救出
どうも、作者です。十九話です。
「おい、クラン!」
「すまん、俺も行く!」
アメイにはすまないが、悲鳴が上がっていて行かないわけには行かない。それが罠でも、クランが先に行ってしまった以上、俺も行くしかない。
螺旋階段を一瞬で下り、クランに追い付く。
「クラン! 場所分かるか!」
暗い場所では、クランの『夜行』のスキルが強化される。だからクランの方が速く動けたし、正確に聞こえたはずだ。
「こっちじゃ!」
「俺が先導する!」
多少の罠なら、俺が無理やり踏み抜ける。俺はクランが示した方向へ全力で駆け抜ける。正規の道かどうかさえ分からない。しかし、今は行くしかないだろう。
道を通過するとき、案の定、罠が作動して足元に矢が発射される。射出位置はアメイが試しで作動させたものと同じ。賭けだったが、これならいける。俺は、少しだけ飛び、その罠を避ける。クランも同じように、避けているはずだ。
通路の先、開けた空間に魔獣が見えてくる。恐らく、そこだ。魔獣の名はミニゴーレム。このダンジョンに出てくる魔獣の最後の一体。二階層以降で出現する魔獣。
しかし、ミニゴーレムとは名ばかりで、少なくとも大人の人間サイズほどの大きさはある。
アメイのように、すぐに正確な数は分からないが、複数体いるのは間違いない。しかし、どのミニゴーレムも、こちらに背を向けていた。なら、正面に魔獣にとっての敵、つまり同類の冒険者がいるはずだ。
『縛れ』
『魔鎖!』
俺は一番後ろのミニゴーレムに『魔鎖』を放って、どかそうと全力で引っ張る。
「!」
しかし、鎖はその重みに耐えられず砕け散った。だめか!
「あ! た、助けてくれ! 仲間が起きな......うわぁ!」
その鎖によって俺の存在に気がついたのか、声が聞こえた。まずい、このままだと、やられる!
「イズミー!」
後ろから、走ってきているクランが叫ぶ。俺の鎖ではミニゴーレムはどうにもならない。だが、こいつの破壊力ならば――!
俺は、もう一度『魔鎖』を唱える。今度は、ミニゴーレムに向かってではなく、クランに向かって。クランがその鎖を取り少し引いたのがわかる。それに合わせて全力で引っ張る。
鎖の勢いに乗ってクランが加速、すぐに俺の元まで引き寄せられる。しかし、勢いは止めない、クランもそれを承知しているのか、鎖を持たない方の手で、槌を構えている。
「いけ!」
クランは鎖から手を放し、目の前のミニゴーレムに全力で振り下ろす。槌が作った衝撃は、ミニゴーレムの体に一切無駄なく伝わり、その体を砕く。ミニゴーレムたちは、クランを脅威とみなしたのか、クランの方を向く。
クランは、勢いを利用した反動で、動けない。だが、俺がいる。
ミニゴーレムの一撃がクランに向かう。ミニゴーレムの大ぶりな一撃を盾でガードする。重いが、止められる。はじき返すのは難しい。だから盾を利用して、下に拳を流す。ミニゴーレムにとって無理な動きだったのか、そのまま倒れて行動停止となる。
「そっちだ」
「うむ」
同じようなやり方で、声が聞こえた方角のミニゴーレムを対処し、道を作る。そこにいたのは、四人組のパーティだった。しかし、四人中二人は気絶しているようだ。他の二人が抱えて逃げていたんだろうか。
とにかく、今は彼らを助けるためにこいつらを倒す。さっき行動不能になった奴を除けば、三体。しかし、クランの一撃であれば大体砕ける。それに遅い。一人でやっていれば対処に遅れていただろうが、二人がかりならば、何体来ても構わない。
しかし、後ろに負傷者がいる以上、悠長にはしていられない。その上、気絶していない二人も足に矢を受けていた。それで移動できなくなって追い詰められたか。
「貴様ら、ヒーラーはいないんか!?」
「あ、ああ」
「ポーションは!?」
「も、もうない。だから今こんな状況なんだろぉ!」
なるほど、この窮地はそれが原因か。最低限ヒーラーがいれば、足を直して、このミニゴーレムたちを振り切ることも可能だったはずだ。
「クラン、俺がヘイトを買う!」
クランはその言葉にうなづく。
『陽なる波動よ、この者を癒せ』
『治癒』
冒険者に刺さった矢じりを抜いて、回復を施す。
「づっ」
痛みで冒険者はうめくが、クランは一切躊躇なく治療を施していく。普段目立つことはないが、治癒魔術師としての腕はハイカさんに褒められるほどだ。問題はないだろう。
