編集者、街に名が広まる
蒼骸の奈落――第10階層。
巨大な円形のボス部屋。
天井は高く、青黒い結晶が鈍く光っている。
その中央に立つのは、漆黒の巨体。
双角を持つ巨大な馬の魔物。
床を踏み鳴らすたび、衝撃が走る。
「こ……こんな化け物、戦えるわけがない……!」
Aランクパーティのリーダーが、声を震わせた。
角が赤く灯る。
熱を帯びた息が、白く揺らぐ。
グラウスが一歩前に出る。
「……騒ぐな」
低い声。
視線だけを向ける。
「鑑定」
視界に情報が浮かぶ。
――《獄角馬グレイブホーン》
Aランク魔物
HP 25000
MP 8000
A 15000
D 10000
MAT 9000
MDF 8000
S 20000
リーダーが息を呑む。
「Sが……二万……」
グラウスは鼻で笑った。
「雑魚が」
ぼそり、と吐き捨てる。
「お前ら触るな。俺が一人でやる」
「グ……グラウス様?」
振り向きもせず、続ける。
「邪魔だ。お前らがいると手加減しなきゃならねぇ」
その瞬間。
獄角馬が地面を砕き、閃光のような速度で突進。
双角が一直線にグラウスを狙う。
轟音。
――暗転。
肉を裂く音。
衝撃。
崩れる音。
そして。
静寂。
視界が戻る。
血を流し、横たわる巨大な馬の魔物。
首元には深い斬撃。
角は折れ、瞳は虚ろ。
その前に立つのは――無傷のグラウス。
剣を軽く振り、血を払う。
「はっ」
口元が歪む。
「俺様に勝てるわけがないだろ」
リーダーたちは、ただ立ち尽くす。
声も出ない。
グラウスが視線を向ける。
冷たい。
「おい、雑魚」
全員がびくりと震える。
「俺の荷物だけ持ってろ。お前らの役目はそれだけだ」
「……は……はい」
リーダーがかすれ声で答える。
仲間たちの顔は青ざめている。
グラウスは背を向けた。
「こんな白けたダンジョン、さっさとクリアするぞ」
黒い外套が揺れていた。
リンドベルク――中央通り。
石畳を歩くたび、視線が集まる。
「……あれが」
「巨大な蛇の魔物を倒したって……」
「まだ若いのに……」
ひそひそ声。
フェンは少し困ったように笑う。
隣で。
ルシアが鼻を鳴らした。
「ふふん」
腕を組み、胸を張る。
「ねぇフェン。ここ、あたしたちの話で持ちきりみたいだね!」
フェンは苦笑する。
「……そうみたいだね」
朔夜が袖を引く。
「……フェン。今日はどうするの?」
フェンは視線を前に向けたまま答える。
「ギルドに行って、翠心樹海への許可を出してもらおうと思ってる」
一瞬、空気が引き締まる。
「早くリィナの薬を取りたい」
ルシアの表情がやわらぐ。
「……そうだね。一刻も早く、リィナちゃん治したいもんね」
その時。
「みんな!!」
振り向く。
ガルドが駆け寄ってくる。
「ガルド?」
「……もう翠心樹海に行くのか?」
フェンは頷く。
「うん。そのつもりだよ」
ガルドは一瞬、視線を落とす。
「……そうだよな。みんなは、それが目的でここに来たんだもんな」
沈黙。
それから。
顔を上げる。
真っ直ぐな目。
「フェン。ちょっと頼みがある」
フェンが首をかしげる。
「頼み?」
「俺、あるアイテムを取りにダンジョンに入りたいんだ」
拳を握る。
「フェンたちに……応援を頼みたい」
その瞳は、フェンをずっと捉えていた。
続く




