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編集者、旅の途中で

グランセル領主館・執務室。


分厚い資料の束を前に、男は静かに目を通していた。

エヴァン・ベルナール伯――グランセルを治める領主。


扉が乱暴に開かれる。


「伯爵様……!」


駆け込んできた家臣に、エヴァンは顔を上げることなく言った。


「騒々しいな。何事だ」


家臣は膝に手をつき、息を整えながら声を上げる。


「やっと……見つけました!」

「ルシアお嬢様の居場所です!」


その瞬間、ペンが止まった。


「……続けろ」


「エルナという街です」

「ただし――一日前、すでに街を出たとの報告が入りました」


短い沈黙。


エヴァンはゆっくりと立ち上がる。


「行き先は」


「不明です。ですが、北西へ向かった形跡が――」


「十分だ」


エヴァンは外套を手に取った。


「馬を出せ」

「私も行く」


「はっ……!?」


驚く家臣を置き去りに、エヴァンは扉へと向かう。


「娘を探しに行く」


森の小道をしばらく進んだところで、ルシアが大きく伸びをした。


「はぁ〜……疲れたー!」

「ちょっと休憩しよ!」


「分かったよ」


フェンは周囲を見回し、道の脇に倒れた丸太を見つける。


「ここでいいかな」


二人で並んで腰を下ろすと、フェンは収納魔法を展開した。


「はい」


取り出したのは、包みに入ったパンだ。


「ありがと!」


ルシアは受け取ると、すぐに一口かじる。


「……ん〜!」

「温かい! 美味しい! 生き返る〜!」


「言い過ぎだろ」


フェンは思わず笑った。


「でもさ、前から思ってたんだけど」

「収納魔法って、ほんと便利だよね」

「食べ物も出来立てみたいに出てくるし」


「中では時間が経たないらしいからね」


「ふ〜ん」


ルシアはそう言いながら、パンを食べ続ける。

その口元に、満足そうな笑みが浮かんだ。


(……ちょっと、可愛いかも)


そう思った、その時。


「きゃあ——っ!!」


森の奥から、悲鳴が響いた。


フェンは、即座に顔を上げる。


「今の……?」


「なに!?」


「行こう」


「うん!」


二人は同時に立ち上がり、声のした方へと駆け出した。



森の奥へと駆け込んだフェンたちの視界に、光景が飛び込んできた。


腰が引け、その場から動けずにいる一人の少女。

そして――その目前に立ちはだかる、巨大なクマ型の魔物。


低く唸り声を上げ、分厚い前脚を振り上げている。


「……っ!」


フェンは即座に鑑定を走らせた。


【名称:グラウベア】

【HP:1200】

【MP:20】

【A:550】

【D:200】

【MAT:50】

【MDF:100】

【S:300】


「……Dランクか」


その呟きと同時に、隣で金属音が鳴った。


ルシアが、すでに剣を抜いている。


「任せて!」


グラウベアの腕が、少女めがけて振り下ろされる。


だが――


ルシアは一歩、軽く踏み込むだけでそれをかわした。


次の瞬間。


閃光のような一閃。


重い音を立てて、魔物の巨体が崩れ落ちる。

首は、綺麗に真っ二つに断たれていた。


「……討伐完了、っと」


剣を収めるルシアの背後で、少女は呆然と立ち尽くしていた。


フェンは一歩前に出る。


「大丈夫?」

「怪我はない?」


少女ははっとしたように我に返り、慌てて頭を下げた。


「……あ、ありがとうございました」

「助けてくれて……本当に」


そう言って顔を上げ、二人を見つめる。


フェンとルシアは、その視線を静かに受け止めていた。





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