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厄介なお嬢様

《砕石の迷坑》入り口付近


石を砕いたような荒い壁が続く通路に、一歩足を踏み入れた瞬間――

空気が変わった。


湿気は少ないが、ひんやりと冷たい。

天井は低く、足元には無数の砕石が転がっている。


「わぁ……!」


弾んだ声が、通路に響いた。


「ダンジョンだ!!」


ルシアが目を輝かせ、先へ先へと進もうとする。


「ちょ、ちょっと待って」


フェンは慌てて声をかけた。


「ここ、迷坑だから。走らない方が――」


「いいじゃない!」


振り返りもせず、ルシアは言い切る。


「ダンジョンなんて、入ってみないと分からないでしょ?」


「……はぁ」


フェンは小さくため息をついた。


その時だった。


――がさり。


砕石の影から、緑色の影が二つ、ぬっと姿を現す。


「……ゴブリン?」


剣を握り、フェンは即座に身構えた。


二体。

数値は低い。

だが――。


(今の僕たちで、確実に倒せるか……?)


一瞬の迷い。


その隙を突くように、


「えりゃあああ!!」


ルシアが、剣を構えて突っ込んだ。


「ルシア!? 待って!」


フェンの制止は、半拍遅れる。


ゴブリンが吠え、粗末な武器を振り上げる。


だが――


ルシアの身体は、するりと軌道を外れた。


攻撃を紙一重で避け、そのまま踏み込む。


白鋼の刃が、滑るように首元をなぞった。


ぐしゃり。


鈍い音を立て、ゴブリンが崩れ落ちる。


「……え?」


フェンは思わず目を見開いた。


(避けた……?

 いや、それだけじゃない)


急所を、正確に。


――剣舞。


そのスキルが、動きに現れている。


「やった!!」


ルシアが振り返り、満面の笑みを向けた。


「ね? 大丈夫でしょ!」


その瞬間。


背後から、もう一体のゴブリンが跳びかかる。


「ルシア!!」


フェンは叫び、走り出した。


――速い。


自分でも驚くほど、身体が軽い。


距離が一気に詰まる。


振り抜いた剣が、ゴブリンの脇腹を裂いた。


だが――倒れない。


「くっ……!」


致命傷には、届かなかった。


ルシアが、じっとフェンを見る。


「……?」


「な、なんでもないわよ!」


そっぽを向くルシア。


その隙に、ゴブリンが立ち上がり、再び襲いかかる。


だが――


フェンの剣は、それよりも速かった。


一歩踏み込み、今度は確実に。


刃が、喉元を貫く。


ゴブリンは、声もなく崩れ落ちた。


静寂。


砕石の迷坑に、再び静けさが戻る。


フェンは剣を下ろし、息を整えた。


(……倒せた)


横を見ると、ルシアが少しだけ驚いた顔でこちらを見ていた。


「……フェン」


「なに?」


一瞬、ルシアは視線を泳がせた。


「……かっこよかった、かも……」


聞き取れるかどうかの小さな声。


フェンが首を傾げた、その瞬間――


「な、なんでもない!!」


顔を背け、ルシアは乱暴に言い放つ。


「ほら、先に進むわよ!」


ルシアが足を踏み出した、その瞬間。


――♪


フェンの頭の奥で、聞き覚えのある音が鳴った。


「……待って」


思わず、口から言葉が漏れる。


「はぁ? なによ急に」


怪訝そうに振り返るルシアを横目に、

フェンは無意識のまま、ステータスを開いていた。


――レベルが上がっている。


(……四)


視線が、攻撃力と素早さに止まる。


A:15(16)

S:20


「……上がってるな」


そして、SP。


SP:10


「……ゴブリン二体で、十……?」


一体五。

どうやら、それが基準らしい。


「ねぇ、なにぼーっとしてるの?」


ルシアが、いつの間にかすぐ後ろまで来ていた。


ぐいっと身を寄せ、フェンの肩越しに覗き込もうとする。


「なにをみてるのよ!」


「あ……」


フェンは一瞬だけ言葉に詰まり、それから誤魔化すように口を開いた。


「う、うん。ステータス……みたいな」


「……え?」


ルシアの動きが止まる。


「ちょっと待って。フェンって、鑑定士なの?」


「いや、違うよ」


フェンは首を振った。


「僕のスキルは《編集者》って言って……能力とか、ステータスを書き換えられるんだ」


一瞬の沈黙。


次の瞬間。


「なにそれ、すごっ!」


ルシアの目が、ぱっと輝いた。


「それ最強じゃない! だって、好きに強くなれるってことでしょ?」


「そ、そうかな……」


フェンは少し困ったように笑う。


「でも、今はまだ全然だよ。僕自身は弱いし」


「またまたぁ」


ルシアは疑うように目を細め――

ふと、何かに気づいたように表情を変えた。


「……ん?」


「ねぇ。それってさ」


じっとフェンを見つめる。


「ステータスが見えるってことは……」


「……あたしの、見た?」


フェンは、少しだけ目を逸らした。


「……うん」


そして、柔らかく笑って言う。


「ベルナール家って出た時は、正直びっくりしたよ」


――次の瞬間。


「バカ!!」


ゴンッ、と軽い音。


「変態!!」


「いって!?」


フェンは頭を押さえて後ずさる。


「な、なんだよ! 殴らなくてもいいじゃん!」


「人には隠したいことがあるのよ!」


ルシアは顔を赤くして叫ぶ。


「フェンのエッチ!」


「えっ……え??」


フェンは完全に混乱していた。


(……なにがどうして、そうなるんだ……?)


ルシアはぷいっと顔を背ける。


「……とにかく」


「この話は終わり! いい?」


そう言い放つと、何事もなかったように前を向いた。


「ほら、行くわよ。ダンジョンは待ってくれないんだから」


フェンは一瞬だけ呆然と立ち尽くし、


「……はい」


小さくそう返事をしてから、再び歩き出した。

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