裏道の吸血鬼
どうも、作者です。二話です。
連続投稿です。
「変な奴じゃの、貴様」
裏道でうなだれていた少女の第一声は、そんな言葉だった。
「それが一言目なのは、流石にひどくないか」
少女はそう言われて、その赤い瞳で睨んでくる。
「それは…そうじゃの、すまぬ。 しかし、それにしたってこのような浮浪者に話しかける奴は、ここでは変な奴じゃ、特に赤い瞳を見て逃げ出さぬ奴はの」
ふむ、まぁ周りが無視している中で話しかけた時点で、確かに少数派ではあろう。にしたって話し方で内容が入ってきにくいが。
この喋り方といい、返答の仕方といい、容姿といい、恐らく普通の少女ではない。身分も高そうに見える。余計こんなところでボロボロになっている理由が分からない。
「そうかもな、それで何でお前みたいな少女がこんなところにいるんだ?」
「わしのような、か。 そうじゃな、その質問に答える前に、わしから質問しよう。 お主はなぜ、わしに話しかけた?」
「助けるため」
「...即答とは。 参ったのう、そのような即答と瞳では信用せざるおえんではないか。 少しだけ待っておれ」
そう言うと、少女は立ち上がる。小さな声で呟き始める。それを終えると、こちらを向いてフードを脱いだ。
金色の髪、吸い込まれそうな深紅の瞳、そして笑ったときに出る鋭い犬歯、その姿はまるで
「...吸血鬼?」
「ガハハハッ! 流石に気づいたか! 我が名は、クラン・クリュサオル・ブラッドリード。 お主の善性を見込んで、この真名を明かそう! そして、お察しの通り吸血鬼じゃ、ま、死にかけじゃがの」
そう威勢よく言うと、少女はその場で倒れこんだ。本当に死にかけらしい。俺は急いで駆け寄った。
「本当に大丈夫か?」
「いや、本当にもう三か月程血も何も吸収しておらんのでの。 本当に危ういわ」
さっきまでの威勢が嘘かのようにみるみる顔色が悪くなっていた。本当に放っておけなくなったな。
「俺ので良ければ、吸えばいい。 そうしたら、死なないんだろう?」
俺はそう言って、手を差し出す。少女は手を見て笑い、自身の手でつかんだ。
「やはり貴様、変な奴じゃよ」
「そうか、どうでもいいさ」
俺の首元に少女の顔が近づき、少しだけちくっとする。噛まれた割には、あまり痛くない。しかし、すさまじい嚥下音が聞こえてくる。相当喉が渇いていたらしい。当たり前か、三か月も血を吸っていないのであれば、そうもなるか。
そんなのんきなことを考えていて、三十秒ほど経った頃、
「ぷはっ!」
クランは、俺の首元から口を離し、俺の両肩をがっと掴んで俺の顔を覗き込む。
「お前ーー! 死ぬ気か! わしが血のおいしさに気を取られて、お前が失血死したらどうするつもりだったんじゃ!」
確かに。その可能性を忘れていた。だが、俺は俺で思いのほか、だるさなどは感じていないせいもあった。
「すまん、完全に忘れてた。 お前が必死に吸ってたもんでな」
「あほかお前、じゃがありがとう!」
クランはツッコミながら、感謝を忘れず伝えてくる。意外にノリがいい。
それにしても、あまり痛くなかったなと思って、首元に手を当てると、吸血痕のようなものはなかった。
「? どこから吸ってたんだ?」
その言葉を聞いて、クランは首元をのぞき込む。
「それは、ほれそこに...ん? なくなっておるな」
これは、なんでだ? 少し考えて、思い出す。
「そうか、スキルか」
「スキル?」
「俺のスキルに『再生』っていうスキルがあったなと思ってな」
そういえば、そんなスキルがあった。名前的に肉体を再生するスキルなんだろう。
「ほう。 それはそこそこ便利そうなスキルじゃな。 回復いらずではないか。それにしても、まるで最近初めて知ったみたいじゃな」
みたいも何も
「最近知ったからな」
「最近開花したと」
「いや、いつからあったかは知らん」
「...。」
「...。」
「…お前、まさか異世界人か!?」
「そうだが」
クランは、驚愕で声が出なかったようだ。相当珍しいらしい。
「やっぱり珍しいか、異世界人」
「何不愛想な顔で言うておるんじゃ、珍しいとかそういうレベルじゃないわい! はぁ、わしもここにおるのはあり得ない側だから良いが、いや良いのか?」
「知らん」
クランは、今の状況に混乱してるのか、表情をころころと変えている。どうやら、本当に元気になったようで何よりだ。
「というか、この状況で一切驚いてないお前が怖いわ!」
「いや、これでもかなり混乱してるんだ。 だが、元々表情筋が動きにくいタイプでな。 それと、初めてのことが多すぎて、何に混乱していいかわからん」
「な、なるほどのう」
本当に何に混乱していいか分からないレベルでいろいろとあったのだ。急に異世界に来たとかと思えば、ステータスが弱かったり、知り合いが勇者だったり、自ら城が出て行ったり、助けようとした少女が吸血鬼だったり、後半二つは自業自得だな。
「...一つ聞いてよいかの?」
「何だ?」
一体何を聞くというのか、といっても聞きたいのは一つだろうが。
