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三月羅針譚~盾持ちと吸血鬼~  作者: FOXtale
一章 始まりの■■
16/17

ダンジョン前哨戦

どうも、作者です。十六話です。

「トレント二体! エスセンティクト一体!」


その言葉と同時に盾を構える。ダンジョン挑戦まで残り二日、今日は最終調整、また初の三人での戦いだ。


できるだけダンジョンの環境に合わせるため、今日は夜戦だ。とはいえ、あの時の軽いものと違って、今日はこれで、七戦目。


『照らせ』

照光(ライト)


後ろから光が照らされる。夜という見えにくい環境で、一気に視界が開ける。俺は、カブトムシの位置を把握し、位置につく。トレント二体は、クランに任せていい。


空からの突進、それを受け止める。魔獣は角の耐久が持たないと踏んだか、飛び退く。だが、油断せずに二撃目にそなえる。それと同時に、クランの方を確認する。クランはもうトレント一体を粉砕しており、二体目に向かっている。


そこを隙と見たエスセンティクトは、迷いなくクランの方に向かおうとする。させん。


『縛れ』

魔鎖(チェーン)


体ではなく、足の一節を狙って魔鎖を飛ばす。正直、こいつの力に慣れるのは苦労した。この虫と相対するのは今日の分含めて、五回。力がすごいせいか、俺の魔力がまだ低いせいかわからんが体を縛ってもすぐ引きちぎられる。


だが、足一本ではさほど力が出ないと気づいてからは、足止めも楽になった。実際、目の前のエスセンティクトは、鎖からうまく抜け出せずもがいている。俺も、クランの方に行かせないように鎖を引っ張る。


「流石にそいつくらいは対処しねぇとな!」


夜闇に紛れて近づいてきていたアメイさんがエスセンティクトの目にナイフで一刺し。そのまま、ナイフを突き上げて中から刺し貫く。虫の小さな悲鳴が響く。


「イズミ!」


こっちの対処に気がついたのか、クランは声を出す。その声に合わせてクランの所まで走る。もう一度、『魔鎖』を発動、トレントの蔓に巻き付け、もう一方の蔓を盾に当てさせ、ひるんだところをつかむ。しかし、三本目の蔓が、クランに向かう。


トレントの蔓は通常二本だけ、それより多いということはつまり、通常個体より強い、俺を呼んだのはそういう理由か。なら、仕事は果たさんとな。掴んだ蔓に、鎖を巻き付け、盾を重し代わりに置く。そのまま疾駆、クランに到達しそうな蔓を、籠手でガード。


「やれ」


「うむ」


クランの一撃。しかし、一度ではやられない。流石に強化個体か。


『燃やせ』

火炎(ファイア)


クランが放った炎が樹木の体を燃やす。火炎に包まれ、トレントは悲鳴を上げることなく――朽ちた。


「ふう、終わった」


七度目の戦闘終了。俺たちは一息つく。しかし、


「残念、次きちゃったぜ」


クランは面倒くさそうな顔をしながら、槌を構えた。



「――ふぅ、やっと終わったのじゃ……」


俺たちは、昼の間に作っていた簡易テントに戻って焚火を囲っている。ダンジョンは連日になることも多いので、こうして野宿に慣れておくためらしい。


「おう、お疲れさん、お二方。ほれ」


アメイさんから、水を渡される。結局、今日は十二度も戦闘をする羽目になった。レベル的には全体的に格下になったとはいえ、流石に連戦はきついな。


「じゃが、サポーター一人いるだけで変わるもんじゃのう」


実際、今までの戦いより楽になった。対処できていたとはいえ、今まで唐突に出てきた相手の攻撃をもろに食らっていたものであるが、今日は一度もそれがなかった。やはり、索敵のプロがいると違うな。


「いや、俺からすればお前たちの方が異次元だわ。普通、あそこまで対処できねぇ。それに、どっかで音を上げると思ってたこの連戦耐えきりやがった。つーか俺もきつかった」


クランは自慢げにしている。二人パーティというのは異質らしいし、外から見るとそう感じるのか。


「ま、わしらじゃからな。じゃが、やはり装備を新調したのも大きいかのう」


今日は、初の三人戦であると同時に、装備の試すためでもあったが、正直今は必要なかったと思うほどぴったりだった。マゼランは体を触っただけで俺たちの装備を完璧に整えてしまった。


