編集者と強欲の鑑定士
エルナの隣町、セルトの豪邸。
重厚な扉の奥、深紅の絨毯が敷かれた応接間。
壁には高価な魔石ランプが並び、中央のソファに男がふんぞり返っていた。
鑑定士グラウス。
その足元に、側近が跪く。
「グラウス様。ヴァルドが……Aランクダンジョン失敗。さらにケルベロスをエルナへ呼び寄せた罪で、街を追放されました」
一瞬の沈黙。
そして――
「……ハッ」
鼻で笑う。
「雑魚が無理してAランクに挑むからそうなる」
グラスを揺らしながら、ゆっくりと言う。
「そんなに俺様の“鑑定”が欲しかったのか?」
高笑いが部屋に響く。
「才能のない連中は、俺様に寄生するしかないんだよ」
側近が続ける。
「本日、Aランクダンジョン《蒼骸の奈落》へ向かう冒険者との待ち合わせ時間が近づいております。出立なさいますか?」
グラウスは立ち上がる。
「あぁ……さっさと終わらせるか」
外套を翻し、歩きながら言い捨てる。
「金の割り振りは分かっているんだろうな?」
「はい。報酬の八割を、グラウス様へ」
「当然だ」
口元が歪む。
「俺様が行くんだ。それくらい払ってもらわなきゃ割に合わん」
青空の下、風が草を揺らしている。
その中心で、魔物の咆哮が響いた。
狼型の魔物が三体、フェンへ飛びかかる。
だが――
フェンは静かに右手をかざした。
「――影牙閃」
次の瞬間。
草原に落ちていた影が揺らぐ。
草の影。
魔物の影。
岩の影。
それらが地面から浮き上がり、刃の形へと収束する。
黒い影の刃が、空へと弾けた。
一直線に走った影の斬撃が、魔物の胴をまとめて切り裂く。
「……これ、結構便利だな」
フェンが剣を肩に担ぐ。
「物理の遠距離攻撃なかったから、正直助かる」
草原に静寂が戻る。
その瞬間、朔夜のステータスが更新される。
⸻
Lv 20
HP 105
MP 170
A 42
D 55
MAT 150
MDF 110
S 105
⸻
「……レベル、上がった」
朔夜が小さく呟く。
フェンは頷いた。
「順調だな」
横で、ルシアが腕を組む。
「フェン……だいぶ強くなったよね」
少し頬を膨らませる。
「あたしより攻撃力、上がっちゃってさぁ」
「え?」
フェンが苦笑する。
「ごめん。ダンジョン入ってたから、レベル結構上がっちゃったみたい」
ルシアは視線を逸らす。
「ふーん……」
フェンは一歩近づき、ルシアの頭をぽん、と撫でた。
「でも、ルシアにはこれからも攻撃の要として頼りにしてるよ」
ぴたり、と動きが止まる。
「……っ」
耳まで赤くなる。
「そ、そういうの急に言うのやめてよ……」
視線を泳がせながらも、どこか嬉しそうだ。
その様子を見ていた朔夜が、静かにフェンを見る。
「……フェン。この装備、ありがとう」
身につけているのは――
冒険者の服 D+30
冒険者の杖 MAT+20
フェンは少し困ったように笑う。
「ごめんね。街で売ってたの、これくらいしかなくて」
「……ううん」
フェンは続ける。
「ダンジョン入って、朔夜に合いそうな装備が手に入ったら、ちゃんとプレゼントするよ」
朔夜は少しだけ目を細めた。
表情は大きく変わらない。
でも――
「……ありがとう」
声は、ほんの少し柔らかかった。
フェンは視界を開く。
【SP:3500】
「……結構溜まってるな」
小さく呟く。
「スキルが《編集者》から朔夜に変わってから、SPの溜まりもかなり上がったな……」
支援対象が増えた影響か。
それとも、朔夜の特性か。
フェンは顎に手を当てる。
(まだ、補助がいない……)
視線を上げる。
「なぁ、朔夜――」
「私も、フェンと同じこと考えてた」
即答だった。
フェンが目を瞬く。
朔夜は淡々と言う。
「私は僧侶でいいよ。回復とバフは必要」
一瞬、先を読まれた感覚。
「あ……あぁ」
フェンは苦笑する。
「じゃあ、変更する」
意識を集中させる。
朔夜の職業が――【僧侶】へ。
⸻
HP −10%
MP +10%
A −10%
D −10%
MAT +20%
MDF +10%
S +5%
⸻
【SP:3500 → 2500】
フェンは続けてスキルを編集する。
「とりあえず、《ヒール》を渡す」
光が朔夜へと流れ込む。
「職業レベルが上がれば、自然に魔法は増えるはずだ。今はこれでいこう」
「……分かった」
朔夜は小さく頷く。
そして、ほんの少しだけ硬い表情で言う。
「ありがとう。私、フェンの役に立てるように頑張るね」
フェンは柔らかく笑う。
「よろしくな」
その光景を見ていたルシアが、頬を膨らませる。
「……あたしも頑張るから!」
張り合うような声。
フェンは笑いながら言う。
「お願いね」
宥めるように。
その瞬間――
ドガァァン!!
遠くで爆発音。
三人が同時に振り向く。
フェンが探索スキルを展開する。
視界に青い光が四つ。
そして――赤が一つ。
「……ルシア、朔夜。多分、冒険者が戦ってる」
短く息を吐く。
「助けに行こう」
二人は、こくりと頷いた。
――草原を駆け出す。
続く