とにかく、治療が終わるまで俺はヘイトを引き受け続ける。しかし、ミニゴーレムはどこからか湧き出てきたようで、いつの間にか増えている。
俺に決定力がない以上、無力化できる量にも限度がある。が、あいつの治療が終わるまでは通さない。
「もう動けるな!?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、『治癒』で治すと大体足が、あれ?」
どうやら、クランの治療が終わったらしい。
「違和感はないはずじゃ! だからとっとと仲間を抱えぃ!」
「あ、わ、わかった!」
クランの怒号に急かされて、仲間を抱えていく冒険者たち。
「クラン、もう動けるか!」
「大丈夫じゃ!」
クランも戦闘に加わる。こうなれば大丈夫だろう。
俺たちは道を切り開きながら、冒険者たちを援護していく。だが、
「道がわからん!」
クランの言う通り、道が分からない。今までアメイに頼っていた反動がここで響く。逃げるのはいいが、どこ逃げればいいのかが分からない。どうする。どうする。
「――てめーら! こっちだ」
どうやら、その心配は杞憂らしい。俺たちはその言葉についていく。
「――はぁはぁ、助かったのじゃ」
俺たちは、ダンジョンにいくつかあるというセーフティルームに来ていた。足が遅いクランは、俺たちについていくのに必死で、息を整える暇がなかったらしい。
「助かったのじゃ、じゃねえよ! 俺の指示無視しやがって! 人助けをするのは立派だが、それでてめぇらが死んだらどうする!」
確かに、あのまま迷っていたら、俺たちはどうなっていたかわからない。アメイの説教はもっともだろう。確かに、それで死んでしまえば意味がないかもしれない。しかし、それでも俺は、きっと行く。
「……それでも、わしは助けにいく。誰かが傷で進めぬなら、死んでしまうというのなら、それを癒すのがわしの役割じゃ。それは変えぬ。じゃが、今回の件はすまなんだ」
「そうだな、少なくとも、アメイの意見を聞いてから行くべきだった」
俺たちは、アメイに謝罪する。正論なのは間違いない。
「......はぁ、こういう人種には何言っても無駄だな。だが、ダンジョン内ではせめて俺の意見を聞け! いいな!」
「......うむ!」
アメイには、もう頭が上がらないかもしれないな。説教を受け終えたクランは、冒険者たちの方を向き直る。どうやら、説教をする側に回るらしい。
「お主ら、どうして、あんな状況に陥った」
「......ポーションを持ってたサポーターが、この様だからだよ。ミニゴーレムの不意打ちを受けてな。ポーションが入ったカバンがぶっ壊れた」
そして、持っていた分のポーションも使い果たして、ミニゴーレムたちに追い付かれてこうなった、か。
俺は気絶しているクイックサポーターの方を見る。装備は明らかに、他の冒険者よりも簡素で、確かにバックパックには穴が空いている。しかし、サイズだけを見てみると、かなりの重量があったのではないだろうか。
「......そんなもの、言い訳にすらならぬわ!」
クランの怒号が響く。
「命綱を一人にだけ背負わせるでないわ! サポーターが倒れたから? それだけで崩壊するパーティに問題があろう! 治癒師が回復の役割を背負い、支援者が道中の案内をする。そうやって負担を分担せねばならない。戦闘の基本は、戦うことではない、補給路の方にこそある」
説教をされている冒険者は、苦虫を噛み潰したような顔でうつむいている。実際ピンチに陥った以上、何も言えないのだろう。
「それに、治癒師がいなければ適切な治療はできぬ。戦闘の時に回復の仕方が疎かで違和感が出たらどうするつもりじゃ! ――治癒師の使命は、お主らの傷をなくすことであり、命を保証することじゃ。それなしで冒険に出るなど、言語道断じゃ」
クランの言葉には、どうしようもない重みがある。それはきっと、クランにとっての覚悟でもあるんだろう。
――もう一人の彼女もヒーラーという立場に固執するのでしょう?
あの日、マゼランに言われた”どうして”の一つを思い出す。クランはヒーラーという職業に固執し、プライドを持っている。確かに、俺は知らない。どうして、クランがヒーラーにこだわるかを。
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