決着
エルナの街――入口前。
崩れた防壁の瓦礫の傍で、
ヴァルドは、血に濡れた身体を引きずるようにして立っていた。
呼吸は荒く、剣を支える腕は震えている。
その視界の端に――
二つの影が映った。
「……フェン……?」
掠れた声が漏れる。
「……なぜ……ここに……」
フェンは、答えずに歩み寄った。
その隣には、剣と盾を構えたルシアが立っている。
目の前。
三つの頭を持つ黒き獣――
ケルベロスが、悠然とこちらを見下ろしていた。
低く、喉を鳴らす。
「グルル……」
ヴァルドは、苦しそうに笑った。
「……勘違いするな……」
「俺とお前は……もう、仲間じゃない……」
フェンは、一瞬だけ目を伏せ――
そして、短く答えた。
「……わかってる」
それだけだった。
フェンは視線をケルベロスへ向ける。
視界に、数値が浮かび上がった。
⸻
【ケルベロス】
HP:5000
MP:1200
A:2000
D:3000
MAT:900
MDF:1000
S:6000
⸻
……速い。
いや――
速すぎる。
フェンは、静かに息を吐いた。
次の瞬間。
ヴァルドの身体に、淡い光が宿る。
「……っ!?」
傷が塞がり、荒れていた呼吸が整っていく。
「……な……」
「お前……ヒール……使えたのか……?」
フェンは頷いた。
「うん」
そして、付け足すように言う。
「……僕の能力は“編集者”だ」
「ステータスを見るだけじゃない。書き換えることもできる」
「それで……覚えた」
ヴァルドは、言葉を失った。
だが――
それ以上を聞く暇はない。
フェンは、即座に指示を出した。
「僕が惹きつける」
「ヴァルド、隙が出たら防御を削る攻撃を」
「ルシアは――」
「ブレイクスラッシュを、当てられる瞬間だけ狙って」
「……おい……!」
ヴァルドが何か言いかけた、その時。
「分かった!」
ルシアが、迷いなく答えた。
次の瞬間。
フェンの姿が――
消えた。
「……っ!?」
ケルベロスの三つの頭が、同時に動く。
だが――遅い。
黒い体躯の目前。
空気を裂く音とともに、フェンが現れる。
「――っ!」
鋭い一撃。
刃が、確かに肉を裂いた。
「ギャアァァッ!!」
ケルベロスが、悲鳴を上げる。
草原に、怒号のような咆哮が響き渡った。
ヴァルドは、目を見開いたまま――
その光景を、ただ見つめていた。
(……なんだ……あれは……)
(本当に――
あの“フェン”なのか……?)
ケルベロスが大きく身を沈めた、次の瞬間。
フェンの足元が――弾けた。
「――疾走」
地面を蹴った音が、一拍遅れて響く。
フェンの姿は、完全に視界から消えていた。
「……っ!」
ケルベロスの三つの頭が、同時に振り向く。
「――牙走!」
フェンは、黒い体躯の側面に出現するように現れ、
一気に距離を詰め、そのまま斬り抜けた。
ザンッ――!!
硬い感触。
だが、確かに通る。
「ギャアァッ!!」
ケルベロスが怒号を上げ、地面を蹴り砕く。
直後――
中央の口が、大きく開いた。
「……まずいな」
巨大な火の玉が、圧縮される。
――業火・集束。
次の瞬間、
放たれた火球は空中で弾け、無数の小さな火の玉となって降り注いだ。
フェンは即座に跳び、走り、避ける。
だが――
その一瞬の隙を、ケルベロスは見逃さなかった。
気づいた時には、もう目の前。
三つの顎が、大きく開く。
「――っ!?」
ガチンッ!!
噛み砕かれたのは――
フェンの残像だった。
「いまだ!」
フェンの声に――
「任せろ!!」
瓦礫の向こうから、ヴァルドが吼えた。
その声に合わせて、
「うん!!」
ルシアが、迷いなく踏み込む。
二人同時。
「――ブレイクスラッシュ!!」
二つの剣が、一直線に振り抜かれる。
だが――
ケルベロスは即座に反応した。
膝をつきながらも、
巨体を強引に捻り、体勢を立て直す。
三つの頭が同時に動き、
攻撃を――避けようとする。
「……させない」
その瞬間。
フェンは、空中で指を鳴らした。
「――ロックバインド!」
地面が割れ、
岩の鎖が噴き上がる。
脚を、胴を――
逃げ場ごと、絡め取った。
「ギャッ――!?」
動きが、完全に止まる。
次の瞬間。
避けきれなかったブレイクスラッシュが――
真正面から、叩き込まれた。
ドンッ!!
衝撃が走り、巨体が大きく揺れる。
ケルベロスは呻き声を上げながら――
再び、前脚を折って膝をついた。
「二人とも――最大火力で」
「うん!」
ルシアが、剣を上に突き出す。
白い光が走り、
次の瞬間、赤い炎が弾けた。
「――ホーリー・ブレイズ!!」
聖光を纏った炎が、一直線に叩き込まれる。
「ギャアァァッ!!」
ケルベロスの巨体が、炎に包まれた。
その横で――
ヴァルドが、剣を強く握り締める。
「……終わらせる」
剣身に、圧縮された力が集まっていく。
「――バースト・ブレイカー!!」
踏み込み、一気に距離を詰め――
全身の力を乗せて、振り抜いた。
ズバァァンッ!!
衝撃が爆ぜ、
ケルベロスの巨体が大きく仰け反る。
三つの頭が同時に地面へ叩きつけられ――
ドォン……。
重たい音を立てて、
ケルベロスは完全に崩れ落ちた。
ルシアが、肩で息をしながら言う。
「……倒した?」
フェンは、ステータスを一瞥し――
頷く。
「うん。討伐完了した」
ヴァルドは、剣を下ろし、短く息を吐いた。
「本当に終わったのか……」
エルナの街に、
ゆっくりと静寂が戻っていった。
続く




