編集者、10秒の無双
フェンの身体に、青い光が収束する。
視界が、澄み切る。
フェンの周りに青いオーラが纏っていた。
「……」
黒騎士が大剣を構える。
その瞬間。
フェンの内側から、声が響く。
――本当に、フェンさんの中に入った……
朔夜の声。
――私には確信があった。
視界に、黒騎士の動きが“線”となって浮かぶ。
――あの騎士と戦った記憶がある。
――それが何なのかは、分からない……
――でも、何十回、何百回と戦った記憶がある。
黒騎士が地を踏み砕く。
一直線に迫る。
だが――
遅い。
フェンは、すっと身体を傾ける。
斬撃が空を裂く。
その刃を紙一重でかわす。
「神速」
視界がさらに研ぎ澄まされる。
踏み込む。
急所が赤く輝く。
胸。
喉。
鎧の継ぎ目。
スガガガガガッ!!
連撃。
一撃ではない。
何度も、何十回も。
黒鎧に亀裂が走る。
騎士がよろめき、後退する。
――この統合は、10秒間しか使えない……
朔夜の思考が重なる。
――だけど。
――私なら、10秒あれば充分。
フェンの身体が、さらに加速する。
「疾牙転化――解放」
爆発的な推進力。
黒騎士が影を揺らす。
だが、もう見える。
移動先。
急所の収束点。
「神速」
一瞬で背後へ。
閃光のような連撃。
鎧が砕ける。
赤い光が一点に集まる。
首元。
迷いはない。
一閃。
黒騎士の首が、宙を舞う。
巨体が崩れ落ちる。
同時に。
青い光が弾けた。
「……っ」
視界が揺れる。
力が、抜ける。
統合が解ける。
フェンと朔夜の姿が分かれる。
二人同時に、地面へ崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……」
息が荒い。
身体が動かない。
「立て……ない……」
朔夜も、横たわったまま息を整えている。
「……統合は……使うと……立てなくなるみたい……」
その瞬間。
視界に文字が浮かぶ。
《黒鎧の深層騎士 討伐しました》
続けて――
《第20階層 クリア》
《ダンジョン攻略完了》
フェンは天井を見上げる。
「……やった……」
小さく、笑う。
「クリア……した……」
だが、指一本動かせない。
朔夜も、静かに呼吸を繰り返していた。
静寂の中――
澄んだ音が響いた。
《レベルアップ》
光が弾け、フェンと朔夜の数値が上昇する。
続けて、玉座の前に二つの宝箱が出現した。
「……報酬か」
フェンは重い身体を引きずり、ひとつ目の宝箱を開ける。
中には、銀色のペンダント。
淡く光を帯びている。
ステータスを確認する。
《深層守護のペンダント》
A +120%
D +120%
「……強いな」
小さく呟く。
「これは……ルシアが似合いそうだ」
丁寧に仕舞う。
もうひとつの宝箱を開ける。
中には、黒い結晶の欠片。
鎧の破片のような、冷たい光。
《黒騎士のかけら》
フェンの目がわずかに鋭くなる。
「……かけらは嬉しい」
迷わず使用する。
黒い光が身体を包む。
《黒騎士の加護 獲得》
A +60%
D +30%
S +20%
さらに、視界に文字が浮かぶ。
《スキル獲得》
・影移動
・影牙閃
フェンの影が足元でゆらりと揺れる。
《影牙閃》
自らの影、および周囲の影を圧縮し、牙状に変換して射出する遠距離斬撃。
貫通性能あり。
影が濃いほど威力上昇。
フェンは手を軽く掲げる。
足元の影が細く伸びる。
一瞬、牙の形を成す黒い刃。
「……遠距離、か」
フェンは息を吐く。
「これで、また一段強くなった」
静かな達成感が胸に広がる。
だが、全身は鉛のように重い。
隣で横になったままの朔夜に視線を向ける。
「朔夜……もう少し休憩してから戻ろう」
朔夜はゆっくりと顔をこちらに向ける。
そして、小さく――
こくりと頷いた。
「……うん」
しばらくの間、二人はただ天井を見上げていた。
戦いの余韻と、重い疲労を抱えながら。




