編集者と街に迫る災厄
地面に横たわるロルフの身体は、微かに上下していた。
だが――弱い。
セリスが必死に回復魔法を流し込み続けているが、傷は塞がらず、血だけが滲み続けている。
「……なんで……効かないの……!」
焦った声で、セリスが叫ぶ。
フェンは、ロルフの傍に駆け寄り、その状態を確認した。
「フェン?どうしてあなたが……」
セリスが驚いた表情でフェンを見る
視界に浮かぶ数値。
【HP:200/2000】
【状態異常:出血】
「……出血、か」
フェンが低く呟く。
「出血状態は、体力が勝手に削られ続ける。
それに――回復魔法も、効きにくくなる」
次の瞬間、編集画面を展開する。
――状態異常:出血。
それを、選択し、削除。
SPが一気に削れた。
【SP:2500 → 1500】
空気が、わずかに震える。
そして。
ロルフの顔色が、みるみるうちに戻っていった。
浅かった呼吸が、ゆっくりと深くなる。
「……っ!」
セリスが、目を見開く。
「よかった……!
効いてる……効いてるみたい……!」
その場にいた誰もが、安堵の息を漏らした。
フェンは立ち上がり、周囲を見回す。
「……みんな、大丈夫?」
「フェン……!」
ミリアが、涙を浮かべたまま駆け寄ってくる。
「久しぶりね……!
元気にしてたのね……!」
「本当に……よかった……」
セリスも、力なく笑った。
だが。
ヴァルドだけは、何も言わず、黙って立っていた。
視線は伏せられ、表情は硬い。
フェンは、少し躊躇いながらも口を開く。
「……なんで、こんなことに。
みんな、ボロボロじゃないか」
ミリアが、唇を噛みしめて答える。
「Aランクダンジョンに……挑んだの。
負けて、撤退してきたのよ……」
「……どうして」
フェンの声が、自然と強くなる。
「そんな無茶を……」
「それは――」
セリスが、言いかけた、その時。
「セリス!!」
ヴァルドの怒声が響いた。
セリスが、びくりと肩を震わせる。
ヴァルドは一歩前に出て、フェンの前に立った。
ちょうどその時だった。
「フェン!」
遠くから、ルシアの声が飛んでくる。
駆け寄ってくる彼女を横目に、ヴァルドが低く言い放つ。
「……お前は、俺たちのパーティじゃない。
いらん心配をするな」
「ちょっと!」
ルシアが、食ってかかる。
「どこの誰か知らないけど、
フェンはあんたのこと心配してるのよ!
そんな言い方、ないんじゃない?」
ヴァルドは、鋭くルシアを睨んだ。
「……お前、フェンの仲間か?」
そして、吐き捨てるように続ける。
「フェンと一緒にいても、足手まといになるだけだろう」
「そんなことない!」
ルシアが、即座に否定した。
「フェンのおかげで、
Cランク試験のためのダンジョン、クリアしたんだから!」
「……ヴァルド!」
ミリアが、慌てて間に入る。
「もう、やめて……!」
ヴァルドは、鼻で笑い――
「ふん」
そう言って、そっぽを向いた。
その時だった。
「大変だ!!」
一人の街人が、必死の形相で走ってくる。
「どうした!?」
別の男が声を上げる。
「ケルベロスが……!
街の方に向かってきてる!!」
ざわっ、と周囲が凍りついた。
「なっ……!?
それって……Aランクの魔物じゃないか……!」
ヴァルドが、歯を食いしばる。
「……くそっ」
そして、踵を返し、走り出した。
「ヴァルド!?
どこに行くの!?」
セリスの声に、ヴァルドは叫び返す。
「決まってるだろ!
あのケルベロスは……
おそらく俺たちが帰還石を使った時に、一緒に来た個体だ!」
「セリス、ミリア!
お前たちはロルフを見ていろ!
俺が……ケルベロスを倒しに行く!」
「ヴァルド!!」
ミリアが叫ぶ。
「あなた一人で、何ができるのよ!
私も行く!」
「ミリア!!」
ヴァルドが、振り返らずに怒鳴った。
「リーダーの命令が、聞けないのか!!」
ミリアが、びくりと立ち尽くす。
ヴァルドは、背を向けたまま、静かな声で言った。
「……これは、俺の失態なんだ。
お前まで、死にに行く必要はない」
「……お前たちは、生きてくれ」
そう言い残し、ヴァルドは走り出す。
フェンは、思わず一歩踏み出しかけ――言葉を失った。
「ヴァルド!!」
ミリアの叫びが、街に響いた。
続く




