ダンジョン攻略
どうも、作者です。十七話です。
澄んだ空気の中、俺の心持ちのせいか、それとも今日は何か違うのか、空の色はいちだんと濃いように見える。その空に、まだ落ち切らない赤い月が、孤独に空に浮かんでいる。何が起こるかわからない未来、女神さまにも力を借りようか。そう少しだけ祈ってみる。
ダンジョン攻略。冒険に出るのだと朝になってようやっと自覚する。中々にワクワクする。いつだって未知への挑戦は、未知の解明は何物にも代えがたい経験だと、姉はよく言っていたな。実際、そんな姉に振り回されて、俺もそんな経験をしてきた。だからこそ、今もこうやって心躍れるのだろう。
「イズミ、準備できたか?」
最後に着ている装備品を確認する。籠手、具足、鎧、そして、この世界に唯一持ってきた実家の鍵、それがしっかり腰に落ちないようにつけているのを確認する。問題なし。
「ああ、行くか」
クランがうなずく。その面持ちは、緊張など感じさせず、楽しそうだ。
「気は抜くなよ」
「うむ!」
「――いってらっしゃい! お二人とも! あとアメイも!」
「俺はついでか」
俺たちはアメイとギルドで合流して、ダンジョン突入許可の手続きを済ませてあとはダンジョンに入るだけ。
「ええ、ええ、行ってらっしゃいませ! 初のダンジョン攻略、わたくしのアイテムぜひ有効活用してくださいね! そして、またのごこ――」
「ええい、やかましい! 帰ってきたからにせい!」
実際、大量にマゼランから押し売りされたから、その分の費用も回収しなきゃな。
「三人とも、どうかご無事に」
「はい、行ってきます」
ハイカさんから言葉をもらい、俺たちは歩を進める。さぁダンジョン攻略開始だ。
「ここがダンジョンか」
一見すると、ただの洞窟である。木々の間に唐突にあるという違和感を除いては。
「ま、見た目はただの洞窟だな。ただ中がおかしい。入ってみればわかる」
「では、入るぞ!」
クランが勇み足で中に入ろうとする。しかし、すぐにアメイに止められる。
「バカかてめぇ! 何のための俺だよ!」
ここに来る前にアメイが言っていたダンジョンの基礎。それは、必ずクイックサポーターが先導することである。それほどまでに、ダンジョンという土地は、トラップが多いのだとか。
「つーことで、お前絶対俺より前出るなよ! 戦闘以外!」
不機嫌そうな顔をしているが、正論である。だがクランはすぐ前に出ようとするからいつも通り俺が監視するしかないだろう。
ダンジョンに入る、そこはどこまでも空気が重苦しい。それは、簡単に言い表せる感覚ではなかった。一種のプレッシャー、まるで歩いているだけで方向感覚を失いそうな、そんな雰囲気。
俺はダンジョンに飲み込まれないように知識を反芻する。洞窟型ダンジョンの特徴は、広い空間と狭い通路で構成されている。つまり、俺がよく想像するダンジョンそのものだ。所謂アリの巣みたいな感じだろう。
俺たちが入って広がっていた通路は思っていたよりは広い。人が三、四人ぐらいなら横並びになれるぐらいの広さ。
「言っとくが、これでも狭い。多分お前らが想像している数倍は戦いにくいからな、つーことで……あ? まぁいい、お出ましだ!」
そういうと、遠くからちょうど点のような敵がこちらに向かってくる。
「敵は、インプが二十四、スケルトン三!」
この距離で正直まだ姿すらぼんやりしているというのに、アメイはしっかり数を伝えてくる。にしても、最初から多い。
しかし、段々と近づいてくるにつれて、輪郭がはっきりしてくる。視界一杯の影の大群がこちらに近づく......!
