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編集者、初めて魔法を使う

《砕石の迷坑》一階層・下り階段前


砕石の迷坑、一階層の奥。

下へと続く石階段の前で、フェンは足を止めた。


通路の奥からは、冷たい空気が流れてくる。

明らかに、今までとは違う。


「ねぇねぇ」


ルシアが、階段を指差して言った。


「二階層、行こ! なんかワクワクしない?」


「……待って」


フェンは一歩前に出て、首を振る。


「ここから先、多分敵が強くなる」


「えー、まだ行けるでしょ?」


「行けるかどうか、じゃなくて」


フェンは少し考えてから、続けた。


「一回、ステータスの振り分けをしたい」


「すて……?」


ルシアが首を傾げる。


「フェン、がなんか見えてるやつ?」


「うん」


フェンは頷き、少し言いづらそうに視線を逸らした。


「……僕さ。考えたんだけど」


「君のステータスが見えるってことは」


一瞬、間を置いて。


「……能力も、書き換えられるかもしれない」


「……え?」


ルシアの目が、ぱちっと見開かれる。


「ちょっと待って。それって……」


「成功するかは、分からない」


フェンは正直に言った。


「でも、確かめてみたい」


沈黙。


数秒後、ルシアは肩をすくめた。


「……まぁ、いいよ」


「どうせ強くなるなら、早い方がいいし」


「ありがとう」


フェンは小さく息を吐き、集中する。


――ステータス編集。


ルシアの数値が、頭の中に浮かび上がる。


(……やっぱり)


フェンは呟いた。


「君は、前に出て戦うタイプだ」


「力と防御、それに体力が高い」


「だから――」


指を動かすような感覚。


数値を書き換える。


HP:25 → 30

A:16 → 21

D:14 → 19


――♪


軽い音が、確かに鳴った。


「……よかった」


フェンは思わず口にする。


「成功した、みたいだ」


「え、ほんと?」


ルシアは目を瞬かせ、試すように剣を握った。


ぶん、と一振り。


「……なんか」


もう一度、振る。


「強くなった……ような?」


「多分ね」


フェンは笑った。


「実戦なら、もっと分かると思う」


「ふーん……」


ルシアは少しだけ、嬉しそうに剣を収める。


「じゃあ次はフェン?」


「うん」


フェンは自分のステータスを開く。


(僕は……)


