表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/71

編集者とそれぞれの選択 

――三日後


エルナの街・冒険者ギルド入口前。


朝の光が、石造りの建物の壁を淡く照らしていた。

行き交う冒険者たちの足音と話し声が、いつもと変わらず響いている。


その入口の前で――

フェンは、ヴァルドたちのパーティと向かい合っていた。


「……もう、行くんだね」


フェンの言葉に、ヴァルドは短く息を吐いた。


「ああ」


そう答えた後、少しだけ視線を逸らす。


「俺はな……」

「無断で危険なAランクダンジョンに入った。それだけじゃない」

「帰還石の使い方を誤って、結果的に――ケルベロスを呼び寄せた」


淡々とした口調だった。


「その責任で、冒険者ライセンスは剥奪」

「エルナの街からも、追放だ」


それを聞いても、フェンは何も言わない。

ただ、静かに耳を傾けていた。


ヴァルドは一度言葉を切り、続ける。


「……だがな」

「正直、納得いかないことがある」


呆れた表情で前を向く


「なぜ、お前たちまでライセンスを剥奪されることになった?」


その問いに――

後ろにいたロルフが、にっと笑った。


「いいじゃねえか」

「俺たちにも非はあるんだしよ!」


あっけらかんとした声だった。


ヴァルドは、ため息をつき、頭を掻く。


「俺がギルドに土下座までして」

「お前たちのライセンスだけは残してもらえるようにしたってのに……」


視線を向ける。


「こいつらと来たら、自分から返納しやがった」


ミリアが、少し困ったように笑う。


「だって……」

「なんだかんだ言って、ヴァルドがいないと、私つまらないし」


それに続くように、セリスも静かに頷いた。


「ヴァルドが行くところなら」

「私たちは、どこへでも行きます」


その言葉に、ヴァルドは一瞬だけ目を閉じ――

そして、何も言わずに前を向いた。


少しの沈黙の後、ヴァルドがフェンを見て、ふっと笑う。


「フェン……」

「お前、強くなったな」


肩をすくめるように言った。


「役立たずだったお前が、今じゃエルナの英雄だ」

「……世の中、分からねえもんだな」


フェンは、少し困ったように視線を逸らす。


「そ、そんな……」

「英雄だなんて……」


照れたように言葉を濁すフェンに、

ヴァルドは何も言わず、一歩近づいた。


そして――

ぽん、と軽くフェンの頭に手を置く。


「……フェン」

「すまなかった」


その声は、今までで一番低く、静かだった。


「お前には、悲しい思いをさせた」

「守るべき仲間だったのに……な」


一度、言葉を切り。


「だから――」

「俺たちが叶えられなかった夢を、お前に託したい」


フェンの目を見る。


「Sランク冒険者だ」

「それに、なってくれ」


フェンは、何も言わず――

ただ、静かに頷いた。


その瞬間。


「フェン……!」


ミリアが、ぎゅっと抱きつく。


「本当にごめんね……」

「それに、助けてくれて……ありがとう」


反対側から、セリスもそっと腕を回す。


「あなたが来てくれなかったら……」

「私たちは、きっと終わっていました」


フェンは、二人を受け止めたまま、

小さく、もう一度頷いた。


「……うん」


最後に、ロルフが前に出る。


「フェン」

「俺たちは、どこか旅に出る」


そう言って、背中をぽんと叩く。


「もし、また会えたらさ」

「その時は、一緒に飲もうぜ」


フェンは、涙を浮かべながら――

それでも、笑って頷いた。


「……うん」


「じゃあな」


ヴァルドたちは、そう言って手を振り、

ゆっくりと歩き出した。


その背中を見送りながら――

フェンの胸に、いくつもの光景がよみがえる。


怒鳴られた言葉。

無茶をするロルフを止めた日々。

ミリアとセリスの喧嘩の仲裁。

必死に考え、走り回っても、役に立てなかった時間。


大変だった。

苦しかった。


――追放されたパーティだった。


それでも。


(……みんな、僕のことを思ってくれてたんだ)


その事実が、胸に重くのしかかる。


フェンは、立ち尽くしたまま――

静かに、涙をこぼした。



翌日


エルナ冒険者ギルド。


朝のギルドは、いつも以上に賑わっていた。


カウンター前に立つフェンとルシアを見て、

受付嬢が少し緊張したように背筋を伸ばす。


「フェン君、ルシアちゃん」

「本日付で、お二人は――Cランク冒険者に昇格です」


一瞬の静寂。


次の瞬間――

周囲から、歓声と拍手が上がった。


「おめでとう!」

「やったな!」

「さすがだ!」


祝福の声が、次々と飛ぶ。


フェンは、少し戸惑いながらも――

隣のルシアと顔を見合わせ、頷いた。


「……ありがとうございます」


ひと通り落ち着いた後、

フェンは受付嬢に向き直る。


「一つ、相談があります」


そして、静かに告げた。


「リィナの病気を治すために――

《命脈の深根洞》《翠心樹海》《静命の霧庭》の三つのダンジョンに行きたいんです。


受付嬢は、驚いたように目を見開き――

すぐに、申し訳なさそうに首を振った。


「……すみません」

「どれも、エルナの近くには存在しないダンジョンです」


一枚ずつ指で示しながら、続ける。


「《命脈の深根洞》は、北西にあるドゥーラ鉱都の地下です」

「古い鉱山跡が、そのままダンジョン化した場所ですね」


次に、別の書類へ視線を移す。


「《翠心樹海》は、東のリーフェル森林都市の外縁部」

「樹海そのものが危険区域で、街の人間でも深くは入りません」


最後に、少し声を落とした。


「《静命の霧庭》は……南のミストラ水上都市」

「湖の奥、常に霧に包まれた場所です」


受付嬢は顔を上げ、フェンを見る。


「場所は分かっています」

「ですが……どれも、簡単に行けるダンジョンではあないということと、全てがBランク以上となります。」


フェンは、少し考え――

そして、穏やかに答えた。


「それでも僕たちは行きます。」


ルシアも強くうなづいた。



受付嬢は、一瞬だけ驚き――

やがて、柔らかく微笑んだ。


「……あなたたちならそういうと思いました。」

「フェン君、ルシアちゃん頑張ってください」



「ギルドは――」

「エルナは、いつでもあなたたちの帰りを待っています」


フェンは、深く頭を下げる。


「ありがとうございます」


ギルドを後にしながら、

フェンとルシアは並んで歩き出す。


三つのダンジョンを探す旅。


――それは、

リィナの命を繋ぐ旅の始まりだった。



        1部 完

第一部完結となります。


第二部は【明日6時】より投稿開始予定です。

新たな旅の始まりを、楽しみにお待ちください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