「本当にあやつ何者なんじゃ?」


「マゼランちゃんはなぁ、うん、正直よくわからん。可愛いんだけど、近寄りがたいんだよな」


それがアメイさんのマゼランの評価だった。というより、大体誰に聞いてもこんな反応である。よくわからない、それがほぼ共通認識だった。


「アメイさんも、知り合いなんですね」


「まぁな。あ~」


アメイさんは、むずがゆそうに顔をしかめ目をそらしてくる。どうしたんだろうか。


「そのアメイさんっていうのやめてくれ、冒険者でそんな丁寧口調使うような奴、いねぇからよ。特にクイックサポーターに対してはな。もっと砕けていい」


そう言われても、年上の人に対して、丁寧口調を崩すということはあまりなかった。いや、ここに来てから何人か、普通に話してるな。クランとか、マゼランとか。いや、こいつらは、あんまり年上感がないんだよな。


「わかりました……わかった、じゃあ、これからはアメイって呼ぶ」


「おう、それでいい。短い間でも、それぐらいの距離感の方がやりやすいんでな」


なんだか照れくさいな。姉はいたことがあるが、兄はいたことがない。何となく新鮮だ。


そこまで話して、他にも何かありそうな視線が気になる。


「他にも何かあるん……あるのか?」


俺の言葉で初めて自分の状態に気づいたのか、虚を突かれた顔をするが、すぐにいつものお茶らけた表情に戻る。


「いや……まぁそうだな、今は何もねぇ」


その言葉は気になったが、この分だと話してもらえなさそうだ。また今度もう少し、距離感が分かったころに聞いてみよう。


「それにしても、この分だとダンジョンも大変そうじゃのう」


クランがそう切り出す。実際今日は、ダンジョンに慣れるための前哨戦ということで来たわけだが確かに大変だった。ここに来る前に、アメイさん、アメイにダンジョンというのは、連戦になりやすいと聞いた。だからこそ、先に慣れておいた方がいいということで、今日は来たわけだが。


「おう、本当のダンジョンはもっときつい……と言いたいところだが、流石にやっぱし最近はおかしいな。どこもかしこも魔獣どもが騒がしい」


「そうなのか?」


クランはあまりピンと来ていないようだ。しかし、魔獣が騒がしいという話は、ハイカさんも言っていた。ただ、俺たちが来てからずっとそうだから分からないだけである。


「ああ、ここまで活発なのは、俺がこのダンジョン街に居座ってからはないな。つっても、魔獣が活発になる時期って言うのはまぁ、ねぇことはねぇがな。ダンジョンの方も何かあってもおかしくねぇ状況だな、やっぱやめません?」


流石にそれはNOである。俺たちは視線でそれはないと伝える。


「だよなぁ、それにダンジョンなんて元々イレギュラーの塊だ。先輩として忠告だ。ダンジョンで気だけは抜くな。あそこに容赦はない」


その言葉には、真剣みがあった。俺たちは、より一層気を引き締める。アメイは、戦闘能力はないと言っていたが、それでもレベルは俺たちよりずいぶんと高い。そして何より、経験がある。それがいかに心強いことか。


「いやはや、親睦を深められているようでよろしいですねぇ」


――俺たちが囲んでいる焚火に、いつの間にかマゼランがいた。それにもう一人後ろからやってくる。


「私もうれしいよ!」


俺たちは、突然の訪問客に、思考を停止する。どうしてここに、マゼランとアイカがいる!?


「「「なんで!?」」」


「もちろん、訪問販売です!」


「私は三人を応援しに来ました!」


だからと言って、魔獣出現地帯に来るか普通。


「てめーら、危ないんだから帰れ!」


「いやはや、皆さんがここらの魔獣を蹴散らしてくれたおかげでとても楽でした♪ 安心してください、わたくし、これでも移動の心得があるので、アイカ様を危険にさらすマネはしておりませんよ」


そういう問題ではない。だがしかし、そう言えばダンジョンの中ですら商売をすると言っていたな。だからってこんなところまで来るか普通。


「本当になんなんじゃ貴様ぁ! それはそれとして酒はあるか?」


すっ、と無言で酒を取り出すマゼラン。無言で金を差し出すクラン。そして、がっちり手を握り合う二人。何なんだこの光景。


「アメイ、この分ならちゃんと二人に教えてたみたいだね。心配して損しちゃった!」


酒好きはアメイもそうであるはずだが、どうやらアイカに捕まっているらしい。というか、ハイカさんと知り合いの時点で察していたが、やはりアイカとも知り合いだったのか。


「うるせー! お子様は帰れ、また姉貴に面倒かけてぇのか!」


「お子様ってバカにして! でも大丈夫だよ、クランさんと泉さんもいるもん!」


「だからって気軽に来るな!」


何というか、二人は昔からの知り合いなのか、すごい気安さがあるな。はぁ、さっきまでの真面目ムードはどこへやら、一瞬にして和やかな雰囲気に変わってしまった。


だが、ダンジョン攻略は目の前、気を引き締めていかなければ。

読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。

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