編集者と血翼の魔物
試練の間――第一階層。
フェンは、慎重に足を進めていた。
薄暗い通路。
石の床は一見すると何の変哲もない。
だが――
(……多すぎる)
探索スキルを起動した瞬間、視界が一変した。
床。
壁。
天井。
赤い点が、無数に浮かび上がる。
(……全部、罠……?)
一つや二つではない。
避けなければ進めないほどの密度。
踏めば終わる。
そう直感できるほどの、悪意に満ちた配置だった。
フェンは息を殺し、
赤点の隙間を縫うように歩く。
一歩。
また一歩。
その時――
バサッ、と。
頭上で、羽音が重なった。
「……っ!」
反射的に顔を上げる。
天井の影が、歪んだ。
次の瞬間――
黒い影が、一斉に飛び立つ。
現れたのは、コウモリ型の魔物。
小柄な体躯。
だが、異様な存在感。
血のように赤黒い翼を広げ、
鋭い眼光でフェンを捉えている。
十体。
視界の端に、情報が浮かび上がった。
⸻
【魔物名:ブラッドフラップ】
【HP:3000】
【MP:1000】
【A:3000】
【D:1000】
【MAT:2000】
【MDF:500】
【S:4000】
⸻
(……雑魚で、これかよ……)
思わず、喉が鳴る。
速度――4000。
今まで戦ってきた敵とは、桁が違う。
しかも、十体。
罠だらけの地形で、空中からの同時襲撃。
(……真正面からやったら、詰む)
ブラッドフラップたちは、甲高い鳴き声を上げ、
円を描くようにフェンを取り囲む。
狙っている。
踏み込めば、罠。
止まれば、空から切り裂かれる。
フェンは、ゆっくりと剣を構えた。
深く、息を吸う。
(……ここが、Aランク……)
背筋を、冷たい汗が伝う。
次の瞬間――
ブラッドフラップの一体が、口を大きく開いた。
ブシュッ、と。
「……っ!?」
赤黒い液体が、矢のように飛ぶ。
フェンは咄嗟に横へ跳んだ。
液体は床に落ち、じゅ、と音を立てて煙を上げる。
(毒……!?)
嫌な予感は、確信に変わった。
(こいつ……毒攻撃まで持ってるのかよ……!)
ブラッドフラップたちは、距離を保ったまま、空中を旋回する。
フェンは手を前に掲げて、
「――アイスブリザード!」
冷気が渦を巻き、空間を覆う。
氷の刃が、吹き荒れる嵐となってブラッドフラップを叩いた。
「キィィッ――!」
悲鳴。
翼が凍りつき、数体が高度を失う。
(……効いてる!)
止まった瞬間を、見逃さない。
「スリッド!」
鋭い一閃。
急所を正確に貫き、
三体のブラッドフラップが、断末魔と共に地面へ落ちた。
だが――まだ多い。
フェンはくるりと身体を翻す。
「疾走――!」
一気に距離を詰める。
続けて――
「牙走!」
加速した刃が、残像を引きながら空を切り裂く。
高速の連撃。
数体に、確かなダメージを与える。
――その瞬間。
「……ぐあっ!!」
背後から、衝撃。
鋭い牙が、肩に食い込んだ。
ブラッドフラップの噛みつき。
(速……っ!?)
身体が、ぐらりと揺れる。
視界の端に、数値が弾けた。
⸻
【HP:625 → 50】
⸻
(……一発で、ここまで……!)
血の気が引く。
フェンは無理やり距離を取り、膝をついた。
「……ヒール……!」
淡い光が、身体を包む。
⸻
【HP:50 → 300】
ブラッドフラップたちは、容赦なく迫ってくる。
フェンは歯を食いしばり、両手を広げた。
「……まとめて来い!」
「アイスブリザード――!」
再び、冷気が吹き荒れる。
さらに――
「ウィンドブラスト!」
暴風が、氷嵐を押し出すように加速させた。
凍りついた翼が砕け、
空中で制御を失った魔物たちが、次々と地面に叩きつけられる。
最後の一体が、甲高い悲鳴を上げ――
沈黙。
フェンは、その場に立ち尽くした。
荒い呼吸。
震える指。
(……雑魚で、これか……)
汗と血を拭い、剣を握り直す。
その瞬間――
視界の中央に、淡い光が浮かび上がった。
⸻
【レベルが上がりました】
フェンはその言葉と同時に、ステータスを開示した。
続く




