編集者、交易の街へ
草原の一角。
倒れたグラズから少し離れた場所で、二つのパーティは簡易的に腰を下ろしていた。
風が通る。
まだ土煙の匂いが残っている。
ガルドは包帯を巻き直しながら、深く頭を下げた。
「……助かった。本当に」
声音は、さっきまでの威勢とは別物だった。
「俺たちはこの先の街――《リンドベルク》を拠点にしてるCランクパーティだ」
バルトが頷き、ルークが苦笑する。
「正直、あれは想定外だったけどな……」
ミリィはまだフェンとルシアをちらりと見ている。
フェンは軽く首を振った。
「気にしないで。たまたま近くにいただけだよ」
そして、視線を草原の奥へ向ける。
「僕たちはエルナの街から来た。目的は《翠心樹海》の攻略」
その名に、ルークが眉を上げる。
「翠心樹海って……あのダンジョンか?」
「それなら受注は、リンドベルク経由の方が通りやすいぞ」
ガルドが立ち上がる。
「ちょうど俺たちも戻る予定だったんだ。案内するよ」
フェンはルシアと朔夜に視線を送り、軽く頷いた。
「……それは助かるよ」
風が、再び吹き抜けた。
風に揺れる草原の向こうに、街影が見えてきた。
低い石壁と、木造の家々。
城塞というより、広く開かれた交易の拠点。
門前には荷馬車が列をなし、商人たちの声が飛び交っている。
「道を空けてくれ! 香辛料が傷む!」
「そっちの荷は倉庫三番だ!」
草原の匂いに混じって、干し肉や香草の匂いが漂う。
フェンは足を止め、街を見上げた。
「……エルナとは、ずいぶん雰囲気が違うな」
エルナは冒険者の街だった。
武器屋、鍛冶場、宿屋。
剣と鎧の音が日常に溶け込んでいる。
だが、ここは違う。
人の中心にいるのは商人だ。
帳簿を抱えた男。
荷を数える女。
値段を巡って声を荒げる二人。
その合間に、冒険者がいる。
「ここはリンドベルク。商人の街だ」
ガルドが肩越しに言う。
「冒険者は裏方さ。護衛と素材運びが主な仕事だ」
「なるほど」
フェンは小さく頷いた。
門を抜け、石畳の通りを進む。
左右には倉庫と商店が並び、人通りは絶えない。
やがて、一際目立つ建物が見えてきた。
二階建ての石造り。
木製の看板には、剣と盾の紋章。
冒険者ギルド。
「じゃあ、まずは報告だな」
ガルドが扉を押し開ける。
中はエルナほどではないが、十分な活気があった。
壁一面の依頼書。
掲示板の前で真剣に紙を読む冒険者。
酒を片手に武勇伝を語る男。
「俺ぁ昨日、こんなデケェ魔物をだな!」
豪快な笑い声。
ロビーでは受付嬢が次々と依頼を処理している。
フェンは周囲を見回しながら、静かに歩を進めた。
ガルドがカウンターへ向かう。
「ガルドさん! お疲れ様です」
受付嬢がにこやかに顔を上げる。
「クエストは無事クリアですか?」
ガルドは一瞬、言葉を濁した。
「あぁ……まぁな」
ルークが背負い袋を下ろす。
「結構いたぜ。《荒牙猪》」
どさり、と机に落とされる。
太く、荒々しい牙。
受付嬢の目が丸くなる。
「これは……討伐証明になりますね」
「草原の西側だ。群れてやがった」
ガルドが短く言う。
その横で、ミリィがそっと身を乗り出した。
「受付嬢さん……少し、相談があるんですが」
受付嬢は視線を移し、表情を引き締める。
「……分かりました。では応接室へご案内いたします」
そう言って受付嬢は立ち上がり、一行を奥の応接室へと静かに案内した。
続く




