編集者、紅晶蛇を断つ
ルシアが、地を蹴った。
真正面。
巨大な紅晶蛇バシリスク・ルクスの懐へ、一直線に突っ込む。
「来い!」
紅晶蛇が牙を剥く。
頭部がわずかに沈む。
(――噛み付き、二秒後)
視界に未来の輪郭が浮かぶ。
ルシアは半歩ずらす。
直後、牙が空を裂いた。
轟音。
だがそこに、彼女はいない。
「剣舞」
くるりと回る。
尾をかすめ、顎をすり抜け、鱗の隙間へ滑り込む。
「戦舞閃連!」
一閃。
二閃。
三閃。
四閃。
連撃が黒鱗に叩き込まれる。
火花が散る。
だが――
硬い。
刃が深く入らない。
「……っ、やっぱり硬い!」
紅晶蛇が怒りに身をよじる。
その時。
「ルシア! ブレイクスラッシュを!」
朔夜の声。
ルシアが跳び退く。
「分かった!」
距離を取る。
剣を構え、魔力を集中。
空気が震える。
紅晶蛇がルシアへ突進――
その瞬間。
ヒュンッ!
「当たれ!」
ルークの矢が放たれる。
一直線。
紅晶蛇の片目へ――
突き刺さる。
「ギャァアアアッ!!」
悲鳴。
頭部が大きく振れる。
「今よ!」
ミリィが杖を掲げる。
「フレイム・バースト!」
中級炎魔法が炸裂。
紅い炎が蛇の顔面を包む。
視界を焼き、注意を奪う。
その前に――
バルトが前へ出る。
「デコイ!」
紅晶蛇の視線が、強制的にバルトへ固定される。
「こっち来いよ、トカゲ野郎!」
紅晶蛇が怒りに任せ、バルトへ突進。
巨大な尾が振り上がる。
「踏み潰す気か……!」
ビタァァン!!
大地が砕ける。
土煙。
だが――
そこにバルトたちはいない。
紅晶蛇が、わずかに動きを止める。
「……?」
数メートル先。
木陰。
転がるように現れるバルトとミリィ。
「……っ、助かった……!」
その背後。
少し離れた位置で、片膝をつくフェン。
額に汗。
手を前に突き出したまま。
「……影移動……成功……」
フェンが顔を上げる。
「ルシア!」
魔力が頂点に達する。
「ブレイクスラッシュ!!」
閃光。
剣が振り抜かれる。
狙いは――尾。
赤い結晶が集中する部位。
斬撃が叩き込まれる。
バキィッ!!
硬質音。
鱗が砕ける。
尾の一部が裂け、赤い結晶が露出する。
「ギィィイイイイッ!!」
悲鳴。
巨体がのたうつ。
フェンが息を整えながら、朔夜を見る。
「……朔夜。統合、できるか?」
朔夜は静かに言う。
「今やったら……かなり疲労溜まるよ」
フェンは小さく笑う。
「みんな、命張ってる」
視線を前へ向ける。
「僕だけ休んでるわけにはいかないよ」
朔夜が、少しだけ目を細める。
「……分かった」
静かに頷く。
その瞬間――
ガルドが前に出る。
「下がるなよ、化け物!!」
剣を振り抜く。
「――裂空斬!」
空気を裂く遠距離斬撃が飛ぶ。
紅晶蛇の顔面へ直撃。
鱗に弾かれるが、視線が向く。
「こっちだ!」
さらに距離を取りながら、再び斬撃。
ヘイトを引き剥がす。
横からルーク。
「目はもう一つあるだろ!」
矢が連続で放たれる。
紅晶蛇が頭を振る。
そこへ――
「ファイア・ランス!」
ミリィの炎槍が炸裂。
爆炎。
視界が乱れる。
紅晶蛇は完全に翻弄されていた。
その合間。
ルシアが滑り込む。
「剣舞」
未来予測。
噛み付きの軌道を紙一重で外し、
一閃。
二閃。
だが決定打にはならない。
時間を稼ぐ。
全員が、ただ一人のために。
その時。
空気が変わる。
フェンの周囲から、
青い魔力が溢れ出す。
静かに。
だが圧倒的に。
「……?」
紅晶蛇が動きを止める。
仲間たちも、一斉に振り向く。
フェンは目を閉じている。
呼吸が、整う。
次の瞬間。
瞼が開く。
蒼い光。
「――統合」
世界が、沈む。
「神速」
時間が引き延ばされる。
地を蹴る。
消える。
紅晶蛇の視界から。
「疾牙転化」
筋肉が爆ぜる。
限界を超えた加速。
「牙走」
一撃。
二撃。
三撃。
四。
五。
六。
七。
八。
九。
十。
連撃。
黒鱗が砕ける。
赤い結晶が露出する。
紅晶蛇が咆哮するが――
遅い。
フェンの魔力がさらに膨れ上がる。
「――疾牙転化、解放」
蒼光が刃に収束する。
一瞬、完全停止。
そして。
「はぁぁぁぁっ!!」
一閃。
斬撃が、首を通過する。
遅れて。
ズン……。
巨体が、ずれる。
次の瞬間。
首が、滑り落ちる。
紅晶蛇バシリスク・ルクスの身体が、
地を震わせ、崩れ落ちた。
続く




