編集者、黒核を持ち帰る
フォルナ草原。
風だけが、草を揺らしている。
巨大な紅晶蛇バシリスク・ルクスは、首を失ったまま横たわっていた。
誰も、すぐには動けない。
「……はぁ……はぁ……」
ルシアが膝に手をつき、肩で息をする。
ルークは弓を握ったまま、その場に座り込んだ。
ミリィは杖を地面に突き立て、震える足を支えている。
ガルドが、ゆっくりと紅晶蛇の亡骸を見る。
「……やったのか……?」
声が掠れている。
「俺たちが……あれを……?」
その時。
ドサッ。
振り向く。
フェンが、その場に倒れ込んでいた。
「フェン!」
ルシアが駆け寄る。
フェンは仰向けのまま、薄く笑った。
「……ちょっと……使いすぎた……」
呼吸が荒い。
魔力枯渇寸前。
朔夜の声が、内側から小さく響く。
――無茶しすぎ。
フェンは目を閉じる。
「……でも……勝った」
その瞬間。
全員の視界に、淡い光が浮かぶ。
【討伐完了】
【レベルが上がりました】
微かな魔力の循環。
身体の奥が、わずかに軽くなる。
だが――能力値の変動はない。
経験の蓄積だけが、確かに刻まれた。
その時。
紅晶蛇の巨体が、淡く光り始める。
「……?」
ガルドが目を細める。
鱗が崩れ、肉体が粒子となり、風に溶けていく。
やがて。
そこに残ったのは――
黒い球体。
拳ほどの大きさ。
禍々しい光を内包している。
「……なに、これ」
ルシアが拾い上げる。
ずしり、と重い。
脈打つような感触。
フェンが上半身を起こし、草の上に座る。
「……それ……証拠になるかもしれない」
視線を細める。
「持って帰ろう。ギルドに」
草原に、静かな風が吹いた。
⸻
リンドベルク。
冒険者ギルド。
扉が開く。
受付嬢が顔を上げ、目を丸くする。
「お帰りなさいませ。皆さん……ご無事で」
ガルドが苦笑する。
「なんとか……な」
フェンが一歩前へ出る。
「ギルドマスターを、呼んでいただけますか?」
受付嬢は表情を引き締めた。
「……分かりました」
⸻
応接室。
重厚な机を挟み、向かい合う。
ギルドマスターは静かに問う。
「何か分かったのかね?」
フェンが答える。
「あそこには、巨大な蛇型の魔物がいました」
一拍。
「僕たちは討伐しました。その時にこれが落ちてまして……」
ルシアが、黒い球体を机の上に置く。
コトリ。
部屋の空気が変わる。
ギルドマスターの視線が鋭くなる。
「……なるほど」
手に取り、目を細める。
「かなり禍々しい魔素が凝縮されていますな」
静かに呟く。
「これが体内にあったとなると……相当な強敵だったでしょう」
「本当やばかったよ!」
ガルドが思わず言う。
ギルドマスターはゆっくり頷いた。
「皆さん、よくやってくれました。街を代表して礼を言います」
フェンは静かに頷く。
「……これが何か、分かりますか?」
一瞬の沈黙。
ギルドマスターは首を振った。
「正体は分かりません」
視線を球体に落とす。
「ですが……これは人工物です」
全員の表情が固まる。
「噂があります」
低い声。
「どこかで――人工的に魔物を作り出している組織がいると」
応接室の空気が、重く沈む。
「……もしかすると」
ギルドマスターは静かに言った。
「その一端かもしれませんな」
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
沈黙。
ただ、机の上の黒い球体だけが、微かに脈打っている。
――新たな脅威の気配を宿して。
続く