「イズミはどうしてここにおる。 さっきも言った通り、転移者はそこらへんにおるものではない」
やはり、聞きたいのはそういうことだろう。
「...それは」
ということで、昨日来てから、今に至るまでの経緯をステータスを見せながら話す。
「ふーむ、なるほどのう。 確かに転移者は大抵固有の強力なスキルを持つというのは聞いたことがある。 実際『再生』も便利なスキルじゃが、確かに珍しいというにはしょぼい気もする。 じゃが、本当にそれだけでここまで自由にさせるかのう?」
人が持っているスキルをしょぼいというのは失礼だが、だがだからこそ、あの王もあんな反応だったのだろう。
「それに勇者と同時に、厳密には時差があるが同じように転移してきたわけか。わしも人間と転移者回りは詳しくはない故、なんとも言えんが、片方が勇者であることも踏まえてもおぬしの転移がイレギュラーなのは間違いあるまい」
やっぱり、そうなのか。 だからこそ、あの王も警戒していたんだろう。 予定外の存在が急に現れれば、警戒もするか。
「じゃが、それだけの理由で、貴重な転移者を手放すのか? うーむ、人間の王が考えてることは分からんのう」
「ま、そんな感じだ」
「事情は分かったわい」
そういって、いつの間にか二人して胡坐をかいていた体勢から、クランは立ち上がって大きく笑った。
「とにかく、今のお主がフリーなのは理解した! ならどうじゃ、わしと冒険者にならんか!」
冒険者、異世界ファンタジーには欠かせない要素だ。やはりこの世界にもあるらしい。そういうことならば、
「ああ、構わん。 そういうのがあるなら、最初からそうするつもりだったからな」
「よし! ならよろしく頼むぞ!」
彼女から差し出された手を握り立ち上がる。正直、身長差は四十前後はありそうで、立ち上がった状態で握手すると、少し大変だ。
「それなら、早速ギルドに向かうか」
といっても、俺はギルドの位置を知らないが。
「いや、この街のギルドには赴かん。 わし的にちと不都合でのう」
不都合? いやそう言えば、赤井の瞳を見て逃げ出さないのは変とか言ってたな。もしかしてだが、
「吸血鬼は冒険者になれない?」
「少なくともこの町ではな。 それと、厳密には吸血鬼も含めた魔族がな」
魔族、この世界にもそういう種族の違いはあるのか。
「逆に言えば、お前が冒険者になれる場所もあるという訳か」
「その通りじゃ。 まぁ、ここでも細工すればやれんこともないが、ばれるとおっかないからのう」
なるほど、そこに向かうというわけか。
「ともかく、今日のところは宿を取るぞ! 流石に今から向かう場所の馬車を探すのは大変じゃからな」
「わかった。 そういえば、お前金はあるのか?」
「ない! というか、資金が尽きたから、ここで倒れていたわけじゃしな!おぬし、王から資金はもらったのだろう? それを今あてにしているというわけじゃ」
なんてすがすがしい宣言をするんだこいつ。というか、冒険者に誘ったのもそういう理由か。
「はぁ、まぁいい。 いくぞ」
「いや、ちと待ってくれ」
そういうと、クランは少し深呼吸して、何かを唱え始める。
『我が可能性を、今ここで表せ』
『跳躍変身』
そう唱えると、クランは光る。そのまぶしさに目をつぶると、次の瞬間には、一回り、いや二回りは大きな女性があらわれた。
「お前、クランだよな?」
さっきまでは、小さな少女というかんじだったが、今はかなりの美女といっていい姿に変わっていた。しかし、髪の色は赤褐色になり、目の色も変化しているが。
「うむ! そのとおり、わしじゃ! 中々の物じゃろう! 変身魔法の一つで、未来の自分の可能性に変身できる魔法でな、あの姿のままだと、旅には不向きじゃからの。 長い時間をかけて会得したんじゃ。なんと、髪色などには融通が利く便利魔法じゃ!」
なるほど、確かにあの姿じゃどこからどう見ても子供だ、旅には不向きか。それに、さっきの姿だと俺と身長差が四十前後はあったから今の方が目立たないか。それでも、二十前後はありそうだが。
「とにかく、これで多少は問題なかろうて!」
正直、それでもかなりの美人だから、目立ちそうではあるが。まぁ、さっきよりはましだろう。
「もしかして、ここまで話してて目立たないのも魔法か?」
よくよく考えたら、ここまで大騒ぎしていて人に気づかれないのも、不自然だ。
「うむ、さっきそういう結界を張った」
やっぱりそうなのか。
「ふっふっふ、ま、わしも旅するために色々準備したんじゃよ」
そんなことを話しながら裏道から抜ける。太陽光は平気なんだろうか? そう思いながら、太陽の下に出たが、多少だるそうな顔には変化したが、平気そうだ。
「流石に日の下はきついのう」
そういえば、
「お前はなんで、ここに来たんだ?」
「自分の目的のためと…家出じゃ」
…最後、小さな声ですごいことを言った気がしたが、これ以上頭を抱える情報を増やしたくないので、無視することにした。
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