編集者、アシストを解放する
薄暗い第五階層。
探索スキルを走らせながら歩くフェン。
その時。
――ドスン。
――ドスン。
重い振動。
空気が揺れる。
フェンが視線を上げる。
通路の奥。
巨大な影。
灰緑の皮膚。
肩幅だけで通路を塞ぐ巨体。
両手に持つ、刃こぼれした大斧。
⸻
【魔物名:断頭のグリムトロール】
【HP:15000】
【MP:120】
【A:15000】
【D:4000】
【MAT:100】
【MDF:4000】
【S:500】
【固有スキル:自己再生】
⸻
フェンの目が止まる。
(……自己再生)
厄介だ。
「……だが、速くはない」
トロールが走る。
ドスン、ドスン。
地面が軋む。
「神速」
姿が消える。
ズババババッ。
関節。首。脇腹。
連撃。
だが――
肉を裂いたはずの傷が、みるみる塞がる。
血が止まり、皮膚が繋がる。
(浅い……?)
違う。
硬い。
その瞬間。
視界の端に巨大な刃。
「――っ」
斧が振り下ろされる。
咄嗟に後退。
だが。
――ゴォンッ!
風圧。
衝撃波。
身体が吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
肺の空気が抜ける。
視界に表示。
【HP:1635 → 650】
(……風圧だけでこれか)
冷や汗が伝う。
トロールが地面を抉る。
岩塊を掴み、投げる。
フェン、横へ転がる。
爆音。
粉塵。
(神速は消耗が大きい……乱発は無理だ)
なら。
「牙走」
加速。
切り付ける。
Sが上昇。
さらに踏み込む。
数で押せば削れるはず。
だが。
トロールは怯まない。
斬られながら斧を振り回す。
痛覚が鈍い。
再生が追いつく。
(……決定打にならない)
呼吸が乱れる。
(……そうだ)
第四階層を抜けた時、編集者LV3の
表示だけは見ていた。
だが効果は確認していなかった。
今。
その余裕はない。
トロールが迫る。
地面が震える。
フェン、ステータスを開く。
【SP:2700】
新たな項目。
【アシストモード】
一瞬の逡巡。
押す。
――電子音。
《何かお困りですか?》
無機質な声。
フェン、低く呟く。
「この戦闘で、生存確率が最も高い構築は?」
一瞬の沈黙。
《解析中》
トロールの斧が振り上がる。
《推奨スキル:疾牙転化》
《消費SP:1500》
フェンの目が細まる。
十分だ。
「……分かった」
《実行しますか?》
「実行」
【SP:2700 → 1200】
光が奔る。
疾牙転化発動。
光が奔る。
フェンが踏み込む。
牙走。
一閃。
肉が裂ける。
トロールの再生が動く。
だが――
遅い。
(……塞がるのが、遅い?)
もう一撃。
Sがさらに上がる。
【連動強化 2/10】
斬撃が深くなる。
皮膚を裂き、筋肉を断つ。
トロールが初めて後退する。
「グォォォ……!」
斧が振り下ろされる。
だが。
フェンは、もうそこにいない。
【連動強化 5/10】
速度が増す。
攻撃が通る。
再生が追いつかない。
肉が裂けたまま、閉じきらない。
(いける)
さらに踏み込む。
【連動強化 9/10】
空気が軋む。
視界が白む。
筋肉が悲鳴を上げる。
そして――
【最大強化到達】
フェンが低く呟く。
「……転化」
魔力が一気に燃え上がる。
現在のS値が光に変わる。
【S ×2 → Aへ転換】
足元の石床が砕ける。
次の瞬間。
姿が消える。
否。
見えない。
時間が一瞬、遅れる。
トロールの背後。
フェンが立っていた。
剣を振り抜いた姿勢のまま。
静寂。
そして。
――ズズッ。
巨体が、ゆっくりと滑る。
縦に、割れる。
真っ二つ。
再生が始まる。
だが、追いつかない。
断面が光に焼かれ、崩れる。
轟音。
断頭のグリムトロール、崩壊。
その直後。
膝が落ちる。
「……はぁ……っ」
身体が動かない。
【疾牙転化】
・S上昇時、A+30%(最大10回)
・最終解放:現在S×2をAへ転換
・効果時間10秒
・終了後:強制疲労
【SP:1200】
フェンは、荒い呼吸を整えながら、倒れた巨体を見下ろした。
「……危なかった」
続く




