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編集者、助けにいく

地面に横たわるロルフの身体を一瞥し、

フェンは、静かに立ち尽くしていた。


ヴァルドに投げつけられた言葉が、胸の奥に引っかかっている。


――お前は、俺たちのパーティじゃない。


フェンは、ほんの一瞬だけ目を伏せ――

それから、すっと顔を上げた。


そして、歩き出す。


「……フェン?」


ミリアが、不安そうに声をかける。


「どこに行くの……?」


フェンは立ち止まらない。


「ヴァルドを、助けに行く」


その言葉に、ミリアの表情が強張った。


「無茶よ!!

 相手はAランクの魔物なのよ!

 Eランクダンジョンの魔物とは、比べ物にならないわ!」


必死に叫ぶミリアに、フェンは一度だけ振り返った。


「……分かってる」


それでも、足は止まらない。


「いくら“足手まとい”って言われても――

 僕は、仲間だった人のピンチを、見過ごすわけにはいかない」


静かな声だった。

だが、そこに迷いはなかった。


「それに……僕は、強くなった」


フェンは、まっすぐ前を見据える。


「ケルベロスは――

 止めてみせる」


その背中を見て、ミリアは息を呑んだ。


――あの頃のフェンじゃない。


そう、はっきりと分かった。


「……フェン……!」


唇を噛みしめ、

ミリアは、ついに膝をついた。


「お願い……助けて……!

 フェン、助けてください……!」


涙声で、縋るように叫ぶ。


フェンは歩みを止め、静かに言った。


「ミリア、セリス。

 ロルフを安静にしてあげて」


「そのあと、ギルドへ行って。

 ケルベロスと戦える人を、できるだけ集めてほしい」


「僕とルシアで――時間を稼ぐ」


短く、的確な指示だった。


フェンは、二人の方を振り返り、

穏やかに微笑む。


「大丈夫。

 ……何もかも、上手くいく」


そして、隣に立つ少女に声をかける。


「ルシア、行こう」


「うん! 分かった!」


ルシアは力強く頷き、

二人は同時に駆け出した。


エルナの街、その入口近く。


広がる草原を――

一体の魔物が、ゆっくりと歩いてきていた。


三つの頭。

黒い体躯。

足取りは悠然としており、焦りは一切ない。


――ケルベロス。


「……来たか……!」


駆けつけたヴァルドが、剣を構える。


「おい! ケルベロス!!

 お前の相手は――この俺だ!!」


ケルベロスは足を止め、低く唸った。


「グルル……」


そして――

三つの口元が、歪む。


まるで、獲物を見つけたかのように。


ヴァルドは唾を飲み込み、冷や汗を流しながら剣を握り直す。


「……行くぞ!」


踏み込み、剣を振る。


「エア・スラッシュ!!」


空を裂く斬撃が、一直線に飛ぶ――

だが。


ケルベロスは、軽く身をずらした。


斬撃は空を切り、地面を抉る。


「……チッ!」


ヴァルドは舌打ちし、動きを観察する。


次の瞬間。


三つの口が、大きく開いた。


――業火。


灼熱の炎が、一直線に吐き出される。


「くっ……!」


横に飛び退いた、その瞬間だった。


――近い。


気づいた時には、ケルベロスはもう目の前にいた。


「なっ――!?」


巨大な前足が、ヴァルドを薙ぎ払う。


「がぁっ!!」


血を吐きながら、吹き飛ばされる。


その身体は、エルナ入口の防壁に叩きつけられ――

壁が、轟音とともに崩れ落ちた。


「ぐ……ぁ……!」


追い討ちのように、再び業火。


「がぁぁぁっ!!」


炎に包まれ、ヴァルドは地面に転がる。


それでも――

震える足で、立ち上がった。


剣を構える。


視界は、ぼやけている。


ケルベロスは、楽しそうに笑った。


一瞬で距離を詰める。


巨大な前足が、振り上げられ――

踏み潰そうとした、その瞬間。


「――アイスブリザード!!」


氷の吹雪が、叩きつけられた。


「ギャアァァッ!!」


悲鳴とともに、動きが止まる。


次の瞬間。


ルシアが跳び、全力で蹴り飛ばす。


ケルベロスの巨体が、草原を転がっていった。


ヴァルドは、霞む視界の中で――

前に立つ二つの影を見る。


一人は、静かに立つ青年。

もう一人は、剣と盾を構えた少女だった



          続く


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