収穫祭・本・迷子
どうも、作者です。11話です。
街は喧噪で包まれ、誰もかれも明日を気にせず笑う。次はどこに行こう、何を食べよう。そんな声ばかり耳に入ってくる。今日は収穫祭。一年に三度あるらしい、祭りの一日だった。
「クランさん! 次はこっちです!」
「そう焦るでないわ」
クランはアイカに引っ張られて、店巡りをしている。何かを買っては次の店に行っている。正直、財布が持つか心配になってきた。クランもクランで、金の心配を一切してないから怖い。あいつ、浪費癖を理解してないきらいがあるからなぁ。
「お姉ちゃんたちも早く!」
俺とハイカさんは後ろからついていく。幸い、俺はでかいから、はぐれることはない。
「すみません、妹がはしゃいでしまって」
ハイカさんも、軽い足取りで人混みを避けながら歩いている。俺に話しかけている時ですら、周りの動きを予測してさらっと歩いている。歩幅は俺より狭いはずなのに、常に俺の前を歩かれている。どうやってこの人混みを捌いているんだ、この人。
「大丈夫だ。 それにしても、すごい賑やかだな」
「”収穫祭”は一年のお祭りの中でも、特ににぎやかですね」
収穫祭、名前からして豊作を願う、もしくは豊作を喜ぶ祭りだろう。どこの世界でも豊かなら、人ははしゃぐものなんだろうな。
「ま、冒険者の大半には関係ないですね。 ただはしゃぎたいだけですよ」
ハイカさんの含みのある笑いに色々と察するものがある。まぁ、冒険者には関係ないよな……というか、ナチュラルに思考読まれてないか?
「イズミ、次はこれじゃ!」
クランは、食いきれなくなった食事の数々を俺に寄こしてくる。
「大丈夫ですか? お腹」
「ああ、だいひょうぶだ」
何せ、俺が食った分はこいつに奪われてるからな。朝から祭りに赴くにあたって、エナジードレイン全開である。つまるところ、俺のエネルギーはすべてこいつに吸われているため、いくら食っても大丈夫である。俺が異世界で手に入れたチートは、フードファイターで無双する能力だった。
まぁ、それはそれとして、本当ににぎやかだ。というか、
「こんなにこの街には商人がいたのか」
「いえ、今日に合わせて商人の方々が売りに来たんですね。 財布の紐が緩んだ冒険者ほど、やりやすい商売相手はいませんから」
なるほど、これはあれだな。数日後には、ここにいる人間の表情は二分していることだろう。冒険者は財布を見て苦しみ、商人はよだれを出しながら微笑んでいるという訳だ。
「と、いう訳で、あんまり使いすぎるなよ」
「はっはっは! 分かっておるわ。お、あっちに本屋が出店しているではないか! いくぞ」
聞いてないなこいつ。はぁ、こいつはクエスト受けるのが一番の節約術だな。まぁ幸い、多少は金に余裕があるからいいのだが。
「うおおおおお! これは『文化紀行記』の最新刊か!」
クランの目が輝きだす。
「おお嬢ちゃん! この本の良さがわかるのかい! いやぁ冒険者にこの本の良さがわかるやつがいるとはな!」
どうやら、本を売っている商人と仲が良くなっている。というより、本についていろいろ語り合っているらしい。
「何を言うか! わしはこの本の昔からの大ファンでのう! 特に、五百年代のドワーフ関連の話は良くてのう!」
「お~! 分かってるねぇ! じゃあ嬢ちゃんには特別に、これを売ってもいいぞ!」
まて、いやな予感がする。そのタイミングで、特別ということは確実に高い。
「最新刊の初版だ!」
「「「初版!?」」」
まさかの様子を見守っていた受付嬢姉妹すら反応する。
「そんなにすごいのか?」
「当たり前じゃあ! そもそも、現代の本は写本魔法によってかなり楽にはなったが、未だに精度が低くてのう。 そのため、特に人気のものは、精度を高めた状態で魔法を使うシステムが採用されている。 しかし、そのやり方は、かなり難しいうえ、コストがかかる。 そのため、初刷りといって写本サンプル本五冊、そして、販売用が三冊というかなり数が絞られる超絶貴重なものでのう! これが初版なわけじゃが、これと同時に、初版だと示すべく特別な刻印が……」