「僕は、素早さ特化で行く」


そう呟き、迷いなく振り分ける。


S:25 → 35

A:15 → 20


身体が、すっと軽くなる。


「……うん」


フェンは拳を軽く握った。


「これで、行ってみよう」


ルシアが階段を見下ろし、にやっと笑う。


「じゃあさ」


「二階層、初陣ね」


二人は並んで、一段目へと足を踏み出した。



         ◆




《砕石の迷坑》二階層


階段を下りた瞬間、空気が変わった。


一階層よりも、さらに冷たい。

そして――視界が、やけにごちゃついている。


通路は細く、すぐに分かれ道になる。

左右、正面。

少し進めば、また分岐。


壁も天井も似たような形で、目印になりそうなものが少ない。


「……うわぁ」


ルシアが、思わず声を漏らした。


「ここ、分かれ道多すぎじゃない?」


「うん」


フェンは頷き、足を止める。


「二階層は、こういう構造が多い」


「迷路じゃん」


「迷坑、だからね」


フェンはそう言って、腰の袋から紙と鉛筆を取り出した。


しゃがみ込み、壁を見上げ、足元の砕石を確認する。


「なにしてるの?」


「マッピング」


「まっぴんぐ?」


「簡単に言うと、地図を描く」


フェンは壁の一部を指差した。


「ほら、ここ。壁が少し欠けてる」


「……あ、ほんとだ」


「こういうのを目印にする」


紙の上に、簡単な線を引く。


分岐。

通路の長さ。

特徴的な壁。


「フェン、ちょっと遅いよ?」


少し先へ進んだルシアが、振り返って言う。


「敵、来たらどうするの?」


「大丈夫」


フェンは顔を上げずに答えた。


「今は遅く見えるけど」


鉛筆が、止まる。


「この方が、何倍も早い」


「……?」


フェンは立ち上がり、ルシアを見る。


「ここが、初心者の鬼門なんだ」


「二階層で迷って」


「戻れなくなって」


「魔物に囲まれて――終わり」


淡々とした口調。


だからこそ、重みがあった。


「マッピングできるか、できないかで」


「命に関わる」


一瞬、沈黙。


ルシアは少しだけ目を丸くして――


「……ふーん」


とだけ言った。


――その時。


カサッ。


足元の砕石が、わずかに動いた。


「……来る」


フェンが、低く呟く。


次の瞬間、壁際の影から、灰色の塊が飛び出した。


「なにあれ!?」


「ストーンラットだ」


石のように硬い毛皮を持つ、大型のネズミ。


フェンは即座に、視界に数値を走らせる。


――鑑定。


HP:20

MP:5

A:14

D:20

MAT:6

MDF:8

S:15


(……硬くて、速い)


今の数値だと、正面からはきつい。


「ルシア、気をつけて!」


「任せて!」


ルシアが剣を振り上げ、踏み込む。


「わぁぁ!!」


だが――


剣は、空を切った。


「えっ!?」


ストーンラットは、ぴょんと横に跳び、簡単にかわす。


「なにこれ、速っ!」


そのまま、鋭い牙で飛びかかってくる。


ガキンッ、と音を立て、ルシアは剣で受け止めた。


「……っ!」


衝撃が腕に走る。


「硬いし、速い!」


フェンは歯を噛みしめる。


(魔法防御は……低め)


一瞬の判断。


(――いける)


「……追加」


フェンの中で、文字が組み上がる。


《アイスボール》

小規模氷属性魔法。


SP:10 → 0


「……よし」


フェンは叫んだ。


「ルシア、下がって!」


「えっ?」


「いいから!」


ルシアは反射的に後退する。


フェンは一歩前に出て、手のひらを突き出した。


「――アイスボール」


ひゅっ、と空気を切る音。


小さな氷の礫が、高速で飛び――


ストーンラットの胴体に直撃した。


「ギッ!?」


冷気が走り、動きが鈍る。


「今だ、ルシア!」


「うらぁぁ!!」


ルシアが一気に踏み込み、剣を振り抜く。


白鋼の刃が、確かに捉えた。


ぐしゃり。


ストーンラットは、そのまま崩れ落ちる。


二人は顔を見合わせ――


「「やったぁ!!」」


声を揃えて笑う。


「フェンあたしなんか強くなった気がした!ありがとう!」


ルシアが、屈託のない笑顔で言う。


その表情を見て、フェンは一瞬だけ言葉に詰まった。


「……そ、そう?」


視線を逸らし、頭の後ろを掻いた。




          ◆



この後も二人は、なんとか魔物を倒しながら進んだ。


無理はしない。

確実に勝てる相手だけを選び、

SPを集め、経験を積む。


フェンは地図を書き続け、

ルシアは戦い続けた。


そうして――


気がつけば。



《砕石の迷坑》十階層・大広間前


「……着いた」


フェンが、小さく呟く。


目の前には、巨大な扉。

一階層からは想像もできないほど、重々しい存在感。


「結構、早く着いたんじゃない?」


ルシアが、扉を見上げながら言った。


「それもこれも、フェンがマッピングしてくれたおかげかな」


「……えへへ」


フェンは、少し照れたように笑う。


「この奥のボスを倒したら」



「とりあえず、引き返そう」


「うん」


ルシアは短く頷く。


二人は並んで、扉を見つめる。


砕石の迷坑、十階層。


――その先に何がいるのか。

それは、まだ分からない。



           続く

本日も2話連続投稿です。

9話は22時に投稿するので、お楽しみください

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