


その声はギルド中に響き渡る。反響して反響して、はて何処まで響いたのか。そう思うぐらいまでにはまた静寂になる。


ヒビキ殿はただただ驚きで目を見開いている。何も伝えてないのだ、仕方ない。


「お主の事情は聴いた。アイカを助けた時のこと、そしてその時受けた”呪い”のこともな」


ハイカ殿がその時受けた”呪い”。それこそがハイカ殿が冒険者を引退したもう一つの理由だった。


「じゃが、そんなもの……どぉうでもいいわ!! 呪いもあろう! 妹のこともあろう! じゃが、それがお主が動かぬ理由にはならん!」


その言葉に、ハイカ殿は掴んだ手を今度は掴まれる。


「私は、私はもう嫌なんですよ! 何も上手くいかない絶望が! 父からもらったものを無に帰す無力感が! ただ私らしく生きようとしただけで、妹を狙われる! 父が勇者だから!? だから何なんですか! あの人はただ笑うのが好きな人だった! たったそれだけの人だったのに、”勇者”だからって、その娘だからって家族を狙われる! 貴方にこの気持ちが分かりますか! 分かるわけが」


「お主の気持ちなぞ、一片も分からんわぁ!」


分かるわけがなかろう。英雄と呼ばれる程の人間のことなど。わしはここ最近まで引きこもっていた吸血鬼だ。


「じゃあなんなんですか!」


ああ、ハイカ殿の気持ちは一切分からない。だが、


「お主の妹のことならばわかる」


ああ、アイカのことならわかる。きっと、”英雄”にたくさんのお話を聞かされているであろう、あの純粋無垢な少女のことならば。


その言葉にハイカ殿は泣きそうな目をする。困惑と、悲しみが混じった目で。


「お主の妹は、お主が自分で縛られているのが嫌なんじゃ」


「どうして、そう言えるんですか」


ハイカは、心当たりがあったのか、苦しさを増している。


「わしも、同じ経験をしておるからの」


かつてあの旅人は、確かに足を負傷したのもあっただろう。しかし、それ以上にわしと一緒にいたいという思いもあったのだと、そう今は思う。


もし、もし旅人は足を負傷せず旅をつづけられたのだったら、それだったらわしはきっともっと旅をしてほしいと願っただろう。それが、あの旅人の生きる意味であったのなら。わしになぞ、縛られてほしくはないと。


「お主は、父よりたくさんのものを受け継いだのであろう? お主の師より、多くの技術を得たのであろう? なら、どうしてそれを活かさぬ? どうして、それによって誰も、いい思いをしておらんのじゃ」


ハイカが冒険者として動けば、もっとたくさんのいいことがあったはずだ。何より、ハイカ殿が動かぬことで、ハイカ殿もアイカも、苦しい思いをしている。


「でも、私はもう何も」


「言ったじゃろう? 自惚れるなと。お主の妹はまだ、生きておる。なら、何を失うのを恐れておるのじゃ、一度失ったのなら、その後悔を活かせ」


わしの憧れた旅人は、もうこの世にはいない。泉はもう、家族の元には戻れないだろう。


「それに、今回はアイカが前死んでしまった時とは違う」


「それは、一体?」


「わしらがおるじゃろう?」


わしは大きく笑う。そうだ、アメイに聞いたとき一つだけ大きな過ちがあったと理解した。それは、


「お主はなんでもかんでも一人で解決しようとする……それがお主の悪いところじゃ」


どうして強い人間は何もかも一人でやろうとするのか。いくらでも、友を利用してしまえばいいというのに、心からの頼みであるなら、わしらは誰も断らないというのに。


「わしらと一緒に、アイカを助けてくれ。『勇者』の娘だからではない、『騎士』の弟子だからではない、じゃが、二人の力を受け継ぎ努力し続け、そして何よりアイカの姉であるお主だから、頼む」


わしは、ハイカ殿を掴んだ手を引き、今度は握手を求める。


「……こちらこそ」


ハイカさんはその手に応じてくれる。


「ですが、私は結構面倒ですよ?」


何、いくらでも迷惑など、かけて良い。というか、わしらはもうずいぶんと世話になっておる。


「お互い様じゃ……それに、最悪の場合、全部泉に押し付けるわ」


(……なんで俺?)


泉から、困惑の思念が伝わってくる。まぁ、いつも通りである。


(……嫌ないつも通りだ。まぁ、ハイカさんの分はいい)


「泉もそう言っておる」


(いや、言ってはいない)


その言葉に、完全にハイカ殿は気が抜けたようで、大笑いする。初めて見たのう、ハイカ殿が口を開けて笑うところなど。


「アメイも、ありがとう」


「はぁ、相変わらず世話のかかる姉ちゃんだよ」


ずっと見守ってくれたアメイにも礼をせねばな。アメイも気が抜けて、疲れた顔で笑っておる。


「では、改めて頼むぞ”受け継ぐもの”」


「ええ、助けて見せます。今度こそ、いえ、今度はあなた達と共に」


さぁ、やろうぞ。この六人で。

読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。

さぁ、次回から作戦開始です。

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