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編集者と固有スキル「御影朔夜」

夜。


ベルナール家の塔の一室。


ルシアは窓辺に立ち、遠い闇を見つめていた。


「……フェン」


その名を、そっと零す。


三日。


たった三日。


それなのに胸の奥が、妙にざわつく。


背後で扉がノックされる。


「ルシア様。お食事のご用意が整いました」


「……分かったわ」



広間。


長い食卓の端と端。


ベルナール伯爵とルシア。


「どうだ、ルシア。久しぶりの我が家の味は」


「……おいしいわ」


答えは短い。


伯爵は肉を切りながら、視線を上げずに言う。


「気になるのか。あの男が」


ナイフの音が止まる。


「当たり前でしょう! 三日よ!? 三日も戻ってきてないの!」


「……三日、か」


伯爵はわずかに目を細めた。


「あそこはな。強者であっても、歩みを止める場所だ」


「特に――二十階層」


その名に、空気が少しだけ冷える。


「ボスは、甘くない」


ルシアは唇を噛む。


「フェンが死んだら……どうするのよ……」


伯爵は静かにグラスを置く。


「そんなに、あの男は頼りないか?」


「違う!」


即答だった。


言葉に詰まる。


「……そうじゃなくて……」


伯爵は小さく笑う。


「ならば信じてやれ」


「今のお前にできることは、それだけだ」


ルシアはフォークを持ち直す。


肉を口に入れた。


そして、


「……信じてるわよ」


そう小さく、言った。




第十三階層。


魔物の最後の一体が崩れ落ちる。


「……レベルが上がりました」


無機質な声。


フェンは肩で息をしながら、表示を確認する。


SP:4000


「……もう、こんなに溜まってるのか」


だが、すぐに表情が引き締まる。


「今のままじゃ……」


視界に浮かぶ、20階層の文字。


「あそこに行ったら、たぶん負ける」


断言だった。


速度はある。

火力もある。


だが――


“読めない”。


強者ほど、一瞬の判断が命取りになる。


フェンは編集画面を開く。


スクロール。


止まる。


【鑑定士】


必要SP:10000


指先が止まる。


ずっと、欲しかった。


相手の行動解析。

攻撃予測。

弱点抽出。


“読む力”。


回避性能の飛躍的向上。


「……そろそろ、必要だよな」


拳を握る。


「時間はかかる。でも」


視線を上げる。


「必ず、取る」



第十九階層を抜けた時、もう何体倒したか覚えていなかった。


血の匂いと焦げた石の匂いが混ざる。


「……はぁ……」


肩で息をする。


SPは増えている。

レベルも上がった。


だが、それ以上に体力の消耗が激しい。


何時間経った?


半日か。

それとも丸一日か。


時間の感覚が曖昧になる。


通路の先に、これまでとは違う空気が漂っていた。


重い。


静かすぎる。


壁の質感が変わる。


天井が高くなる。


足音が、やけに響く。


フェンは立ち止まった。


視界の端に表示が浮かぶ。


――第20階層


「……」


喉が、わずかに鳴る。


「どのくらい経ったんだろうな」


苦笑する。


「でも――」


前を見る。


「ここまで来た」


剣を握り直す。


「僕は、ついに……」


一歩、踏み出す。


「20階層に辿り着いた」


フェンがステータスを広げる。


Lv 43


HP 1980 / (1980)

MP 395 / (414)


A 3962(11886)

D 1675(2345)

MAT 1076(1722)

MDF 658(855)

S 4653(20008)


SP 13000


「……」


確実に強くなっている。


だが――


フェンはSPの表示を見つめる。


「13000……」


そして、静かに呟く。


「10000、貯まってるな」


指先でホログラムをスクロールする。


膨大なスキル一覧が流れていく。


止まる。


【鑑定士】


必要SP:10000


フェンの喉が、わずかに鳴る。


ずっと欲しかったスキル。


相手の行動解析。

攻撃予測。

弱点抽出。


“読む力”。


「……行くか」


選択。


すると視界中央に文字が浮かび上がる。


《10000SPを使用しますか?》


一瞬の静寂。


フェンは迷わない。


「はい」


光が弾ける。


SPが減少する感覚。


体の奥に、何かが流れ込む。


視界がわずかに鮮明になる。


空気の揺らぎ。

魔力の流れ。

微細な違和感。


そして――


スキル欄に、新たな文字が浮かび上がった。


【鑑定士 LV1】


フェンはゆっくりと息を吐く。


「……これで、ようやく」


フェンは表示を見つめる。


《編集者と鑑定士の統合が可能です》


《合成しますか?》


一瞬だけ、呼吸が止まる。


「……合成?」


眉をひそめる。


「どういうことだ……?」


編集者は書き換える力。

鑑定士は読み取る力。


統合――?


画面を確認するが、詳細説明はない。


《※統合後は元に戻せません》


フェンは目を細めた。


戻せない。


つまり――未知だ。


「……」


今のままでは足りない。


だが、賭けに出る価値はある。


ゆっくりと、指を伸ばす。


「……やるしかないか」


そして、迷いを振り切るように――


「はい」


次の瞬間――


ホログラムが激しく明滅した。


文字列が崩れ、再構築される。


視界が白く染まる。


SPが一気に消費される感覚。


空気が震えた。


光が、天井から降り注ぐ。


フェンは思わず腕で目を庇う。


その光の中心に――


“影”があった。


ゆっくりと、形を成す。


白い光の粒子が集まり、


一人の女性の輪郭を描いていく。


長い髪が揺れる。


静かな瞳。


足元が空間から切り離されたように、


まるで“降ってきた”かのように。


ホログラムが最後に表示を切り替える。


【固有スキル:御影(みかげ) 朔夜(さくや)


光が収束する。


フェンは息を呑んだ。


――目の前に、女性が立っていた。

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