「お前ら、敵が来るまで、俺が踏んだところ以上に踏み込むなよ、じゃ、頼んだ!」
「調子のいい奴じゃ!」
アメイは一瞬で後ろに回る。クイックサポーターは基本戦闘をしない。もちろん補助程度にはするし、今回はある程度戦力として数えるにしても、それでも戦闘は俺たちの仕事だ。
「クラン、作戦通り!」
「うむ!」
俺は最初に突撃してきたスケルトンを盾で飛ばす。スケルトンのヘイトを受け持つ。それにしても、骨だけというのは近くで見ると中々に不気味だ。
『縛れ』
『魔鎖』
もう一体のスケルトンに鎖を回して横に振る。流石に骨なだけある。軽い。
三体目のスケルトンに振ったスケルトンを当てる。俺の攻撃力ではほとんどダメージにならないが、それでも十分。三体ともこっちを向いた。とはいえ、三対一、時間稼ぎをする必要がある。俺は、事前情報を思い出す。
ダンジョン攻略前日。ギルドでのこと。
「――あのダンジョンにいる魔獣は三種、スケルトン、インプ、ミニゴーレムの三種です」
俺たちは、ハイカさんのダンジョン攻略情報を聞いていた。
「ふむ、そこまでわかっているんじゃな」
「ええ、あのダンジョンは出現してから十年、初心者用のダンジョンとして攻略されていませんから」
どうして攻略をしないんだろうか。ダンジョンというのは、様々なイレギュラーを引き起こすと聞いている。場合によって、通常ではダンジョンから出ない魔獣がダンジョン外にあふれ出すダンジョン暴走という現象も起きると聞いている。
「確かに、ほとんどのダンジョンは攻略されますが、ダンジョンは攻略されない限り、修復機能が働きます。地形が復元されたり、倒して数が減った魔獣が復活したり、などですね」
なるほど、ダンジョンは一種の生物のような機能が働くのか。
「逆を言えば、ダンジョンが攻略されてしまえば」
「はい、それらすべての機能が停止します。その後、時間をかけて元の状態に戻る、といった具合です。これには、いかなる場合も例外はありません」
つまり、ダンジョンは攻略さえすれば、何もなくなるということか。
「そして、このダンジョンの修復機能には、ダンジョンから採れる資源や、宝箱の中身なども復元される、ということです」
「あ~、なるほどのう。ダンジョンが儲かる理由はそこか」
俺もそこで理解する。ダンジョンが攻略されない場合がある理由が。攻略さえされなければ、半永久的に使える鉱山、というより火山みたいなものだろ。いつ噴火するかわからないが、しかし無限に資源が採れる場所、ということだ。
「さて、話を戻しますが、スケルトンは、名前の通り肉を持たない骨のみのゴースト系の魔獣ですね。一体では大したことはありませんが、連携が上手い。実際一体ではFランク、一番下ですが、これが三体になればEランクまで上がります」
連携が上手い、というのはそれだけで厄介だ。パーティを組む人が一番それを証明している。
「だからこそ、攻撃面はともかく、防御が弱いクランさんからすると天敵ですね」
確かに、ある程度槌を使ったガードや、避ける選択肢ができるが、連携されるとそれも難しい。
「ダンジョンって環境じゃ、熟達した回避盾以外は避ける選択肢が取りにくいからな、特に狭い通路は」
そこまで、静観していたアメイが補足してくれる。確かにクランが一番気を付けるべきはスケルトンか。
「そして、インプですが……まぁ弱いです。Fの中でも最も下といってもいいですね。ただし、ひたすらに数が多い」
――俺がスケルトンを抑えている間、クランがとった行動は、
『燃やせ』
『火炎』
燃やす、以上だ。インプはよく羽虫に例えられるらしい。確かに、体格は赤ちゃんぐらいの体躯に、小さな羽が生えているので、大きめの羽虫のようだが。
羽虫のごとく数が多いが、一体一体は大したことがない。俺の攻撃力ですら、大体一撃で葬れるくらいだ。だが、数が多いのでとにかく倒すので時間がかかる。だからこその、炎攻撃。一体を狙っても、数体を巻き込めるので効率がいいらしい。
とにかく、クランがすべて燃やすまでこっちで対処する。炎につられて、クランの方に誘導されそうになるスケルトンたちに対し体力にならない攻撃を当てて気を引く。
しかし、盾を横に振ろうとして、つっかかる。俺は、それに気を取られて、一発もらう。
なるほど、戦って実感する。狭いというのは、やりにくいのだと、今まで味方だけに注意すればよかった振りの攻撃が、壁や天井に阻まれる。特に、天井はせいぜい二、三メートル、跳んでも頭が当たりそうなぐらいだ。
それをこの骨たちは理解しているのか、動きそのものは大したことがなくても、動きに迷いがなくそしてスムーズ。俺のように武器がつっかかったりもしない。
そして、三体の連携、確かに見事だ。俺が一体の攻撃に気を取られているうちに、もう一体が死角に回って攻撃する。だが、あまり関係ない。連携をすれど、威力は大したことがなく軽傷にもなりえない。
「あの時、クランには天敵だつったが、逆にこいつには関係ないよなぁ、だって連携してもダメージ受けねぇし」
俺は、フォローできるように、後ろから泉とクランを眺めていたが、全くもって問題なさそうである。何だったら、ダンジョン一層にしては数が多いと警戒したくらいなんだが。
「こりゃ、女神さまに祈る必要はなかったかもな」
普通、初のダンジョンというのは、環境もあるし、その環境に慣れた魔獣に苦戦するものが、前情報アリとはいえ、一切苦戦していない。
何だったら泉に至っては、クランができるだけダメージを受けないように『魔鎖』を使って、フォローしている。改めて実感する。
この盾持ちと回復術師は、確実にあっち側だと。
――だが、こいつらが有能すぎたのは、一つ致命的だった。はっきり言おう、順調すぎたんだ、だから、”異常”に気づくのが遅れちまった。
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