まずい、こいつ本ヲタクだ! 不用意に聞くんじゃなかった。こうなると話が長いし、こっちのことはお構いなしだ。というわけで、話半分で聞くことにした。
とにかく、要は三冊しか出回っていないうちの一冊、というのは何となくわかった。そんなものが目の前にあると思うと、驚くのもわかる。
「へぇ、私も初版は初めて見た! 確かに装飾とかも凝ってるかも!」
「そうですね、大体ギルドに保管される貸本は第三版などの廉価版ですから、余計に輝いて見えますね」
とはいえ、こんな貴重な本、よくここに持ってきたなと思う。基本、冒険者というのは、あまり字が読めない。それゆえ、本の類は買わない。というより買っても意味がない。そんな冒険者がメインの街に本を持ってきても……そう思って周囲を見回すと、周りは知っている顔が多い。そのほとんどは、ギルドで見た顔だ。
なるほど、ギルドの職員は逆に文字が読めるから、メインのターゲット層はそこか。それどころか、他のギルド職員も、初版本の話を聞きつけここにやってきたようだ。
「ち、ちなみにじゃが、本売り殿、値段の方は……」
「聖王国金貨三枚、ってところだな」
き、金貨三枚!? この異世界に来てから一週間、金貨など見たことがない。俺があの王にもらった額ですら、銀貨二枚。それでも、一人の人間が一か月過ごすのに申し分ない金額だった。銀貨ですら、それだ。金貨となれば、一体どれ程の価値なんだ? 確か金貨一枚が、銀貨十二枚分だったはずだ。つまり、それが三枚……一人の人間がこの世界で二年は生きるに不自由しない金額か!
「く、今の懐では買えぬ!!」
当たり前だ。いくら稼いでいるとはいえ、今の手持ちは精々二人で二か月分くらいだぞ。
「私たちの貯金を合わせてもぎりですね。 流石に厳しい……!」
他のギルド職員も流石にその値段はどうしようもないようで、次々と離れていく。
「まぁ、そう簡単には手を出せんよなぁ」
「くぅ、他の本も高い!」
結局、他の本も高くて手が出せなかった。諦めるしかない。
「感動したよ、嬢ちゃん。あんたがそんなにファンだなんて。この本は、嬢ちゃんのようなファンの手に届いてほしいものなんだ。 だから、また一年後、ここに来るよ、その時まで、俺の方で大切に保管するよ」
「ほ、本売り殿~!」
二人の間に奇妙な友情が流れていた。その姿を見て、アイカも涙を流して見ていた。ハイカさんもよかったですねという顔をしている。しまった、俺だけ何が起きてるかわからんまま過ぎてしまった。
「――それで、『文化紀行記』ってどんな本なんだ?」
俺たちは、今二人で歩いていた。アイカがはしゃぎすぎて、疲れたため、ハイカさん共々休憩中だからである。俺たちはあまり疲れていないため、二人だけで散策することになった。
「うむ、端的に言ってしまえば、その時代、とある場所の文化や歴史が事細かに書かれた本でのう。歴史資料としてもかなりのものなんじゃが、著者の考察や、趣深い文章がよくて…」
なるほど、名前通りの『文化を記したもの』なのか。それで、あれだけの人気を博しているというのは、ちょっと気になってきた。
「おーい、そこのあんちゃん! ちょっと手伝ってくれ!」
「うん? 俺か?」
立ち止まると、荷車から落ちたであろう食品類が散乱していた。どうやら、これの片づけを手伝ってほしいらしい。クランに一言入れて手伝うか...…
「あいつ、どこいった?」
「――というわけで、とても素晴らしい本なわけじゃが、驚くことなかれ! 著者は何と……うん、あいつ……迷子か?」
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