編集者、御影朔夜と統合する
白く染まっていた視界が、ゆっくりと色を取り戻す。
光が収束する。
そこに立っていたのは――
黒髪の、長い髪を揺らす女性だった。
「……なに……これ……」
フェンの喉から、かすれた声が落ちる。
目の前の存在は、確かに“そこにいる”。
足は地に着き、衣服も揺れている。
幻影ではない。
女性はゆっくりと周囲を見渡した。
「……ここは……」
小さく、呟く。
フェンは反射的にステータス画面を開いた。
⸻
御影 朔夜
Lv1
HP 25
MP 50
A 14
D 9
MAT 34
MDF 25
S 50
スキル
・御影朔夜(フェンと共有)
鑑定・編集が可能
・統合(フェンと統合可能)
⸻
「……」
フェンの視線が止まる。
「彼女は……スキル……?」
思わず呟く。
統合。
その文字が引っかかる。
“フェンと統合可能”。
「僕と統合? どういう意味だ……?」
朔夜が、ゆっくりとフェンを見る。
黒い瞳が、わずかに揺れた。
「……あなた、フェンさんっていうのね」
声は静かだった。
「画面に、そう書いてある」
フェンは目を瞬く。
「……そっか。君も、ステータスを見られるんだね」
朔夜は、こくりと頷く。
「……ここは、どこ?」
「ダンジョンの中だよ」
フェンは短く答える。
「今からボス部屋に行こうとして、スキルを振った。……その時、君が現れた」
朔夜は小さく首を傾げる。
「……スキル……?」
言葉を確かめるように、繰り返す。
フェンは息を吐いた。
状況整理は後だ。
今は――目の前。
通路の奥から、重い気配が漂っている。
「とりあえず」
フェンは剣を握り直す。
「君はボス部屋の奥に隠れてて。僕が守るから」
朔夜は一瞬、フェンを見つめ――
静かに、こくりと頷いた。
第20階層――ボス部屋。
重厚な扉に手をかける。
ゆっくりと、押し開く。
軋む音が広間に響いた。
広い。
天井は高く、中央には玉座。
そして――
そこに、座していた。
全身を黒鎧で包んだ騎士。
顔は兜に覆われ、表情は見えない。
だが、視線だけは確かにこちらを捉えている。
フェンが一歩踏み入れた瞬間――
騎士が、ゆっくりと立ち上がった。
金属が擦れる重い音。
右手の大剣を振り、空気を裂く。
待ち構えている。
「朔夜……」
フェンは小声で言う。
「絶対に前に出ないで。扉の近くにいて」
朔夜は、こくりと頷いた。
フェンは前へ進む。
視界にステータスを展開する。
⸻
《黒鎧の深層騎士》
HP 28000
MP 26000
A 20000
D 16000
MAT 10000
MDF 12000
S 14000
⸻
「……」
息が止まる。
今までの比じゃない。
冷や汗が、頬を伝った。
次の瞬間――
騎士の影が揺れる。
消えた。
「――ッ!?」
気づいた時には目の前。
ガキンッ!!
剣と剣が激しくぶつかり合う。
衝撃で足元が軋む。
「……っ!」
鍔迫り合い。
フェンの腕が軋む。
「今の……全く見えなかった……!」
視界にスキル欄が浮かぶ。
《影移動》
「これか……!」
消したい。
だが――
フェンはSPを見る。
0。
「……くそ……!」
今は編集できない。
正攻法でやるしかない。
「鑑定……出番だな」
その瞬間。
――フェン、聞こえる?
頭の奥に、声。
「……?」
振り返る余裕はない。
――私……朔夜。
一瞬、思考が止まる。
――感覚が、共有できるみたい。
「共有……?」
騎士が再び影を揺らす。
来る。
――私の目を、使って。
フェンの視界が重なる。
一瞬、朔夜の視界が流れ込む。
彼女の瞳が青く光る。
その奥に、淡い魔法陣が浮かび上がった。
騎士の動きが、わずかに遅く見える。
違う。
“先”が見える。
右。
次は右に移動する。
フェンは迷わない。
右へ剣を振り抜く。
ギィンッ!!
そこに、騎士が現れる。
刃が鎧を捉えた。
火花が散る。
確かな手応え。
黒騎士が一歩、後退する。
フェンの口元がわずかに上がった。
「……見えた」
戦える。
騎士の動きが、線となって視界に残る。
これが――鑑定。
「ある程度、実力差があっても……」
視界の中で、黒騎士の胸元と喉元が淡く赤く光る。
急所。
「未来が読めて、急所が分かる……強い」
フェンは低く呟く。
「――疾牙転化」
足元が弾ける。
一瞬で間合いを詰める。
黒騎士がわずかに後退する。
フェンの剣が連続して閃く。
上段、下段、袈裟、突き。
黒騎士は必死に捌く。
金属音が連続して響く。
だが――
赤く光る一点へ。
ギィンッ!!
火花が散る。
鎧に、確かな亀裂。
もう一撃。
さらにもう一撃。
「……よし、これなら入る!」
黒騎士が大きく跳び、距離を取る。
いける。
押し切れる。
そう思った瞬間――
ぐらり、と視界が揺れた。
「……っ」
地面が歪む。
赤い光が、ぼやける。
「やば……」
こめかみが痛む。
息が荒い。
「この力……疲労が半端ない……」
その隙を、黒騎士は見逃さない。
影が揺れる。
次の瞬間、目の前。
ドンッ!!
重い一撃。
フェンは咄嗟に受けるが――
弾き飛ばされる。
壁へ激突。
石が砕ける。
「がっ……!」
地面に手をつく。
呼吸が乱れる。
「今ので……かなり喰らった……」
黒騎士が動く。
足元の影が伸びる。
影を伝い、背後へ。
「……!」
振り向く。
間に合わない。
斬撃。
血が舞う。
フェンは転がり、距離を取る。
視界に数字が浮かぶ。
20 → 250
ヒール。
だが、焼け石に水。
「くっ……このままじゃ……」
その時。
――フェン。
頭の奥に、朔夜の声。
「……?」
――今から、あなたの身体に私が入る。
「えっ……!?」
黒騎士が迫る。
「危ないから、僕に任せて!」
――私、あの騎士を倒せると思う。
一瞬の沈黙。
剣を握る手が震える。
「……わかった」
フェンは目を閉じる。
「なんだかよく分からないけど……君に賭けるしか、たぶん道はない」
朔夜の声が、わずかに柔らぐ。
――ありがとう。
《統合 発動》
青い光が弾ける。
朔夜の姿が、粒子となって崩れる。
吸い込まれるように、フェンへ。
強い閃光。
黒騎士が足を止める。
光が収まる。
そこに立っていたのは――
フェン。
だが、違う。
全身を淡い青のオーラが包んでいた。
続く




